対談

いま貧困問題は何を伝えるべきか~地方都市×シングルマザー part.2~

坂爪真吾×湯浅誠
坂爪真吾×湯浅誠

湯浅 昔、便利屋をやってたんですけど、その事業所は1年前にリサイクルショップを立ち上げていました。その地域は別のNPOがホームレスの入所施設を作ろうとして、地域の大反対で建てられなかったところでした。でもリサイクルショップは行政のお金が入る施設ではないので、「住民説明会」のようなものはなく、ホームレスの方も関わることなど地域の人に何も言わないで始めていました。

 地域の人たちは普通に買いに来て、雑談しているうちに「あら、あなたお家がないの」と気付く。でも、「あらそうなの、たいへんね」で終わり。何のトラブルも起こりませんでした。

坂爪 なるほど。示唆に富む話ですね。

湯浅 知り合ったり関わったりして怖い人ではないとわかった後なら、どんなバックグラウンドを持っていても受け入れることができる。でもこれが見ず知らずのホームレスが来るとなると、大反対運動になる。

 こども食堂も、地域の人たちが子どもたちの課題を「出会ってから知る」あるいは「関わってから知る」という形になるので、みなさん、ひるまない。むしろ、その子に自分ができることをしようと思ってくれる。「場」としてのこども食堂が持つ力は、すごいです。

坂爪 風俗も世間から忌避されがちな世界ですが、働いている人たちは一般社会にいる人たちと変わらないので、実際に現場の人たちと接する場があれば、地域や社会の認識も変わっていくのではと思います。

湯浅 そういう場を作るのが難しいんでしょうね。

坂爪 ダイバーシティという言葉が広まる一方で、「みんな違って、みんないい」けれども、「自分たちと違う相手とは、一定の距離を置きたい」「関わりたくない」という思いがあるんでしょうね。

湯浅 風俗に対してはまさにあるでしょうね。若い世代は一つの仕事としては受け入れていても、自分の友人が働くとなったら止めるとか、敬遠感はまだまだあるでしょう。

坂爪 今回の『性風俗シングルマザー』のテーマは、「社会から理解されづらい人が置かれている状況や課題を、社会にどう届けるか」がテーマだったので、湯浅さんがこれまでにやってこられた活動や発信のスタンスを参考にさせて頂きました。

湯浅 坂爪さんはテーマは刺激的だけど、一般の方とも架橋できるような工夫と文章力と視点を持っているので、続々と本を出せるのだと思います。今回はこの本から何が伝わればいいと思いますか? 普通感ですか?

坂爪 「普通の人が普通に働いている」ということにも関係するのですが、性風俗の世界で働くシングルマザーやその子どもたちは、私たちと地続きの世界にいる、ということを伝えたかった。遠い世界の存在ではなくて、すぐ隣近所にいる人なんだと気付いてもらいたい。

 デリヘルは無店舗型の業態であるため、看板もチラシもありません。事務所は駅前のマンションや住宅街の一角にあることも多いので、一見すると全くわからない。でも、私たちの生活圏のすぐそばにある。その地続き感を表現できれば……と思いました。

湯浅 その地続き感を「普通」と表現してしまうと、少し違いますか? 自分が思っているよりも、そこ(風俗)に通じる道が自分の周りにたくさんあるんだよと言うことですか?

坂爪 そうですね。そこに至るルートや契機はそこかしこにあるのに、それが社会的に可視化されていない、という感じですね。

湯浅 彼女たちの存在に気付いて欲しい?

坂爪 気付いて欲しいです。気付いて終わりではなく、その上で議論ができればと思います。また性風俗シングルマザーは地方都市の社会課題が詰まっている領域なので、その街の風俗を見れば、その街の政治・経済・福祉が分かる。風俗を映し鑑にして、自分たちが住んでいる街の問題を考えて欲しい、という思いがあります。

湯浅 なるほど。見えないけど近くにいるというのは、精神障がい者の運動と近いですね。町中にあえてグループホームを作ったりすることで、「気づいたら隣に住んでいるけど大丈夫だよね」と。それによって、何をするかよくわからない人達という偏見を払拭していくことを目指す。気づけば隣に住んでいましたという状況をあえて作ってきたのは、精神障がい者運動の一つの実践だったわけです。それと近い気もするけど、でもやはり少し違うかな。

坂爪 風俗は働いていることを隠している人が多いので、少し違います。でも、だからといって、放っておけばいいという話でもない。だから自分は風テラスを通して、この世界で働く人たちと社会を繋げるための架橋の役割を果たしていければ、と考えています。

取材・文/玖保樹鈴  撮影/YUKAKO NOMOTO(日本の志)

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プロフィール

坂爪真吾

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年、新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。最新刊は『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』。

 

湯浅誠

湯浅誠(ゆあさ・まこと)

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間、内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに日本社会における民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著)、『「なんとかする」子どもの貧困』、『反貧困』(第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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