対談

いま貧困問題は何を伝えるべきか~地方都市×シングルマザー part.2~

坂爪真吾×湯浅誠
坂爪真吾×湯浅誠

中収入中支出の社会作りが、解決策のひとつに

坂爪 湯浅さんも、子どもの貧困については、「こんなにかわいそうな子どもたちがいる」といった視点から一方的かつ感情的に伝えるのではなく、きちんと社会に届く言葉や伝え方を選んで、丁寧に発信されている。そうした手法を、私もぜひ学びたいと考えています。性風俗で働くシングルマザーをはじめ、世間一般に理解してもらいづらい人たちの現状をどう伝えていくかは、とても悩んでいるところです。

湯浅 自分がやっていることより、坂爪さんの方がハードル高いですね。シングルマザーたちが単価がいい仕事が必要なのは生活上の理由があるのか、そうはいってもまだ若いから遊びたい側面が強いのか。聞いた感触ではどうでしたか?

坂爪 独身で10代の女性だと、専門学校や大学の奨学金などでお金が必要な人が多いです。あとは兄弟の学費や、親の借金を肩代わりしている人もいます。

湯浅 なるほど。

坂爪 ブランド品を買いたいとか、遊びたいという人はあまりいなくて、家庭絡みの問題を抱えている人が多かったです。そして「実家を出たい」と訴える人の割合がすごく多い。地方だと実家がインフラになっているイメージがありますが、待機部屋で出会うのは、「一人暮らしをしたい」「東京に出たい」という女性ばかりでした。

 既婚の人に関しては、夫の収入だけでは生活できないという人が多かったです。それなのに、夫に風俗で働いていることがばれてしまって恫喝されるという理不尽なケースもあります。

湯浅 やはり雇用問題ですか。

坂爪 そうですね。働いても十分に稼げないという問題もあると思います。風俗は基本的に業務委託契約なので、雇用契約ではない。労働基準法も適用されず、性感染症や性暴力被害などの働くリスクも大きいですが、単価は高い。

 でも最低賃金をあげれば風俗で働く人が減るかといったら、おそらくあまり変わらない気がします。風俗は60分働けば5000~6000円は稼げるところが多いので、時給ベースで換算すると、他の仕事との差は圧倒的に大きい。このギャップをどうするか、という問題です。

湯浅 浜田市のような移住支援のモデルが機能することで、風俗で働きたくないけど働かざるをえない人が抜けられるといいと思います。しかし、雇用が解決策だという話になると「最低賃金を1500円にしたら解決するのか」という議論と同じで、話が遠くなって手に負えない感じがしますね。

坂爪 そこは現場にいてとても強く感じたところです。現在の教育制度では、自分で仕事を作り出すこと=商品やサービスを作り出して収入を得る方法については一切習わないし、税金や金融、社会保険や公的扶助についても学ばない。そういった中で、自分で仕事を作る訓練を受けていない人が正規雇用から外れて困窮したら、自分の身体や時間を売るしかなくなってしまう。非常に辛い話だと思います。

湯浅 そういう意味では、教育の話にもなりますね。

坂爪 キャリア教育にも関わってくるんじゃないかなと思います。

湯浅 なるほど。むすびえ(自ら理事長をつとめる『NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ』のこと。こども食堂への支援を行っている)にも、業務委託形態で働きながら、他の仕事と掛け持ちしている人がいます。坂爪さんもそうだと思いますが、私も主収入は固定給ではなく、講演や原稿です。それを新しい働き方だと肯定的に捉える人もいますが、それなりの能力やスキルがあって初めて可能になることです。業務委託は、実態は雇用なのに偽装個人請負みたいなのも多い。

 だから活躍している人だけを見て「雇用の時代は古い」と言ってしまうと、一方で苦痛を強いられる人が見えなくなってしまう可能性がある。しかし全員雇用の社会に戻してしまうと、ノマド的な働き方によって自らの能力を社会的に活用している人の良さが活かされない。

坂爪 二重のジレンマですよね。

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プロフィール

坂爪真吾

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年、新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。最新刊は『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』。

 

湯浅誠

湯浅誠(ゆあさ・まこと)

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間、内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに日本社会における民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著)、『「なんとかする」子どもの貧困』、『反貧困』(第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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