プラスインタビュー

「ワンフォーオール、オールフォーワン」とは何だったのか?

平尾剛

日本のラグビーは、本当に「多様性」を掲げるスポーツなのか?
リーグワンが2026-27シーズンから導入する新たな選手登録制度をめぐり、ラグビー界が揺れている。「義務教育9年間のうち6年以上を日本で過ごしたこと」などを新たな要件としたことで、帰化して日本代表として活躍してきた選手の多くが不利益を受ける可能性があるためだ。選手側はこれを差別的な制度だとして公正取引委員会への申告や仮処分を申し立てた。この制度をどう考えるべきか。元日本代表・平尾剛氏に聞いた。
 
取材・文:西村章/写真:五十嵐和博

 日本ラグビーの最高峰・リーグワンでは、各チームの所属選手はカテゴリーA、B、Cの3種類に分類されてきた。日本代表の資格を持つカテゴリーAは、従来は「日本国籍を持つこと」「両親または祖父母のひとりが日本人であること」「累積で10年間日本に居住していること」「5年間継続して日本協会に登録していること」が要件とされてきた。このカテゴリーAを、2026-27シーズンからはA-1とA-2に細分化する。

 A-1は「他協会の代表歴がなく、小中学校の義務教育9年間のうち、6年以上を日本で過ごした選手」「他協会の代表歴がなく、本人が日本出生または両親祖父母のうち1人が日本で出生している選手」であることが要件で、A-2は「他協会の代表歴がなく、日本協会への継続登録が48か月以上の選手」に適用する。ただし、A-2のうち「日本代表キャップ(出場回数)を30以上持つ選手」はA-1の資格を与えられる。

 この細分化によって、新分類でA-2に該当する選手はA-1と比較して試合出場機会が大きく狭められる。他国出身で日本国籍へ帰化し、日本代表として活躍してきた多くの選手は、「小中学校の義務教育9年間のうち、6年以上を日本で過ごし」ていないため、A-1要件を満たさず、A-2へ分類されることになるという。

 リーグワンがこの新カテゴリーを発表したのは2025年5月。その当初から、差別的だという指摘や批判が続いた。選手側も見直しを求めてきたものの、リーグワン側に再検討する気配は見られなかったため、2026年4月20日に、他国出身で日本国籍を取得している選手たちが公正取引委員会へ独占禁止法違反を申告し、東京地裁に差し止め仮処分申請を行った。この動きが大きく報じられたため、新カテゴリー問題は一躍、大きな注目を集めることになった。

 この一連の問題について、ラグビー元日本代表の成城大学教授・平尾剛氏に忌憚のない意見を訊いた。

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なぜ「義務教育6年」なのか

平尾剛氏
平尾剛(ひらお つよし)
1975年生まれ。成城大学経済学部教授。専門はスポーツ教育学、運動学、身体論。1999年、第4回ラグビーワールドカップ日本代表に選出。2007年に現役を引退し、神戸親和大学教育学部スポーツ教育学科教授を経て、現職。
著書に『スポーツ3.0』、『近くて遠いこの身体』(ミシマ社)、共著に『合気道とラグビーを貫くもの』(朝日新書)、『ぼくらの身体修行論』(朝日文庫)などがある。

平尾 「いったい何をやっているんだ……」というひとことに尽きます。2019年のワールドカップ日本大会で、それまでラグビーをよく知らなかった多くの人たちにも、この競技が多様性や包摂性を体現したスポーツであると認知され、多くの共感と注目を集めました。21世紀の世界的潮流であるDEI(Diversity, Equity, Inclusion:多様性、公平性、包摂性)を、スポーツという目に見える形でアピールしてきた競技がラグビーです。なのに、なぜその潮流に自ら水を差すような制度を導入するんだ、と強い怒りをおぼえます。

 義務教育6年、という規定を設けても、すでに外国籍から日本国籍に帰化した選手たちは今から小中学校に通い直すことなどできません。たとえば、リーチ・マイケルは高校で来日していますから、この義務教育6年規定だけを要件とすればA-1から外れてしまいます。もっとも、彼の場合は日本代表キャップが90以上あるのでA-1を満たすことになるのですが、そのような例は現在活躍している帰化選手の中ではむしろ少数派です。

 このような事情に配慮して新規定の実施まで猶予期間を設けるのであれば、まだ理解できなくもないのですが、リーグワン側はそれもしないと言っています。ラグビー精神に逆行している、としかいいようがないですね。

――この規定が発表された2025年5月にもかなりの批判がありましたが、リーグワン側はそれらの批判をまったく斟酌しなかった、ということでしょうか?

