対談

有田芳生×藤井誠二『誰も書かなかった統一教会』刊行トーク

有田芳生×藤井誠二

Q&A
統一教会には政治家の「秘書養成講座」があり、いまも議員秘書になっている

――統一教会は今、「世界平和統一家庭連合」と名前が変わりましたが、山上事件の前に下村博文・文科大臣が法人格を付与したりとか、国家公安委員長とも関係があったりとか、宗教団体と政治家の癒着問題をどうやって解決したらいいと思いますか?

有田 統一教会と政治との絡み、2015年に下村博文さんが文科大臣のときに、統一教会は「世界基督教統一神霊協会」という正式名称を「世界平和統一家庭連合」に変えました。これだと、宗教の匂いが全くしないわけです。以前の名称は「世界基督教」というのが入っているから宗教団体だとすぐわかるけど、名称変更で「これは宗教じゃない」というような印象が広がった。

ただ、それに加えて、統一教会には国際勝共連合の他に100を超えるダミー団体、フロント団体など信者たちがやっている組織があるんです。

ですから、解散命令請求が確定して教団そのものがなくなっても、任意団体としては残ることができるし、関連団体の活動は何の制限もされません。そういう意味では変わらないと思います。理念も変わらないし、信者たちが政治家に工作するという使命も今も昔も変わってないから、それは続けていくでしょう。

たとえば今の文部科学大臣の盛山正仁さんは選挙に弱くて、兵庫県の彼の選挙区で応援した信者たちは、朝の8時から夜8時までずーっと電話をかけ続けたんです。朝から夜まで10人~20人ぐらいが。

僕も選挙は何回もやりましたが、運動員を雇うにはお金が要る。政治家というのはお金がないと本当に苦しい。だけど統一教会の信者はタダで朝から晩までやってくれる。僕も彼らに選挙妨害をされましたが、彼らは有田批判の号外なんかを東京の板橋とかでずっと配ったりしていました。逮捕覚悟で選挙ポスターも破ってくれる(苦笑)。そんな便利な人たちって、普通いません。でも信者たちは、そこまでやる。「それが御旨のためだ、自分たちの目的のためだ」ということで昔からやっています。

この本に詳しく書きましたが、統一教会には1986年から組織的に「秘書養成講座」があって、これを受けた信者が、今も国会議員の公設秘書、私設秘書として入っているんです。そういう人たちが議員の横にいて議員たちを動かしたりするし、地域にいる信者たちはビラをまき、電話をかけまくり、ポスターを剥がす。何でもやるんです。

「政治の力」で警察を抑えるため毎月1億の対策費で政治家を操る

――統一教会の関連団体UPF(天宙平和連合)に安倍元首相がビデオメッセージを送って、それがきっかけで山上被告に撃たれましたが、政治にお金がかかるというのはあるにしても、被害者をたくさん出している団体の集会に政治家が参加したり、継続してお金を受け取ったりという行為は正当化されないと思います。それについて政治家さんには向き合ってほしいと思うんですが、有田さん、いかがでしょうか。

有田 UPFの集会に安倍晋三さんがビデオメッセージを出したことが直接のきっかけになって銃撃を受けていますが、その同じUPFの集会にトランプ前大統領がビデオ出演して、日本円にすると約5000万円もらっている、というのはアメリカの情報公開で出ています。アメリカの情報公開の仕組みでは、そういうお金まで明らかになる。

ペンス元副大統領、ポンペオ元国務長官らは、しょっちゅうその集会に出ていて、動機は明確にお金です。10分しゃべったぐらいで5000万円。異常です。それを統一教会の関連団体が出している。

安倍さんについては「お金は出してない」と関連団体は言っていますが、第一次安倍内閣で総理秘書官だった井上義行さんらの選挙のときには、ものすごく協力してもらっています。8万票しかなかったのが、彼らの支援で16万票に増えて、参議院比例区で当選しました。統一教会はそういう形で支援をしているから、議員にとっては、こんなありがたいことはない。

