対談

【後編】矛盾と葛藤を抱え、それでも「愛」で繋ぐ未来

大塚久美子×塚原龍雲

「破産するなら30歳までに」──失敗を許容する教育

大塚 塚原さんがそうやってリスクを恐れずに挑戦できるのは、ご家庭の教育も影響しているのでしょうか。

塚原 そうかもしれません。僕の父も経営者だったこともあり、家では「破産するなら30歳までにしなさい」と言われて育ちました。若いうちならやり直せるし、失敗するなら早いに越したことない、と。

大塚 素晴らしいご家庭ですね。今の日本は失敗に対して不寛容すぎる。でも、塚原さんのように「失敗しても死なない」という、根源的な肯定感を持っていることは、起業家にとっても継承者にとっても最大の武器になります。

塚原 「自分なら何とかできる」という根拠のない自信は、祖父や父から。自己肯定感のようなものは、母から授かった一番の財産だと思っています。

「知らんけど」精神と、究極のセーフティネット

大塚 最近は、正解を求めすぎて「失敗」や「不完全さ」を極端に恐れる傾向がありますよね。でも、現実の世界はコントロールできないことばかり。自然も、伝統も、そして人間関係も。

塚原 本当にそうですね。僕は大阪育ちなので、熱く語った後でも最後に「知らんけど」とひと言、つけ加える文化があるんです(笑)。当然自分の言葉に責任は持ちつつも、どこかで「あとはお前次第!」という余白を残す。職人さんに教わった「仕方がない」という言葉もそうですが、この許容力こそが、今の時代を生き抜く、知恵なんじゃないかなと。

大塚 「知らんけど」は、究極のレジリエンス(回復力)かもしれませんね(笑)。塚原さんは、若くして大学を辞めてビジネスに飛び込もうとした時、私が「本当に大丈夫? 大学はさすがに卒業した方がいいんじゃない?」と、つい親戚のおばさんのように心配してしまったほど自由で(笑)。

塚原 あの時はご心配をおかけしました。でも、僕が思い切った挑戦を続けられるのは、実はお金はないけれど「資本」はある、という状況だからなんです。

大塚 それはどういう意味ですか?

塚原 もし僕が明日、本当に一文なしになって破産したとしても、全国の職人さんたちが「うちに泊まっていけ」「飯を食っていけ」と言ってくれる。そんな確信があるんです。不義理さえしなければ、生きていける。この「他力本願」とも言える人間関係のセーフティネットこそが、僕にとって最大の資本なんです。

大塚 それは素晴らしい「社会資本」ですね。都会にいると家族以外のコミュニティが希薄になりがちですが、塚原さんは職人さんたちとの間に、血縁を超えた「新しい家族」のような絆を築かれている。かつてのファミリービジネスが持っていた良さを、今の時代に合った「信頼のネットワーク」として再構築している。塚原さんの生き方は、日本が培ってきた「文化」を新しい形で継承していくための、一つの希望の形に思えます。

 昔は家と血の繋がりでバトンを渡してきましたが、今は「ものづくり」や「日本的なライフスタイル」という共通の理念が、新しい繋がりの軸になります。

塚原 はい。僕は久美子さんからいただいた大塚家具の「DNA」を、自分の事業の中で実践し、次へ繋いでいく。それが僕なりの「後継者」としてのあり方だと思っています。

大塚 共通の理念さえあれば、血縁でなくても文化は継承できる。今回の対談を通じて、私自身もその確信を深めることができました。塚原さんのような若い力が、これからの日本をより「健康的」で美しい場所に変えていってくれることを期待しています。

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関連書籍

後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える
なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想

プロフィール

大塚久美子

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科特別招聘教授。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

塚原龍雲

(つかはら りゅううん)
2000年生まれ。高校卒業後、米国の大学に入学。留学先で日本文化の魅力と可能性を再認識したことをきっかけに「KASASAGI」を創業。日本の美意識で世界を魅了することを掲げ、伝統工芸品オンラインショップ「KASASAGIDO」や、伝統技術を建材やアートなどの他分野に応用する「KASASAGI STUDIO」を展開。インド仏教最高指導者佐々井秀嶺上人の許しを得て出家した、インド仏教僧でもある。著書に『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想』(集英社新書)。

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