制度を知り尽くしたコンサルが、福祉も医療も食いものにする
市川 横山さんは地方紙の記者として東北の現場をずっと歩いてこられて、「この地方の疲弊は、もはやどうにもならないんじゃないか」と無力感を覚えるようなことはありませんか。
横山 それはいつも感じています。ただ、結局は「今いる人、今あるもの」でやっていくしかない。たとえば、福島県の国見町はコンサルに食い込まれてガバナンスがねじ曲がってしまいましたが、宮城県の亘理町は、取材した職員が「公務員としての最後の一線は絶対に譲りたくない」と言い切ったのが印象的でした。矜持を保って踏みとどまっていたんです。だからこそ「効率的だ」というコンサルの甘言に飛びついて丸投げする自治体の安易さは戒めたいですね。
市川 第2次安倍政権で国が「地方創生」を掲げ、各自治体に地域活性化の目標を競わせて以来、自治体は「成長し続けなければならない」という強迫観念に縛られてきましたからね。しかし、多くの自治体はもはや身の丈に合わせて行政サービスやインフラを上手に畳む「撤退戦」をどう進めるか、住民に正直に語るべき段階だと思います。急成長の夢を描くより、今住む人たちがいかに幸せに暮らせるか足元を見つめ直す。地道な暮らしの基盤に向き合うことこそが、最も確かな道です。
横山 同感ですね。地方創生の現場を見ていると、他の分野にも同じ病理が広がっていることに戦慄を覚えます。昨年度、県庁の保健福祉分野の部署を取材していた際、各自治体で「新たな地域医療構想」の策定が進められていました。高齢化に伴う入院患者の増加や医療費の高騰を防ぐため、医療と介護・保健福祉の垣根を取り払い、一体的に運用していこうという改革です。
その取材を通じて痛感したのは、「ここにも絶対にコンサルが入ってくるな」ということでした。自治体の職員には医療と福祉の複雑な連携体制など自前で設計できないため、「こうやったら効率的ですよ」としたり顔で指南する勢力が必ず現れます。『過疎ビジネス』と同じ構造だなと思っていたら、市川さんの『障害者福祉ビジネス』の中にもまったく同じ手口のコンサルが登場して、「本当に世も末だな」と、暗澹たる気持ちになりました。
市川 福祉の領域でも、制度の複雑さにつけ込む事業者は後を絶ちませんからね。

横山 しかも、地方創生や地域おこしであれば、百歩譲って失敗したとしても直接人命に関わるわけではありませんが、医療や介護、障害者福祉は、生身の人間の命そのものを扱う領域ですからね。その領域にまで制度の隙間を突いて私腹を肥やすビジネスが入り込み、現場を食いものにしている実態を読んで、激しい憤りを覚えました。儲けのフレームが横展開されているだけで、命もへったくれもないのだと絶望的な気分になります。
市川 おっしゃる通りです。医療政策に関して言えば、都道府県の職員であっても、これまで自前で本格的な医療政策を立案した経験などほとんどありませんでした。国から急に地域医療構想をまとめろと迫られて現場は戸惑い、よく分からないから外のコンサルに頼ってしまいかねない。しかし、それでは行政自身の自分事になりません。各地域には固有の事情があるわけで、外から来たコンサルが手早く調べたところで、地域に生きる者としての肌感覚や痛みを理解できるはずがないんです。
横山 自治体職員がコンサルに頼りきってしまうのも問題ですが、さらに始末に負えないのは、そのコンサルの受け売りを元にした役所の説明を、新聞記者がろくに調べもせずにそのまま記事にしてしまうことです。たしかに、医療や福祉の歴史的背景や現場の実態を一から取材して検証するのは、途方もなく大変な作業ですし、役所のブリーフィングを右から左へニュースにしたほうが楽ですから。
市川 厚労省や自治体が「こういう政策をやります」と発表した内容を速報するストレートニュースも、情報提供としてはもちろん必要ですけど、「行政が言っている通りに現場は本当に回っているのか」を足で稼いで検証することこそ、調査報道の生命線ですからね。
