特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第7回

『羽生結弦は捧げていく』高山真が見た、フィギュアスケート世界選手権1日目

高山真
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 フィギュアスケートの世界選手権が開幕しました。大会をじっくり振り返って文章にまとめるのは後日させていただくとして、すべての競技が終わるまで、毎日、特に心に残った選手の演技を、短くではありますが振り返りたいと思います。

 

◆ペアスケーティング/ショートプログラム

 ウェンジン・スイ(隋文静)&ツォン・ハン(韓聡)は、日本では「スイハン」という呼び名で愛されている、平昌オリンピックの銀メダリストペア。平昌後、スイの右足の疲労骨折が判明し、長い療養生活を強いられました。

 男性のハンは、欧米のペアの男性スケーターと比べて、というよりも、中国国内のペアの男性スケーターと比べても、明らかに体格にハンデがありますが、いつもいつも、

「この小さな体のどこに、これだけのパワーとスピードがあるのか」

 と不思議に思うほどです。

 特に、ツイストリフト(男性が上方向に女性を高く投げ、女性が空中で回転し、女性を再びキャッチする技)は絶品。ハンの体のどこにも力が入っていないように見えるのです。ツイストリフトでは、女性を投げる直前までコネクティングステップを細かく入れているため、なんのタメもなく、スッと雄大な技に入っている。会場から大きなどよめきが上がりました。

 少々逆説的な表現になるかもしれませんが、

「力があることを感じさせない、力」

 という凄みを、スイハンからはいつも感じます。その凄みがあるからこそ、演技全体から「パッションと清らかさ」という、相反する要素を同時に醸し出すことができるのかもしれません。

 ペアのショートプログラムでこの日初めて起こったスタンディングオベーションは、スイハンに対するものでした。心から納得です。

 

 そして、エフゲニア・タラソワ&ウラジーミル・モロゾフ。日本のファンには「タラモロ」と呼ばれているペアです。ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』で演技をおこないました。冒頭のツイストリフトの高さ、鮮やかさには、思わず小さな声が出てしまったほどです。

 技に入る前のムーヴやトランジションも非常に繊細なデザインだと思います。個人的にはデスドロップ前、

「タラソワの頭を支えるように技に入っていき、それがいつの間にか、お互いの手をホールドしていく態勢になっている」

 という部分が特に好きです。手でのホールドよりもはるかに不安定な態勢でも、タラソワのエッジがまったくブレていないのは、ただただうなるばかりでした。

 非常に密度の高い、練り上げられたプログラム。演技後に会場全員が総立ちになったタラモロとスイハンが、ショートプログラムを終わって1位2位。フリーも本当に楽しみです。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

関連書籍

羽生結弦は捧げていく

プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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『羽生結弦は捧げていく』高山真が見た、フィギュアスケート世界選手権1日目

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