特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第6回

いよいよ世界選手権開幕! 羽生結弦が言えた「あの言葉」に高まる期待

高山真
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 オリンピック連覇を果たしたスケーターは、私がフィギュアスケートを見始めた1980年以降は、女子シングルのカタリナ・ヴィット、アイスダンスのオクサナ・グリシュク&エフゲニー・プラトフ、そして男子シングルの羽生結弦だけです。

「2度のオリンピック優勝を果たしたスケーター」と枠を広げても、ペアスケーティングのエカテリーナ・ゴルデーワ&セルゲイ・グリンコフ、アイスダンスのテッサ・ヴァーチュ&スコット・モイアーだけです。

 そして、2度目のオリンピック優勝を果たした次のシーズン、競技スケーターとしての活動を続けてくれているのは、羽生結弦だけです。

「オリンピックで金メダルを獲ることだけが素晴らしいことである」などとは、これっぽっちも思っていません。そうではなく、

「競技の世界にいてくれること。そのこと自体が、すでに前人未到」

 という選手の歩みを、私はいま見せてもらっているんだなあ、と感謝するばかりである……。そういうことが言いたいのです。

 誰も歩いたことがない場所を歩いている羽生結弦に対して、私が望んでいることは、

「誰よりも羽生自身が納得できる競技生活を送ってほしい」

 ということのみです。と言いますか、

「羽生結弦が納得している道は、観客である私にとって『いままで見たことのない、感じたことのない、新しい興奮や新しい幸福』に満ちている」

 という、確信に近い思いがあります。

 

 拙著『羽生結弦は捧げていく』でも書いていますが、すでに今シーズンのグランプリシリーズ、ロシア杯のショートプログラムや、フィンランド大会のフリーで、それを見せてもらったと思っています。

 今回の世界選手権で、また新しい「何か」、いままで受け取ってきたもの以上の「何か」を見せてもらえるかもしれない。その可能性に、本当に心が躍っているのです。

 世界選手権の期間中、私は自分の見たもの感じたことを、できる限り書き記していきたいと思っています。もし、その思いを共有してくださる読者の方がひとりでもいるのなら、それは私にとってこのうえない幸福です。

 

追記

 昨年の4月の終わりに肝臓がんの切除の開腹手術をして、そろそろ1年が経ちます。手術後ももちろんさまざまな治療、ケアをおこなっていますが、1年前には想像もしていなかったほど各種数値が改善され、自分でもはっきり感じられるほど体調も上向きつつあります。

 体力を少しずつ戻すため、週に数度、30分弱のウォーキング(というか、のんびりしたお散歩)を続けているのですが、梅や沈丁花が咲いているところで足を止めて、その美しさや香りを味わったりもしています。それも、体力的にも気持ち的にも余裕が生まれたからこそできることだなあ、と。

 告知を受けたのが2015年の夏ですから、そろそろ病との付き合いも4年。「撃退できたかな」と思ってもすぐにつかまってしまう、いたちごっこのような日々に、最初のころは精神的な疲れも大きかった覚えがあります。最近になってようやく、いい距離感で向き合えるようになったのも本当に嬉しい。

 

 自分よりはるかに若いスケーターたちが、それぞれに体のコンディションと向き合いながら、それぞれに高みを目指している。そのこと自体が、私にとっては尊敬の対象です。その敬意を忘れずに、自分の仕事に向き合っていこうと思っています。

 今後もこのエッセイを何かの機会に思い出してお読みいただけたら望外の喜びです。

 

 

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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