今回の本では誰も書かなかったタブーを書いた
有田 今、統一教会の報道はほとんどなくなりました。
藤井 解散命令請求の話とかをたまに報道するくらいですね。
有田 2年前の7月8日に安倍さんが銃撃を受けて、みんなびっくりしたわけですよね。僕もびっくりしたし、皆さんもびっくりした。
その後、僕は去年の4月に、山口4区という安倍さんがずっと当選していた選挙区で、安倍さんの後継議席を争う衆議院補欠選挙に出たんです。そのときに、下関の20代の人たちに話を聞いたんです。「(安倍さんの事件の前から)統一教会って知ってた?」と聞くと、誰も知らないんです。創価学会とか幸福の科学のことは知っている、でも統一教会って初めて聞いた、と。そういうギャップができている。
これまで僕も7冊ぐらい統一教会の本を出しているけども、他にも本はたくさん出ているんです。いろんな弁護士さんが書いたものとか。だけど、今回の『誰も書かなかった統一教会』という本では、これまでの本で全く触れられなかったことを書いておきたい、ということで。僕は韓国にある統一教会の本部にも入ったし、他の本には書いてないことをいくつも書いています。ひとことで言って、タブーを書いているんです。
なぜ「誰も書かなかった統一教会」かというと、この2年間、自民党の政治家と統一教会の関係や、宗教2世の悩み、そして高額献金という話は新聞でもテレビでもよく報じられてきた。しかし僕の目から見ると、それは統一教会のごくごく一部にしかすぎないという思いがあるんです。
藤井 有田さんが立候補すると決意をお聞きしたとき、1983年に新潟3区から小説家の野坂昭如さんが立候補したことを思いました。1976年に田中角栄氏がロッキード事件で逮捕された。僕はその時点では10代の小僧でしたが、圧倒的な「田中信者」の真っ只中で「反角」の象徴としてかっこよかった。有田さんもそういう統一教会と安倍一族の関係を知らない世代の人たちに実態を知らしめるという意味で、すごくインパクトがあったと思います。
それにしても『誰も書かなかった統一教会』では統一教会の「軍事力」の実態が克明に描かれていて、驚きました。この教団はいったい日本で何をしようとしていたのだろうかと。
教団は散弾銃を大量輸入し、「軍事部隊」も持っていた
有田 散弾銃輸入の話があります。1968年に、韓国の統一教会系企業の「統一産業」が製造した空気散弾銃が2500丁も輸入されていたんです。これは空気銃といっても、小型拳銃より殺傷力が高いものです。
日本の信者たちが、この輸入された散弾銃に関して、1968年の10月、11月、12月の3か月にわたって、全国で最寄りの警察署に所持許可申請を出したんです。「散弾銃を持ちたい」と。
藤井 一斉にですよね。同じタイミングで。
有田 一斉に。それで警察は「統一教会の信者たちは何をしようとしているんだ?」と思って注目した。さらに、韓国の統一産業と日本の統一教会系の商社「幸世物産」が、その空気散弾銃を、さらに1万5000丁も輸入しようとした。それで衆議院でも問題になり、1971年3月に共産党の林百郎議員が、衆議院の地方行政委員会で質問しました。「統一教会が1万5000丁の散弾銃を輸入しようとしていたが、どういうことですか」と。
それに対して、当時の警察庁長官・後藤田正晴さんが答弁に立って「幸世物産と国際勝共連合はきわめて密接な関係がある」と言って問題点も指摘し、法律を改正したので、1万5000丁の輸入はできなくなった。
こういう国会での追及は何度もあったんです。そういうことが社会問題になった時期がある。しかしこの2年間、それをどこも報道していません。
この散弾銃輸入事件より少し前の1964年に早稲田大学に原理研究会(正式名称・全国大学連合原理研究会、略称CARP)という統一教会の関連組織ができた。「ボランティア活動を通じて地域貢献をする」などと言って、実際は統一教会に勧誘するための組織。このメンバーが韓国の統一教会本部に行き、統一産業にも行って、ライフルを持って写真に写っていて、これはネットにも載ってます。それで、日本に戻ってきて、山の中で射撃訓練をやっていた。訓練の手伝いをしたのは、自衛隊にいた統一教会信者。そういう歴史があるんです。
法改正で空気散弾銃は輸入できなくなったけれども、実はその後に別の空気銃を輸入するんです。それは鳥獣保護法などの法律に適合していたため、日本に入ってきた。統一教会系の銃砲店は、北海道札幌から九州鹿児島まで、僕が確認しただけで24か所ある。今も東京の立川や名古屋市内にもある。そこで今も銃を売っているんです。
藤井 今もですか……。1987年に起きた朝日新聞阪神支局の襲撃事件が起きた時、警察は犯人候補を800何名か挙げて、統一教会員もそのリストにかなりの数が挙がっていたんですよね?
