対談

火中の栗を拾った二人~潰してはいけない会社がある。事業承継から見える日本の課題~

大塚久美子×福田淳 対談(後編)
大塚久美子×福田淳

「経済合理性」だけでは測れない伝統産業の存在意義

大塚 私は最近「企業の社会的な存在意義が問われる時間軸」と、「お金が続かなくなる(倒産する)時間軸」は全く別物だと強く感じています。 例えば、為替レートが急激に変動したとします。ビジネスの前提が崩れ、構造転換に10年かかる状況に陥ったとき、手元の資金が1年分しかなければ、普通の企業は潰れてしまいますよね。

福田 ええ、経済合理性だけで判断すれば「退場」となります。

大塚 しかし、その事業が社会にとって本当に必要なものであった場合、5年、10年かけて再建すべきなんです。ファミリービジネスの強みは、ここで発揮されます。「先祖代々の看板を潰してはいけない」という使命感から、個人の資産を投じてでも、なんとか5年、10年と持ちこたえさせる。そのバッファー(緩衝材)があるからこそ、次の経済サイクルまで事業が生き残り、社会に価値を提供し続けられるという面があることも事実です。私は伝統工芸の世界にも関わっていますが、一度潰れてしまった産業をゼロから作り直すのは、不可能に近い。

福田 それは無理でしょうね。輪島塗などの産地もそうですが、一度職人のエコシステムや問屋の機能が消滅してしまったら、二度と元には戻せません。

大塚 家具の問屋機能も同じ状況にあります。今の時代、短期間の「経済合理性」だけで事業の存在価値をジャッジされがちですが、長期的に見れば社会にとって不可欠なものが、あっけなく失われている。これまで日本は、そうした伝統や産業のインフラの維持を「ファミリーや個人の努力と犠牲」に頼りきってきました。もし今後、ファミリービジネスの構造を壊していくのであれば、代わりに社会がどうやってその産業を守るのか、役割分担を明確にしなければなりません。

福田 社会や国家がちゃんとウォッチして、インフラとして守るべきものは守る。地方創生予算なども、そういった「残すべき価値」の維持や、伝統産業を支える技術や資源のデータ化、AIを活用した保存・継承などに適切に配分してほしいです。利益だけでは測れない価値をどう残すか、という話ですよね。

経営とは、「葛藤」と向き合うこと

大塚 そうなんです。実は、この本にはもう一つ裏テーマがあります。それは「葛藤」です。経営って、どちらか一方が正しいという話ではなく、相反するものをどう両立させるかなんです。利益も大切。でも、利益だけでは残せないものもある。社員も守りたい。でも、会社も存続させなければならない。家族も大事。でも、経営者としての判断もしなければならない。そうした葛藤と向き合い続けること自体が、経営だと思っています。だからこそ、一時的な経済合理性だけでは測れない価値を、社会としてどう残していくかを考えなければならないと思っています。

福田 まさに経営そのものですね。最後に伺いたいのですが、今回ご著書をお書きになったことで、ご自身の中で過去のさまざまな出来事に対する「前向きな意味付け」はできましたか?

大塚 はい。そもそも「なぜあの時、事態を読み違えてしまったのか?」という個人的な問題意識が出発点でした。それを執筆を通じて整理できたことで、私自身が一番納得できました。 実際、読んでくださった事業承継の当事者の方から「なぜうちの親族がこんな信じられない主張をするのか、理由がわかりました」と言われたことがあります。現象の裏にあるメカニズムが整理できると、次の展開、解決策が見えてくる。それは書いて良かったと思うところです。

福田 久美子さんならではのご経験と洞察だからこそですね。あの時「なぜだろう」と問い続けたことが、今の日本の多くの経営者を救うテキストになっている。

大塚 特に、女性の後継者の方々からは、共感の声を多くいただいています。女性の後継者は、男性の後継者と異なる独特の課題を背負うことが多いですが、女性経営者の絶対数がまだ少ないので、それを共有できる場も少ないのです。私や母がファミリービジネスに関わった際の経験を、ご自身の経験と重ねて読んでくださる方も多いのだと思います。

福田 メディアの表層的な報道では決して伝わらなかった、久美子さんのひたむきなエネルギーや経営への愛が、この本を通じてようやく世の中に伝わっている気がします。

大塚 ありがとうございます。社会の役に立つためにも、福田さんのご著書にもある、「バッターボックスに立ち続けること」、そして希望を持ち続ける努力を、これからも続けていきたいと思います。

(了)

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プロフィール

大塚久美子

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科兼任講師。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

福田淳

(ふくだ あつし)
スピーディ 代表取締役CEO(現任)、STARTO ENTERTAINMENT社 創業CEO、ソニー・デジタル エンタテインメント 創業CEO。日本最大のタレントエージェント経営、世界19か国での出版事業、ロサンゼルスでアートギャラリー運営、カリフォルニア全域・日本の沖縄・富士山麓でリゾート開発、無農薬ファーム運営、エストニアでのデジタルコンテンツ開発、スタートアップ投資など世界中でビジネスを展開。受賞歴にカルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞 (2016年)など。月刊誌『GOETHE』連載中。『好きな人が好きなことは好きになる』(Speedy Books)など7冊の著書、講演多数。

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