対談

若者はSNSで「見る専」、中年の発信のほうが質が高い? メディアの若者偏重の裏で起きている“需要のねじれ”

原田曜平×田中渓

「40代転職限界説」の崩壊、新卒の応募が来ない中小企業による40代の奪い合い、そしてAIの台頭によって急速に消失していく若手の「兵隊仕事」ーー。いま、日本の労働市場の構造は劇的に変わりつつある。若者研究の第一人者であり、新著『中年中心社会』が話題の芝浦工業大学デザイン工学部教授・原田曜平氏と、元ゴールドマン・サックスの経歴を持ち、現在は独立して多方面で活躍する田中渓氏。世代も近い二人が、長らくメディアやマーケティングの文脈で無視されてきた「団塊ジュニア周辺世代」のリアルな生態と、激変する時代のサバイバル術をフラットに語り合う。

(原田曜平『中年中心社会 団塊ジュニアとポスト団塊ジュニア』集英社新書)

「団塊ジュニア周辺」がビジネスメディアで急浮上した背景

原田 田中さんは、今おいくつになられましたか。

田中 私は1982年生まれなので、今年で44歳になります。

原田 僕が1977年生まれの49歳なので、ちょうど5歳違いですね。今、日本の現役世代における最大のボリュームゾーンは、我々「団塊ジュニア」や「ポスト団塊ジュニア」と言われる世代にとうとうなったわけですが、これまでメディアやマーケティングの文脈で、我々はあまり注目を浴びずに生きてきました。

何故なら、親世代の「団塊世代」がずっと最大人口として若い頃から消費やメディアの中心にいたからです。 流石に最近は露出が減っていますが、ビートたけしさんが若い頃から前期高齢者である間の数年前までずっとテレビでご活躍されていたのがそれを象徴しています。ところが最近、ずっと日陰で生きてきた我々も、新興のビジネスメディアを中心に急激に注目を集めるようになってきています。ホリエモンさん、ひろゆきさんはもちろんのこと、田中さんもその象徴のお一人ですね。このタイミングでの変化を、田中さんはどう見ていますか。

田中 この世代の人たちって、ずっと時代が悪くて「諦観」がデフォルトだったと思うんです。僕が入社した2007年はリーマンショックの直前で、先輩からは「給料は全部使え」と言われたのに、入った瞬間に経済危機が起きて不遇の時代が7〜8年続くという全く笑えない出来事が直撃して。

原田 バブルの残り香を嗅ぎながら、実際には節約を社会から強要されると(笑)。

田中 そうなんです。そんな人たちが、40代を迎えて人生の半分まできた。四季で言えば夏が終わったタイミングで、これからの秋冬の時代をどう過ごしていこうかと考えたときに、「完全にあきらめた人」と「ちゃんと考えようとした人」に分かれ始めたと思います。

原田 そこにメディア環境の変化が重なった。

田中 ええ。Twitter(現・X)やポッドキャスト、YouTube、あるいはNewsPicksのようなまじめなビジネスメディアのプラットフォームが整ったことで、つらいなりに工夫して生き残ってきた知見を、ちゃんと発信できるようになったのが今の状況なのかなと。

原田 団塊ジュニア、ポスト団塊ジュニアは若い頃からネットに触れてきた「デジタル第一世代」でもありますから、環境が整えばこうして可視化されるのはある種、必然だったんですね。同時に、この世代っていわゆる氷河期世代ゆえの「世代間格差」もものすごく激しいですよね。

田中 かなり極端なグラデーションがありますね。

原田 同じ世代、同じ進学校の出身であっても、田中さんのようにゴールドマン・サックスのようにうまくいく人もいれば、ずっとフリーターや非正規雇用の人もいる。だからこそ、中年になってもやもやしている人は多くなっている。また、昔だったら定年までぼやっと過ごした人も多かったと思いますが、今は50代を前に本気で今後の生存戦略を「考えざるを得ない環境」に置かれています。親の世代の時は、多くの人が定年まで見越せたので下の世代に向かって「おまえらは駄目だな」と言いながら逃げ切れた。こうしたシーンが日本から全く消えたのが、この“はざまの世代”らしさだと思います。

(原田曜平氏)