有田 ええ。1987年5月3日、憲法記念日、夜8時15分過ぎに、兵庫県の西宮市にあった朝日新聞の阪神支局が、目出し帽をかぶり銃を持った男に襲われて、小尻知博記者(29歳)が亡くなった。犬飼兵衛記者は右手の指3本を吹っ飛ばされた。
藤井 この事件の3日後に朝日新聞東京本社に届いた脅迫状と使用済みの散弾容器のことなども、有田さんはこの本に詳しく書いてますね。そのあたりの検証は迫力があります。
有田 はい。捜査資料の中には、さっき言ったように、全国各地にある銃砲店の一覧表、それから、この本に一部出した「統一協会重点対象一覧表」に信者の名前がずらっとある。それを読んでいると、「統一協会の軍事部隊」とか、「勝共の非公然軍事部隊」とかがある。あるだけじゃなくて、山の中で訓練している人たちまでもリストアップされている。
だから、今報道されているように、単に「自民党とつながっている」とか「献金」「宗教2世」とか、それぞれ大事な問題だけど、それだけでなく「統一教会というのはこういうものだ」というのを知ってほしいんです。
藤井 誰しもオウム真理教にとても似ていると思うはずです。彼らは人々を殺傷して国家転覆を企んでいた。信者たちはその道具だったわけです。最初はちいさな新興宗教だったものがでたらめな教義で人々からまさに「人生」を搾取していった。オウムと統一教会の類似点は専門家にもっと研究をしてほしいと思っていますが、何かを敵に見たてて、統一教会なら「サタン」になりますが、単なる教義や信仰から陰謀論的な大きなフィクションに、ある意味で無垢な人々を巻き込んでいく。そういった双子のような類似点を感じます。カルトは世界中にありますが、こういった事例がなぜ日本で広がりやすいのか。統一教会の全貌というか、「統一教会の本当の姿」が証拠、ファクトを持って書かれている本なので、そこから私たちが生きる「陰謀論社会」とでもいうべきものにまで考えを巡らせてほしいと思います。皆さん、ぜひ読んでほしいと思います。
プロフィール
(ありた よしふ)
1952年、京都府生まれ。ジャーナリスト、前参議院議員。出版社を経てフリーとなり、主に週刊誌を舞台に統一教会、オウム真理教事件等の報道にたずさわる。日本テレビ系「ザ・ワイド」等にもコメンテーターとして出演。政治家としては北朝鮮拉致問題、差別問題、ヘイトスピーチ問題等に尽力。著書に『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)、『改訂新版 統一教会とは何か』(大月書店)他多数。共著に『統一協会問題の闇 国家を蝕んでいたカルトの正体』(小林よしのり氏との共著、扶桑社新書)等がある。
(ふじい せいじ)
1965年愛知県生まれ。ノンフィクションライター。教育問題、少年犯罪などの社会的背景に迫る。著書に『人を殺してみたかった―愛知県豊川市主婦殺人事件』(双葉社)、『少年に奪われた人生―犯罪被害者遺族の闘い』(朝日新聞社)、『コリアンサッカーブルース』(アートン)、『殺された側の論理 犯罪被害者遺族が望む「罰」と「権利」』(講談社)、『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』(集英社文庫)他多数、共著に『死刑のある国ニッポン』(森達也氏との対談、金曜日)等がある。7月17日、集英社新書より『贖罪 殺人は償えるのか』が刊行予定。