プラスインタビュー

ひとりよがりも迎合しすぎもダメ。劇団ひとりにとって「創作すること」とは?

劇団ひとり

劇団ひとりがエゴサを一切しない理由

──作品を広く届けると、いろんな人の感想がわーっとネットにあがりますよね。ひとりさんはそういった感想をエゴサして見ることはありますか?

ひとり 僕、見ないです。

──一切?

ひとり うん。怖いんですよね、人の感想って。影響を受けやすいんですよ。何か確固たる自信があるわけじゃなくて、不安定だから。自分でちょっとずつ築いたものが、いきなり知らない第三者の言葉でガラッと変わっちゃう可能性もあって、それが怖い。

 そこって僕は昔からなんです。自分のファンしか来ないような単独ライブでさえ、アンケートは読まない。スタッフに「これは間違いなく読んで大丈夫」っていうのを2〜3枚ピックアップしてもらってそれを読むくらいです。そのくらい感想を見るのが苦手ですね。

──そうなんですね。

ひとり そう、感想は自分の肌感覚だけで十分だと思ってるんで。自分が実際に見たお客さんの反応だったり、感想を僕に伝えてくれる人の表情だったりを見ればだいたいわかる。半径5メートルの声だけでよくて、それ以外はなるべく目に入れないようにしています。

──ご自身を「不安定」と評されているのが意外です。視聴者として知るひとりさんはいつも安定している印象です。

ひとり そう見えるのは、不安定になる要素をずっと除外してきているからでしょうね。そこはもう、自分を過保護にしてる。もし人の感想や意見を全部聞いてたら、僕は頭が変になってると思います。

 芸人の若手の時って、月に2回くらい演出家とか作家にネタ見せをやるんですよ。デビューした時から、ネタ見せのたびにいろんなことを言われる。でも言うこと聞いたって、別に大してうまく行かないんです。やっぱり、実際に舞台に立って緊張感持ってやってる自分の考えの方が、絶対的に正しいわけですよね。それで、そういう意見を聞かないようにしてみて、ちょっとずつ軌道に乗り始めたりするんです。

 でも、みんな何かを見たら語りたがりますよね。駄目出しをしたがる。僕もそうだけど、何か映画を観たら、あそこがああだ、ここがこうだ、って言いたい。でも、自分の作品のことは自分が誰よりも考えているし、自分の人生のことも自分がいちばんよく考えている。だから人の言うことはあまり聞き入れないようにしています。

 ただ、僕が見ないというだけで、いろんな人の酒の肴になるのは我々テレビに出ている人間の1つの仕事かなと思います。酒の肴にならなくなったら、それはタレントとしてはもうおしまいだし。褒め言葉も悪口も、言われているうちが花ですよね。

──評価と言えば、小説や映画の賞にご興味はありますか?

ひとり 賞そのものというよりは、賞を取ることで手に取ってくれる人が増えるので、そういう意味で欲しいなとは思います。簡単に言うと宣伝効果ですよね。

──『浅草キッド』はNetflixの作品だから、日本アカデミー賞では審査の対象外ですよね。ひとりさんがゲスト出演された『爆笑問題カーボーイ』で太田さんが問題提起されていましたが。

ひとり でもそれは企画段階で言われていたことだから。「賞レースには絡めないけどいいですか?」って。その時は撮れるだけでも御の字だったので、何も思わなかったですけどね。

──『浅草キッド』の企画は何社にも持ち込んで、最後にNetflixに決まったという話ですが、途中で挫折しそうになりませんでしたか?

ひとり これは偶然の要素が大きくて。辛抱強く耐えたと言うよりは、たまたまそうなったというか。ちょうどよくたらい回しになって、最終的には日活にいたプロデューサーがNetflixにヘッドハンティングされて、そういう流れで決まったので。

 でも本当に、最初に自分の中でぽっと湧き出た「『浅草キッド』を映画にしたい」という思いがすべてで、そこから脚本を書き始めて。覚えてるんです。事務所の人間に「『浅草キッド』を映画にしたい」って相談した日のこと。あれを言わなかったら、こういう流れにはならなかったなって。その時点で脚本も上がってたから、それで動いてもらったんですけど。

 結局、自分からやらないと何も始まらないということですね。だから、誰に頼まれたわけじゃないけど脚本を書き始めた時のことは、自分を自分で褒めたい瞬間だったかもしれない。よくやったなって思います。

──テレビの仕事や家庭のことで既に十分忙しい中で。

ひとり それが例の勝手な使命感ってやつですよね。そこにつながるけど、忙しくてもなんとかやらなきゃって思いがあった。そこまで思い込めるかどうかですよね。でももし『浅草キッド』をやってなかったら、逆にもっといい作品と出会えていたかもしれない。そういう可能性だってありますからね。だからよかったのかよくなかったのか、結果はわからないけど、自分は間違いなくやりたかったわけだから。

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プロフィール

劇団ひとり

劇団ひとり(げきだんひとり)

千葉県出身のお笑い芸人。
バラエティーで活躍する傍ら、俳優・作家・監督としても多岐に活動。
2006年発表した小説『陰日向に咲く』は100万部を越えるベストセラーになり映画化。
二作目の小説『青天の霹靂』も映画化されその際、初の監督・脚本を勤める。
最近ではNetflix映画『浅草キッド』や日本テレビ『24時間テレビドラマ無言館』の監督・脚本としての評価も高い。
また最新小説『浅草ルンタッタ』が先日発表された。

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