「見る専」の若者と「経験値」を持つ中年

田中 今のミドル層はデジタルメディアでの発信に対してかなりアクティブですよね。上の世代ではFacebookの中に引きこって身内向けの長文を書いて満足している人たちが多かったですけど、最近は若い人に嫌われないお作法を学びながら、役に立つ話を残そうとする人たちが増えています。この年齢になると、自分の人生だけ生きてちゃダメだと気づくんですよね。

原田 お作法を学んで投稿するのは、ソフト老害に長良炒めの防衛策でもありますね。

田中 そうですね。社会や若い人に必要とされる生き方をしないと、ただのつまはじき者になっていく。冷笑や揶揄がすごい社会だからこそ、周りの空気を読んで客観的な発信で差別化を図っている。僕がラジオやポッドキャストをやっているのも、自分が思春期にそういうコンテンツに救われたからで半分は趣味ですが、若者たちに純粋に良い話をシェアしたいという感覚も持っています。

原田 実際、若い世代からの反響はどうですか。

田中 かなりあります。就職活動やキャリア、あるいはパートナーとの関係で悩んでいる人が聴いてくれています。僕は家電やライフハックを人に勧めるのと同じぐらいの熱量で、自分が触れてよかった音楽や映画、小説をシェアしたい。それが結果的に、悩める若者へのキュレーションとして機能している実感はあります。

原田 中年の発信が目立つ背景には、マクロデータの面白い構造変化もあります。実はSNS全体において、アクティブに投稿しているのはごく一部で、圧倒的多数は「見る専」なんです。Z世代でも、TikTokに一度も動画を投稿したことがない人は86%に達している。SNSは完全に「鑑賞用のメディア」になっているんです。

田中 若者がこぞって発信しているイメージがありますが、実際は見る側であると。

原田 そうなんです。その中で中年が目立つのは、能力というより純粋に「発信の質」が良いこと。若者の発信を見ると、例えば大学3年生の女の子がTikTokで「大学1年生に教えたいこと」として「バイト仲間は大切にしろ」レベルの投稿をしてバズっていたりする。それに比べれば、氷河期世代のつらい経験をくぐり抜けてきた中年の含蓄のほうが、若い子にとっても純粋に学びが多いんです。ただ、テレビなどの既存メディアはその構造に気づいていない。若者離れを防ぐために無理に若いコメンテーターを出していますが、若者が求めているのはむしろ、ひろゆきさんや田中渓さんのような中年のうんちくなんです。

田中 メディア側の見込み違いが、結果的に僕らのような世代の発信の受け皿を作ってくれている側面はあるんですね。

(田中渓氏)

隠れバブル世代との断絶

原田 ちなみに、私の著書『中年中心社会』では、団塊ジュニア世代とポスト団塊ジュニア世代を7つのクラスターに分類しているんですが、田中さんの周囲だとどういう属性の人が多いですか。

田中 前職、外資系企業にいたこともあって、周囲にはお金をかける「イマドキこだわり中年」のような層が圧倒的でしたね。一方で、地元の男子校の同級生なんかを見ると、キャリアはそこそこでいいと割り切って、お金は使わないけれど家庭を重視する「自分より家庭重視の超節約家」ばかりで、全く逆の2つのクラスターに囲まれています。

原田 中間のクラスターが薄いんですね。そもそも今の時代は本当にお金の使い方自体が難しくなっていますよね。僕らの親世代のように、隣の家より早くテレビや車を買うといった物質的な競争は、僕らが子どもの頃にすでに終わっている。

田中 消費による自己顕示が機能しにくくなっているわけですね。

原田 ベンツを買うくらいでは誰も驚かない東京のような環境だと、過度な物欲に走るより、精神的な快適さを求める「チル」の方向に価値観がシフトしやすいんです。

田中 ただ、同じミドルでも僕より4〜5歳上の、団塊ジュニアど真ん中の先輩世代とは明確な隔たりを感じます。あの世代の方々は、未だに「別荘を持っているか」「ドイツ車のほうがでかい」といった基準でマウンティングをし合っている。SNSでも原色を使った投稿で、「間違った映え」を狙っている形跡があります。

原田 そこはデータ的にも面白い違いが出ていますよ。団塊ジュニアは青年期まで景気が良かったため、根底の消費感覚がバブル世代に近く、社会学者の間では「隠れバブル世代」とも呼ばれます。しかし、その下のポスト団塊ジュニアになると完全にデフレマインド。数歳の差ですが、グラデーションは明確です。

(左:田中渓氏 右:原田曜平氏)