平尾 批判に耳を貸して真剣に議論をするつもりがそもそもなかったんじゃないか、と思います。

――それにしても、小中学校9年間の過半数なら5年ですが、そういうわけでもなく、義務教育の大半となる7~9年でもなく、なぜ「義務教育6年」という規定なのでしょう。

平尾 これは推測ですが、おそらく小学校高学年から中学まで、というようなイメージなのではないでしょうか。実際に私のかつてのチームメイトの中にも、「外国人が多すぎるんじゃない?」「カタカナの名前が多いよね」という声は確かにありました。オールドファンの中にも「日本代表は日本人、、、で構成されるべきだろう」といった思いをくすぶらせていた人々はいたでしょうし、リーグワンの上層部にもその年代の人々は多いですから、そこに忖度してあのような規定になったのではないでしょうか。

――そのような考え方は、ワールドラグビーの方向性と逆行しているのでは?

平尾 超逆行ですよ。ラグビーの世界は、オリンピック競技などの国籍主義ではなく、自分が所属し登録している国の協会を基準にする「所属協会主義」です。今回、リーグワンが示している規定は、この考えに真っ向から逆行するものです。

 ただ、百歩譲って議論の余地があるとすれば、サッカー界で採用されている「ホームグロウン」に類似したアイディアだと考えることはできるかもしれません。ホームグロウンの場合は、クラブのユース部門に一定期間所属していた選手を大事にしてトップチームで登録しようという考え方ですよね。ラグビーの場合、ニュージーランド(オールブラックス)がこれに少し似た発想を採用しています。

 ニュージーランドの場合、ワールドカップの選考期間は国内クラブチームに所属していなければならないので、外国で戦うニュージーランド選手は、選考段階になると自国へ戻ります。国外リーグで戦うのはあくまでもサバティカル期間、という考え方です。ただし、主要ポジションの選手が負傷した場合などは、例外的に国内チーム以外の選手を選ぶこともあるので、実際にはかなり柔軟に運用している側面もあります。また、このニュージーランドの規定でも、リーグワンのようにもはや取り返しがつかない過去の生育歴を問うようなことはしていません。 いずれにせよ、義務教育6年という規定は、ラグビー界の世界的潮流からするとおよそ考えられないルールだといえるでしょう。

ラグビー界から上がらぬ声

――猶予期間を設けずに取り返しのつかない生育歴を厳格に適用するのであれば、一方的に不利な条件に押し込められてしまう帰化選手たちが反発するのは当然でしょう。彼らと一緒に戦ってきた他の選手やチーム関係者の中から、支援するような声は上がっていないのでしょうか?

平尾 声はなかなか出ないようですね。「ワンフォーオール、オールフォーワン」というラグビー精神にまったく反することが起ころうとしているのだから、選手会にも声を上げてほしいところです。コベルコ神戸スティーラーズのデイブ・レニーヘッドコーチが、「大きな貢献を果たしてきた選手たちに対する正当な扱いとは思えない」という主旨の発言で異議を唱えていましたが、少なくとも私は、それ以外には目立った発言を見聞きしていません。これでは、ラグビー界の人権意識が成熟していないと言われても反論できません。

 振り返ってみれば、私たちが日本代表でワールドカップに参戦した1999年大会(ウェールズ)でも、多くの批判を受けました。当時は6人の外国出身選手がいて、キャプテンはニュージーランド出身のアンドリュー・マコーミック。外国人選手初の日本代表キャプテンでした。当時のメディアからは「ガイジンの力を借りてでも勝ちたいのか」と批判や非難が囂々(ごうごう)で、しかも結果は予選プールで3戦全敗だったのでさらに大バッシングを受けました。

