「それから」の大阪 第11回

緊急事態宣言明けの西成をゆく、ちんどん行列

スズキナオ

大阪市中央区、地下鉄の谷町六丁目駅からほど近い場所に「ちんどん通信社」の事務所がある。太鼓や(かね)を鳴らしながら町を歩く「ちんどん屋」を派遣しているらしい。私がその事務所の前を初めて通りかかったのは数年前のことだったが、その時は失礼ながら「ちんどん屋さんってまだ残っているんだな」と意外に思いながら通り過ぎただけだった。

しかし最近になって、私の友人がその関係者だとわかり、ちんどん通信社が関西を代表するちんどん屋であること、代表の林幸治郎さんを中心に今なおさかんに活動中であることなどを聞いた。活動範囲は関西圏に留まらず、海外に招聘されて実演することもあるという。ただ、2020年の春以降は新型コロナウイルスの影響を大きく受け、これからの時代に応じたスタイルを模索しているところでもあるそうだ。路上を練り歩きながらの宣伝活動をなりわいとする、いわば“町歩きのプロ”に今の大阪について話を伺いたいと思い、取材を申し込んだ。

大阪市中央区にある「ちんどん通信社」の事務所(2021年6月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちんどん通信社は1984年に旗揚げされたちんどん屋だ。その代表を務める林幸治郎さんは1956年生まれ。福岡県福岡市の金物問屋の三男として育ち、1977年に京都の立命館大学に入学。音楽好きで、特にニューオリンズ発祥のディキシーランドジャズに心酔していた林さんは、大学の軽音楽部に入部する。その時、部内でたまたま欠員が出ていたことを理由にトランペットを手にすることになった。練習を繰り返してもなかなか思うように吹けない日々が続いたが、そんなある日、下宿先のアパートの2階で昼寝をしていると、すぐ近くをちんどん屋が通っていった。太鼓と鉦の音に混じってトランペットの音色も聞こえ、「日本にこんな音楽があったのか」と衝撃を受けたという。ジャズはどこまで行っても日本人の手の届かない音楽に思えたが、ちんどん屋の演奏には海外の真似事ではない土着的なオリジナリティを感じた。慌てて窓から身を乗り出すと、ちんどん屋の一行が「大売出し」の旗を掲げて遠くへ消えていくのが見えた。

早速ちんどん屋について情報収集を始めた林さんは、富山県で1955年から「全日本チンドンコンクール」という、文字通り日本各地からちんどん屋が集まるイベントが開催されているらしいと知った。現地へ趣き、改めてその演奏、出で立ちや動きに魅了されると、京都に戻って鴨川のほとりで友人たちと見よう見まねの練習を始める。すると通りかかった人にその物珍しさから近くの商店街での宣伝を依頼され、町を歩きながら演奏する難しさと楽しみを知った。

大学卒業後の進路に悩んだ末、林さんは、大阪にあった「青空宣伝社」に住み込みで働き始めることになる。青空宣伝社はちんどん屋の派遣を始め、アドバルーン、紅白幕や抽選機の貸し出しなど、街頭で行う宣伝活動を一手に引き受ける会社だった。トランペットが吹けた林さんは徐々にちんどん屋部隊の主要メンバーとして活躍するようになり、後に独立することになる。そうして立ち上げたのが前述のちんどん通信社である。

林さんはちんどん界のニューカマーとして次第に注目を集めるようになり、マスコミからの取材や執筆活動を通じて、ちんどん通信社の名が世に広まっていくことになった。

ちんどん通信社の代表・林幸治郎さんには著作も多い(2021年6月撮影)

 

 

ちんどん通信社は関西を代表するちんどん屋として認知されるようになっただけでなく、海外公演を通じて日本のちんどん文化を広くアピールする存在にもなっていく。町の中で行われる宣伝活動から日本各地での様々な催し、ワールドワイドな舞台まで、年に平均して1,000件もの仕事を請け負う多忙な日々の中、何枚ものCDをリリースしてちんどん屋が奏でる音楽を保存・普及することにも努めてきた。

ちんどん通信社関連のCDも多数リリースされている(2021年6月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
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