しかし一方で「お金はどこから出ているのか?」と考えると、霊感商法で稼いだお金や、被害者に献金させたお金でしょう。

久保木修己さんという統一教会の初代会長は、帝国ホテルに事務所を構えていて、そこに定期的に国会議員が遊びに来た。で、一緒に酒を飲んで、帰るときに1000万円ずつ渡していた、と言うんです。これは、その場にいた信者の証言を、僕は聞きました。それは証言ですけど、僕は他に証拠を持っています。統一教会の2015年の内部文書です。この本にも書きましたが「対策費」というのがあって、毎月1億円です。何のために使うのか、内部の人に聞いたら「警察に強い国会議員などのために使う」と言うんです。「政治の力」を警察に行使するために。

それは韓国の統一教会が作った正式の内部文書です。

そんなお金を使うときには、当然領収書はもらえませんから、そういう見えない世界にどうメスを入れていくか? 本来ならば、オウム真理教の次に統一教会の強制捜査をやらなければいけなかったのです。

国会が動かないなら、被害者救済に自治体が動くしかない

有田 この本にも書きましたが、アメリカではフレイザー委員会報告書*3みたいに議会がちゃんと「統一教会とは何か」というようなことを明らかにして対処しています。ですから、被害者救済のためには、そういうことも含めて、政治が動くしかないと思うんです。

でも日本では国会が動かないから、県議会とか他の地方自治体の人たちが地域で相談活動をやったり、被害救済に弁護士も関わって、全国でやっていかなければいけない。でもこれは2年前にも言いましたが、それはオウムのときにも実現してないんです。僕らは何度も言ったけれど、政治が動かなかった。

統一教会についても、テレビも新聞ももう報道なんか、ほぼない。これがどんどん進む。また「空白の時間」が既に始まっていると思います。

そういう意味で、統一教会の被害者救済をどうするかというようなことを全国の自治体レベルでやっていかなきゃいけない。そのためには地方議員が大事です。国会の動きはとても鈍いから、やはり地方の、地元につながっている議員さんたちが問題意識を持って、被害者救済、相談活動などをやっていっていただきたいと思います。

*3 1978年11月に米下院の国際関係委員会国際機構小委員会が公表した「韓国の対米関係に関する調査」と題する最終報告書。ドナルド・M・フレイザー下院議員が委員長を務める小委員会が77年から1年半にわたって教団の実態を調査・分析。11か国の関係者に述べ1500回以上聞き取りし、米議会への召喚を123回、聴聞会を20回開き、当時の韓国政府(朴正熙軍事政権)の対米工作の実態や統一教会の組織構成、米政界工作などをあぶり出した。

*統一教会(世界基督教統一神霊協会)は、現在は、世界平和統一家庭連合と名前を変えています。新聞などは「旧統一教会」と表記しますが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church) と呼ぶことにします。

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誰も書かなかった統一教会

プロフィール

有田芳生

(ありた よしふ)

1952年、京都府生まれ。ジャーナリスト、前参議院議員。出版社を経てフリーとなり、主に週刊誌を舞台に統一教会、オウム真理教事件等の報道にたずさわる。日本テレビ系「ザ・ワイド」等にもコメンテーターとして出演。政治家としては北朝鮮拉致問題、差別問題、ヘイトスピーチ問題等に尽力。著書に『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)、『改訂新版 統一教会とは何か』(大月書店)他多数。共著に『統一協会問題の闇 国家を蝕んでいたカルトの正体』(小林よしのり氏との共著、扶桑社新書)等がある。

藤井誠二

(ふじい せいじ)

1965年愛知県生まれ。ノンフィクションライター。教育問題、少年犯罪などの社会的背景に迫る。著書に『人を殺してみたかった―愛知県豊川市主婦殺人事件』(双葉社)、『少年に奪われた人生―犯罪被害者遺族の闘い』(朝日新聞社)、『コリアンサッカーブルース』(アートン)、『殺された側の論理 犯罪被害者遺族が望む「罰」と「権利」』(講談社)、『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』(集英社文庫)他多数、共著に『死刑のある国ニッポン』(森達也氏との対談、金曜日)等がある。7月17日、集英社新書より『贖罪 殺人は償えるのか』が刊行予定。

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