 しかし、このときに監督だった平尾誠二さんがこの方向性の基礎を作ったことが、現在の日本ラグビーの発展につながっています。平尾誠二さんが目指した方向は、まさに先見の明に満ちたものだったというべきでしょう。

 1999年ラグビーワールドカップ、サモア戦にてプレーするアンドリュー・マコーミック選手(写真:築田純/アフロスポーツ)

――もしも選手たちに声を上げにくい事情があるのだとすれば、それをすくい取って論陣を張るのがメディアの役割だろうと思います。

平尾 確かにそうですね。ホームグロウンの選手の出場機会を増やして日本人の人材を育成する、というリーグワン側の主張も一定程度は理解できる、とする論調も増えているようです。しかし、この規定は、義務教育6年間という規定がいかに差別的であるかということにもっと焦点を当てて批判しなければならない問題だと思います。リーグワンが4月末に行った記者会見を見ると「差別する意図はない」と弁明していましたが、差別というものは意図せずに行ってしまうからこそ問題なのだと理解していないところが、差別に対する彼らの意識の低さを露呈していると感じました。これは皆がリーグワンやラグビーフットボール協会に対してもっと指摘をするべきだし、リーグワンや協会側も長い時間をかけてでも変わっていってほしい点です。

 少し感情的なことを言わせてもらえば、具智元やラファエレ・ティモシー、中島イシレリ、ヴァルアサエリ愛といった2019年(日本大会)の代表選手たちは、日本にラグビーの魅力を広めるという私たちの時代にできなかったことを成し遂げてくれた、ラグビー界最大の功労者です。そんな彼らの多くがはしごを外されてしまうような仕打ちは、とても見過ごすことができません。

――公取委に独禁法違反の申し立てと地裁への仮処分申請を行った帰化選手たちを除き、その他の選手や選手会が今のところ何らかのアクションを起こしていないのは、公取委と地裁の答えを待っているから、という面もあるのでしょうか。

平尾 おそらくそうだと思います。どのような結果が出るにせよ、選手会は何らかのアクションを起こすべく内部で準備を進めているのかもしれません。私たちのようなOBにできることは、こうやって取材をお受けして記事の形で発信することによって彼らを応援することなので、今後も積極的に発言をしてきたいと考えています。

 繰り返しますが、今回のような差別的な規定に対して異論を唱えずに黙って見過ごしてしまうと、多様性や包摂性を体現したスポーツというラグビーの価値が損なわれてしまうし、そこに魅力を感じてファンになってくれた人たちを幻滅させることにもなってしまうと思います。

 ただでさえケガの多いスポーツで競技人口も減っているのに、こんなことをしてファンが離れていけば、またマイナースポーツに逆戻りですよ。さらに、聖地である秩父宮ラグビー場も移転整備されてほとんど多目的施設になる……。これホントにもうどうするんだよ、という状態です(苦笑)。

見えてくる日本社会の縮図

――競技人口の減少に関しては、リーグワン側が記者会見で「A-1とA-2のカテゴリー区分は競技人口増加やラグビーの普及発展が目的だ」と説明していましたが、その理由づけに正当性はあるのでしょうか?

平尾 はっきり言ってないです。あれは義務教育6年間という規定を正当化するための、取ってつけたような理由です。日本で義務教育を受けた選手が試合にたくさん出られるようになるからといって、はたして日本代表を目指す中学生が増えるでしょうか。私はおおいに疑問だと思います。なぜなら、小学生や中学生でラグビーに親しんでいる子どもたちが日本代表に何らかの憧れを持っていたとしても、この規定でチャンスが増えたと思って競技人口が増える、とは考えにくいからです。

 ラグビーの競技人口が減っているのは、帰化選手に出場枠を奪われて日本育ちの自分たちが代表になるチャンスが少ないから、というような理由ではなく、ケガが多いからです。子どもたちのケガを防いで競技の魅力を理解してもらう環境を作るためには、知識と技術を備えた指導者を派遣して、安全にラグビーを楽しめる受け皿を整えることが必要です。

