本書『貧困クライシス』(毎日新聞出版)は、貧困など他人事だと思えるうちに読んでおくべき本だ。本当に本書が必要になったときには、本を読む余裕など無くなっているかもしれないのだから。
「まず知ってほしいのは、貧困は誰の身の上にも起こりうることだということです」
著者・藤田孝典氏は現代の貧困の特徴を、このように指摘する。藤田氏の主宰する生活困窮者支援団体「NPO法人ほっとプラス」には、首都圏だけで年間500件を超える生活困窮者の相談が寄せられるという。藤田氏は次のように述べる。
「2008年のリーマンショック以来、相談者に明らかな変化が見られるようになりました。「普通の人」が貧困に陥り相談に来るようになったのです」
普通の人とは、いわゆる中間層のことだ。
「所得の二極分化が進んで、特に中間層の下の層、中の下が分厚くなってきています」
これまで貧困問題は、子どもの貧困、シングルマザーの貧困というようにカテゴライズされてきた。藤田氏もこれまでに『下流老人』『続・下流老人』(朝日新書)で高齢者の、『貧困世代』(講談社現代新書)では若者の問題に警鐘を鳴らしてきたが、今では問題を抱えているのは特定の年齢層に限らない。
「私たちのNPOには、10代から80代までいろいろな人が相談に来ています。もう全世代に貧困は広がっているんです」
藤田氏が言うように、現代の貧困は全世代に広がる、今・ここにある危機なのである。
プロフィール
ソーシャルワーカー。1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。聖学院大学客員准教授(公的扶助論)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。著書に『下流老人』『続・下流老人』(共に朝日新聞出版)、『貧困世代』(講談社)、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)など。