その意味で、『過疎ビジネス』を読んでいて印象的だったのは、悪質なコンサル会社から横山さん宛てに「訴えるぞ」という通知書が届いた場面です。私自身、似たような文書を何度も受け取っているので思わず苦笑してしまったのですが、社の上層部は「どんどんやれ」と後押ししてくれたそうですね。もしそこで会社からブレーキをかけられていたら、モチベーションも萎えていたのではありませんか。
横山 正直に言えば、ブレーキをかけられてもおかしくありませんでした。たまたま当時の上司との巡り合わせが良かっただけで。福島で直属だった上司は、中身を隅々まで理解していたわけではなかったかもしれませんが、外圧から私を守り、好きにさせてくれた。だからこそ、あの連載を最後までやり切れたのだと思っています。福島の現場から仙台の本社へ戻ったときは、当時の編集局長に呼ばれて、「こんな大ごとになるって分かってたなら最初に言っとけよ」と言われました(※編注:横山氏が河北新報の福島総局時代に取材・報道した福島県国見町を巡る官民癒着による不正疑惑。企業版ふるさと納税の寄付金が寄付企業グループへ還流されていたとされる利益誘導問題)。「最初から分かっていたらこんな苦労しませんよ」とその場で返しましたけど(笑)。
市川 組織である以上、そうやって矢面に立ってくれる上司がいなければ勝負記事は出せませんからね。一方、国見町の件で不可解だったのは、国見町の町長がなぜあれほどまで頑なに居直り続けられたのかということです(編注;不正を追及された当時の引地真
町長は、問題が全国的に報じられてから約1年半にわたり辞職を拒み、2024年11月の町長選挙に出馬して落選)。小さな町の首長が、あれだけ決定的な問題を暴かれたら、普通は幕引きを図るもんですけどね。最後まで開き直っていられた背景には何があったのでしょうか。
横山 これはもう、 単純に「マスコミが舐められている」のだと思ってます。福島では圧倒的シェアを持つ「福島民報」「福島民友」こそが新聞であり、河北新報なんて「外様が横からチャチャを入れてきた」程度にしか扱われないんです。そうなると町長側は「地元の新聞は一行も書いていない」と議会や支持者に開き直れてしまうわけです。都合の悪い外様メディアは無視すれば逃げ切れると高を括っている。
市川 なるほど……。東北のブロック紙である河北新報ですら、福島では「外様」として舐められてしまうわけですか。県外の人たちにはそのあたりの温度感は伝わりにくいでしょうね。
横山 ええ。しかも、福島で外様だからというだけの話でもないんです。うちの本拠地である宮城県内ですら、新聞のプレゼンスはいま驚くほど低下しています。実際、選挙取材で地方支局の先輩から聞いたのですが、最近は高齢層ですら新聞から選挙情報を得ていない、みんなSNSやネットニュースから情報を得ていると。私も同じ実感を持っています。だから世間ではよく「マスコミが世論操作をしている」なんて陰謀論めいたことが言われますけど、そもそも読まれてすらいない。その結果、問題提起をしても世論のうねりになりにくく、地域の課題を「自分事」として捉えずに他人任せにする空気が広がってしまうのだと感じます。
プロフィール

市川亨(いちかわ とおる)
1972年山梨県生まれ。共同通信記者。慶応義塾大学文学部卒業後、1996年共同通信社入社。地方支局を経て、厚生労働省キャップ、ロンドン特派員、生活報道部編集委員などを務める。社会保障分野に関する取材を約20年間続け、ホスピス型住宅と訪問看護の不正に関する調査報道で2025年度日本医学ジャーナリスト協会優秀賞。
横山勲(よこやま つとむ)
1988年、青森県出身。河北新報編集部記者。執筆に加わった連載「止まった刻
検証・大川小事故」は2018年度新聞協会賞受賞。自ら中心となって取材執筆した「『企業版ふるさと納税』の寄付金還流疑惑に関する一連の報道」は第29回新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞し、その書籍化『過疎ビジネス』はベストセラーに。
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