 そういう競技人口を増やすための土台作りをすっ飛ばして、日本代表の条件だけをニンジンのようにぶら下げてもあまり意味がないし、競技人口増加の本質的な解決にはなりません。今回のこの新しい制度を正当化するために取ってつけた理由だというのは、このような背景事情があるからです。

――ここまでの話を伺っていると、今回の問題は現在の日本社会の縮図になっているような印象もありますね。

平尾 そうですね。スポーツは社会の縮図だとよく言われますが、今回の事例を見ているとまさしくそのとおりだと思います。排外主義的な規定を導入するという考えも、今の世相の反映といえるかもしれません。

 でも、肌の色や文化や言葉の違いに関係なく代表を選ぶ、というやりかたがラグビーの良さなんですよ。それはこの競技を長くやってきた私自身も、身をもって感じてきたことです。学校の授業では差別のことを学びながら、試合で海外遠征に行く時などにはパスポートの色が違う仲間がリアルにいるわけです。だからといって何が変わるわけでもない。試合ではパスも通るし、なによりも勝つという同じ目標を持ったチームメイトです。そういう経験が、ラグビーをすることから得られる大きな学びだと思うのですが、それを上のほうから台無しにされてしまうような空しさを感じます。

 ラグビー憲章には「品位・情熱・結束・規律・尊重」という5つのコアバリューが掲げられています。選手や指導者、競技関係者はもちろん、世界中のファンにも広く共有してもらえる考え方としてラグビー界がこれを掲げていることを、私は元選手のひとりとして非常に誇らしく思っています。この価値観があるからこそ、社会はラグビーという競技に一目を置いてくれているんです。そのような競技だからこそ、選手たちはプレーを通じて多くのことを学び、そのプレーを見たファンの方々も、可視化されたコアバリューの価値観を共有してきたのだと思います。そのラグビーならではの良さを損なわないでいただきたい、と切に思います。

――それこそ、2019年のワールドカップがそれを象徴する大会だったと思います。それまであまり馴染みがなかったけれども、日本で開催された大会に接してラグビーというスポーツのメッセージ性を肌で感じたことでファンになった、という話はよく見聞きしました。そんなふうにしてラグビーを好きになったライトなファンが、きっとたくさんいるはずです。そのようなファン層に対して、今回のリーグワンの新規定はいい影響をもたらさないでしょうし、ラグビー離れを招く可能性もあるかもしれません。

平尾 新しくラグビーファンになってくれた人々に対する裏切り行為、ともいえるでしょうね。そのようなライトなファン層に対してさらにどうやって知名度を上げ人気を盛り上げていくか、という大きなビジョンがリーグワンやラグビーフットボール協会には欠けているのではないでしょうか。それよりもむしろ「カタカナの名前が多いよな……」というオールドファンに忖度した結果が、今回の義務教育6年規定という形になったのでしょう。取り返しのつかない規定であるにもかかわらず猶予期間を設けることもなく、直接影響を受ける選手たちに対する説明も十分に行われていなかったことから推測するに、十分な議論もないままに形だけのシャンシャン総会のような決定プロセスで決めてしまったのではないか、と勘ぐりたくもなりますよね。 

――リーグワンやラグビーフットボール協会の閉鎖的体質が今も続いているとすれば、公正取引委員会や地裁が何らかの決定を出した際に素直に従うでしょうか?

平尾 そこですね、問題は……。国会の政府答弁みたいに「真摯に受け止める」と言って終わるような気もしますね(苦笑)。

――このような揉め事があると、ただでさえ中高生の競技人口が減少の一途をたどっているなかで、競技に取り組もうという気をさらに萎えさせることにもなりかねませんね。

平尾 本当にそのとおりですよ。なにより小中学生の場合は親が子どもに勧めるという要素も大きいのですが、目標にされるべきスポーツの側がこんなことをやっていると、その親御さんの情熱が「ラグビーなんてケガをするだけのスポーツだよ」と冷めてしまいかねません。だから、今回の登録規定変更は、むしろ競技人口減少を加速させてしまうのではないかと危惧します。

