対談

いま貧困問題は何を伝えるべきか~地方都市×シングルマザー part.2~

坂爪真吾×湯浅誠
坂爪真吾×湯浅誠

「高校中退後にキャバクラで働き、ボーイと交際して20歳で妊娠。しかし男性側にお金がなく、別れて未婚で子どもを産み、デリヘルで働いている」

「夫がパチンコ依存で借金があり、仕事も不安定。生活費を稼ぐためデリヘルで働いているが、夫に金をせびられ、義母にも生活費を渡している」

「夫のDVが原因で離婚した後、2人の子どもを育てるためにデリヘルで働くことに。しかし別れた夫が店のホームページを見て来店し、「やり直したい。でないと風俗で働いていることを両親にばらす」と脅されている」

 坂爪真吾さんの『性風俗シングルマザー』には、こんな女性達の声がまとめられている。彼女達は地方都市にあるデリヘルなどの性風俗店で働いているが、往々にして貧困や家族の問題を抱えている。地方都市は都会に比べて賃金が安く、働き口も少ない。それがシングルマザーたちが風俗に引き寄せられる理由となっているが、果たしてこれが解決と言えるのだろうか。坂爪真吾さんと、日本の貧困問題に関わってきた社会活動家で東京大学特任教授の湯浅誠さんが、性風俗とシングルマザーの貧困について語った。

 

どこに住んでいるかで、格差が生まれる

 坂爪さんが取材をした地方都市のS市は、人口約80万人で性風俗店はおよそ100店舗あるという。「そこで起きていることは日本の縮図と言えるのか」という湯浅さんの質問から、対談が始まった。

坂爪 「地方都市で起きていることは、日本の縮図である」そして「どの地方都市にも、同じような現状がある」ということを伝えたくて、都市名は匿名にしました。

 性風俗で働く女性を対象にした相談支援事業『風テラス』をS市で3年間続けてきましたが、お店の事務所や待機部屋、託児所ではシングルマザーの女性とたくさん出会いました。シングルマザーは、離婚後に生活に困窮したとしても「自分の意志で離婚したのだから、自己責任だろう」と言われてしまう。

 そして性風俗店で働いているシングルマザーについては、性風俗産業への偏見もあり、さらにバッシングを受けやすい立場にあります。しかし、そうした世間のイメージと、実際に現場で働いている女性が置かれている状況の間には、大きなギャップがある。だからそのギャップを埋めるような本を作りたい、と思ったんです。

湯浅 さすがですね。私には書けないテーマです。

坂爪 10年ほど前に、「日本には貧困があるのか、それともないのか」という論争がありましたよね。「日本に貧困はない」と主張する人たちに対して、湯浅さんは「日本にも貧困がある」というお立場から、貧困の有無を問うのではなく、現実に存在する貧困問題に対して、具体的にどのように対応していくべきかを主張されていたと思います。

 風俗に関しても、「風俗で働くことは是か非か」といった是非論で議論が止まってしまい、実際に現場で働いている人の支援にまで話が進んでいなかった部分がありました。

湯浅 最近では移民を受け入れるかどうかが論争になっているけれど、すでに日本にいる外国人についても議論すべきだ、という主張と同じでしょうか。

坂爪 それと同じですよね。すでにいらっしゃる人たちを含めてのダイバーシティのはずが、すでにいる人に対しては、まったく触れられていない。

湯浅 性風俗とシングルマザーって、難しさ二乗みたいなテーマですからね。

坂爪 そういった現状を発信するためにどうしたらいいかを考えたのですが、ただ個人のルポを並べて「こんなにかわいそうな人がいる!」と叫ぶだけでは意味がないと思ったんです。

 貧困報道もそうですが、当事者の人たちを「かわいそうな弱者」として切り取ってセンセーショナルに報じるやり方は、一時的にはバズるかもしれないけれど、短時間で消費されて終わるのではないかと思いました。

 そういった中で、ミクロの個人の事例を並べるだけではなく、マクロの制度問題だけを議論するでもなく、その中間=メゾの視点に立って論じるスタンスを選びました。一つの街を舞台にして、その中で働いている人たちの現状や課題を、地域という文脈に乗せて伝えれば、読者も腹落ちしやすくなるかなって思ったんです。

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プロフィール

坂爪真吾

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年、新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。最新刊は『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』。

 

湯浅誠

湯浅誠(ゆあさ・まこと)

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間、内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに日本社会における民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著)、『「なんとかする」子どもの貧困』、『反貧困』(第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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