皆さんご存じのように、平昌オリンピック、羽生結弦は右足の故障が治りきっていない状態で出場し、金メダルを獲得しました。そして、重い肩の荷を下ろした試合後、平昌の特設スタジオから放送されていたテレビの特番で、くりぃむしちゅーの上田晋也氏からの、
「正直、そんなにいい状態ではなかったわけでしょう?」
という質問が終わるか終わらないかのうちに、
「いい状態ではないです」
と答え、
「いつごろ『よっしゃ、間に合った』と思いました?」
という質問には、
「間に合ったとは一個も思ってないですね」
と即答していました。
この言葉を、「試合前のボルテージを高めていかなくてはいけないタイミング」で表現すると、仁川空港での囲み取材の、
「どの選手よりも、ピークまでもっていける伸びしろがたくさんある選手のひとりだと思っている」
になるのだ、と改めて感じ入っていたのです。
どの選手も、平昌入りの段階では80%から90%は仕上げてきて、試合で100%になるようにピーキングしていく……。なんとなくですが、私はそういうイメージを持っています。つまり、「伸びしろ」は10~20%。対して羽生結弦は、平昌入りの段階では、もしかしたら、よくて30%の状態だったのではないか、と。それを、試合前は自分のテンションを下げないために、
「伸びしろがたくさんある」
と表現したのではないか、と思うのです。
そんな羽生が、今回ははっきりと「大丈夫です」と言いました。だったら、本当に大丈夫なのだろう……。私はその言葉に、心から安堵していたのです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。