――最後に、河野さんにとってノンフィクションで書きたい、あるいは今後書くだろうなと感じるテーマというのは、どのような題材なのでしょうか。どんな時に「ノンフィクションとしてこれを書かなければならない」と思うのか、伺えますか。
河野 これはテレビでドキュメンタリーをつくる時にも同じなんですが、どのメディアもこぞって持ち上げるような題材ではなく、誰も見ないところを見たいな、といつも思っているんですよね。
わかりやすい例で言うと、「スポーツの北海道日本ハムファイターズの○○○選手はここがすごい!」とかっていうのは、誰でもやると言いますか。そういうように皆で持ち上げたり、あるいは批判したりするテーマや対象というのが世の中にはあります。
これはいわば、「悪いヤツはこんなに悪い」「良いヤツはこんなに良い」「すごいヤツはこんなにすごい」ということを、誰が一番うまく描くか、という競争みたいなものです。
そうじゃなくて、悪いヤツにもこんなにめんこいところがあるんだとか、いとおしい部分があるとか。この人はいつも威勢の良い美しい言葉を使っているけど、こんな悪事も働いているんだとか。そんなように人がなかなか気づきづらい、描きづらいような、あえてそういった人物なりテーマなりを探していきたいなとは思っています。
――有り難うございました。
(注:めんこい/北海道方言。「かわいらしい」「愛らしい」といった意味)
文責:集英社新書編集部/写真:定久圭吾
プロフィール
1963年愛媛県生まれ。北海道大学法学部卒業。1987年北海道放送入社。ディレクターとして、数々のドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。高校中退者や不登校の生徒を受け入れる北星学園余市高校を取材したシリーズ番組(『学校とは何か?』〈放送文化基金賞本賞〉、『ツッパリ教師の卒業式』〈日本民間放送連盟賞〉など)を担当。著書に『よみがえる高校』(集英社)、『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』(小学館、第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞)など。『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』で第18回開高健ノンフィクション賞を受賞。