少子化とAI台頭がもたらした「40代の市場価値」の逆転

田中 キャリアという面でも、ミドル層はこれまでの成功体験が通用しなくなって壁にぶつかる分水嶺ですよね。原田さんが会社を辞められたのもその時期ですか。

原田 僕の場合は広告代理店に2001年に入社して、2年目からずっと職人のように若者研究をやっていて、独立というよりは大学教授への転身でしたが、それは45歳の時でした。大学教授はやや特殊な世界ですが、一般の世界でもついこないだまでは「40過ぎたら転職できない」というのが定説でしたが、今は完全に状況が変わっています。ビズリーチの創業者、南(壮一郎)さんから聞いたんですが、今の転職市場は「40代が一番ホット」だそうです。地方の中小企業なんて新卒求人を出しても誰も応募すら来ない。だから即戦力の40代を採るしかないという、人口構成上の大逆転が起きています。

田中 僕らの世代が、初期キャリアでリーマンショックなどの苦境をくぐり抜けてきたタフさも、今になって効いているんでしょうね。自分がいた部署は、当時9割がリストラされ、毎日クビを通達されることを恐れている状態でしたが、そこで振り落とされずに生き残ったミドルには明確な強みがある。1つは、モチベーションの低い部下をどう管理するかという「人心掌握のマネジメント力」です。そしてもう1つ、より決定的なのが「AIの台頭」です。僕の会社は5人ほどですが、前職の80人規模の会社と同じパフォーマンスを出せている。なぜなら、若手が担ってきたデータ分析や資料作成、下調べの仕事はすべてAIで代替できるからです。昔は必要だったであろう、若者の“兵隊仕事”が要らなくなってしまった。

原田 それは組織構造を根底から覆す、非常に重要な指摘ですね。

田中 今組織に必要なのは、AIが出した回答を経験と勘で「正しい」とジャッジできる能力や、ファクトチェックのために正しい一次ソースや人脈にアクセスできる力です。そのリソースを持っているのがまさに40代のミドル層なんです。

原田 AIが下調べなどの仕事を代替するとなると、若者の就職環境は今後厳しくなる可能性がある。そもそも今の若者はガツガツ稼ぎたいという子が少なく、最初からワークライフバランスやFIREを口にしたりして、モチベーションを自分でコントロールするのが大変な時代です。修羅場をくぐった中年のジャッジメント力との差は開く一方ですね。

田中 ただ、大企業のおじさん世代はAIに仕事を奪われるのを恐れて、口ではDXと言いながら既存のフローを死守している。あと15年くらいは「仕事をしているふりをするおじさん」がはびこり、若者の仕事も温存されるはずです。市場価値の高騰と組織の硬直化が同居しているのが、現在の中年中心社会のリアルな断面ですね。

田中渓『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(徳間書店)

(取材・構成:東田俊介 撮影:内藤サトル)

【後編につづく】 

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プロフィール

原田曜平×田中渓

原田曜平(はらだ・ようへい)

芝浦工業大学デザイン工学部UXコース教授。マーケティングアナリスト。
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。「マイルドヤンキー」「伊達マスク」「タイパ」などの名づけ親としても知られる。著書に『さとり世代』『ヤンキー経済』『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『Z世代』など。

田中渓(たなか・けい)

1982年 横浜出身。上智大学 理工学部物理学科卒業。学科首席として表彰を受け同大学院に進学し、外資系の世界を目指し始め急遽渡米。ビジネスセミナー「CVS Leadership Institute」に参加し個人優勝、チーム優勝を果たす。大学院中退後53回の面接を経て、ゴールドマン・サックス証券株式会社に2007年に新卒入社。同社でマネージング・ディレクターに就任し、投資部門の日本共同統括を務め、2024年に同社を退社。現在は少数精鋭の投資会社にて勤務。同社の不動産投資の責任者を務める。私生活では365日朝3時45分に起床して25km走る生活を続け、アスリートとしても精力的に活動。24時間耐久レースやトレイルランニング、アイアンマンレースなどに出場している。2024年11月自身の初著書『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』を徳間書店より出版し、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」にて、総合グランプリと経済・マネー部門第1位をダブル受賞。10万部を超えるベストセラーとなっている。J-WAVE「VALTURE RADIO」(毎週金曜日5:00~6:00放送)でパーソナリティを務めている。

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