『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』 鳥井一平著

外国人労働者が抱えた問題は「外国人問題」ではない。日本社会の問題なのだ

安田浩一
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 轟轟(ごうごう)と地響きを立てて駆け抜ける。本書の著者、鳥井一平さん(移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事)は、そんな人だ。
 やっかいな問題も、取るに足らない問題も、声がかかれば引き受ける。背負い込む。そして猛然と走り出す。まるで積み荷を満載した大型トラックのようだ。

 私が週刊誌記者だった20年前に、労働争議を取材する過程で、当時、労組の活動家だった鳥井さんと出会った。そのパワーに圧倒された。情と熱をエネルギーに変えて悪徳経営者と対峙し、苦痛にあえいでいる人にとことん寄り添っていた。早口で、涙もろくて、ちょっと強引で。鳥井さんに近づくだけで、火傷しそうなほどの「熱気」を感じた。

 外国人労働者が置かれた過酷で劣悪な環境を私に教えてくれたのも鳥井さんだった。2005年のことだ。「岐阜県に時給300円で労働を強いられている中国人女性たちがいる」。鳥井さんからそう聞かされた私は、現地調査に同行させてもらった。そこで初めて技能実習制度の深い闇を知った。そのときのことは本書でも詳細に触れられている。基本給の半額以上をピンハネする管理団体があり、鳥井さんたちを〝恐喝集団”だとして敵視する経営者たちがいて、さらに、搾取され泣いている女性たちがいた。

「人権も人格も奪われている。こんなことを許していては日本社会が壊れてしまう」

 中国人女性たちの聞き取り調査をしながら、鳥井さんはそう漏らした。その言葉は、いまでも耳奥に染みついたまま離れることはない。「ネタ」を取ることだけに腐心していた私は、そのときから「社会」を意識するようになった。発言の回路を持たず、「奪われる」一方の側に立ち続けたいと思った。

 本書で描かれるのは、鳥井さんの〝闘いの軌跡”である。90年代に労働災害に苦しむ外国人労働者と出会ってから、まさに「国家と移民」の問題を全身に刻印し、様々な理不尽と格闘してきた。外国人の存在を「例外」としてきた日本社会に挑み、問題提起し、告発してきた。技能実習生だけでなく、難民や非正規滞在者など、あらゆる立場の外国人の苦痛を拾い上げ、(うわ)(つら)だけの「国際化」に拳を突き付けてきた。

 外国人が人として当たり前の権利と尊厳を獲得するためには、何をすべきか。鳥井さんは外国人労働者が抱えた問題は「外国人問題」なのではなく、日本社会の問題なのだと訴える。そう、本書は、多様化の時代を生きる私たちを「知る」ための一冊でもある。
 労働現場を駆け抜ける鳥井さんの荒い息遣いを想像しながら読んでほしい。修羅場ばかりではない。砂塵の向こう側に、きっとあるべき「社会」が見えてくるはずだから。

 

やすだこういち●ジャーナリスト

 

関連書籍

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プロフィール

安田浩一

1964年生まれ。「週刊宝石」「サンデー毎日」などの記者を経て、2001年からフリーに。『ネットと愛国』(講談社)で2012年に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)、『ヘイトスピーチ』(文春新書)、『団地と移民』(KADOKAWA)、『愛国という名の亡国』(河出新書)、『ルポ差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)等多数。

 
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