 先日、大学のスポーツスタディーズという講義で今回の一件を取り上げました。現在の大学生は、2019年のワールドカップ日本大会の頃に中学生くらいの年齢だったので、記憶に残っている人もたくさんいます。ラグビーという競技の特徴や価値観を解説し、いままさに物議を醸している事案として、カテゴリーAの細分化問題も紹介しました。講義の後に回収した学生たちのコメントペーパーを見ると、「多様性を大切にするスポーツだと思っていたのに、こんな規定が導入されることに驚きました」「義務教育の年齢で分けるのは差別だと思います」という内容のものがたくさんあり、彼らが問題の本質をしっかりと理解してくれていることに感心しました。

 おそらく、小中高の現場でも先生やコーチがラグビー部の生徒たちから、この件について質問されているのではないでしょうか。ラグビー界は、感受性の豊かな子どもたちの疑問に答えられないようなことをしていてはダメですよね。だからこそ、私たちのようなOBが、このような機会を通じてどんどん発信していかなければならないとも思うので、積極的に発言しています。話すたびに腹が立つのが悩みの種なんですが(笑)。

――現代社会のいやな面を反映している出来事のように見えるので、ラグビー界のOBとして腹だたしく思うのは当然でしょうね。

平尾 そう、だからラグビー界も問われています。チームや他の選手を含めて、ラグビー界ははたしてどう反応するのか、それを世の中がいままさに見ているんですよ。チームとして何らかの意思表示があってもよさそうなものですが……。

 選手同士は、プライベートではきっと「おれはおまえの味方だぞ」「応援しているからな」と励ましたり支えたりしていると思います。しかし、公には選手個々人がそれを意思表示できないような事情や雰囲気が、ひょっとしたらラグビー界にはあるのかもしれません。もしそうなのであれば、そんなときこそ選手会が前面に出て選手たちを守ってあげるべきでしょう。選手会が声を上げれば、ラグビー界の健全さを外に伝える効果もあると思います。ただ、選手会も今は公取委と地裁の結果を待っている段階なのかもしれませんが。

最善の解決方法とは?

――リーグワンは「見直すつもりはない」と4月末の記者会見で言明していたとおり、このカテゴリーA細分化を見直すつもりはなさそうです。公取委と地裁の決定を受け入れるにしても受け入れないにしても、早く結論を出さなければ選手もチームも2026-27シーズンに向けたアクションを起こすことができませんね。

平尾 そうですね。選手たちの主張が受け入れられて地裁から仮処分命令が出たとしても、リーグワン側がそれに対して異議申し立てなどをして事態が長引いてしまえば、その皺寄せが行くのは公取委と地裁に申し立てをした帰化選手たち自身です。そんな事態にはならないように、と心から願っています。今回申し立てを行った選手たちの中には、現役生活の終盤にさしかかっている人もいます。現役生活の締めくくりかたやセカンドキャリアのことを考えなければならない、競技人生全体の中でも繊細で微妙な時期なので、彼らにとっていちばんいい形での決着になってほしいと思います。

――では、平尾さんが考える今回のカテゴリーA細分化問題に対する最善の解決法とは、どういうものになるでしょうか?

平尾 リーグワンがこの細分化をどうしても実施するというのであれば、最低限でも猶予期間は設けるべきでしょう。義務教育6年間という規定は、何度も言ってきたように後戻りしてやり直すことができないルールです。だから、その影響を受けてしまう年齢、つまり、もはやとりかえしがつかない年齢の現在の小学4年生以上は全員猶予しなければ公平ではありません。ものすごく長い期間ですよね。でもそうしない限り、本当に来年から実施するのであれば「日本のラグビーは、じつは皆さんが思っているほど多様性も包摂性も重視していないスポーツなんです」と、逆に世の中に広くアピールすることになってしまいます。

 それができないというのであれば、A-1とA-2に細分化するのではなく、2025-26シーズンまでのカテゴリーAのままで行くのが最善の解決方法だと思います。もうやめましょう、これ(笑)。

――どんなルールでも完璧なものはないので、常に改善や変更の余地はあるということだと思うのですが、いずれにせよリーグワンが進めようとしている方向ではない、ということですね。

平尾 そうです。しかし、リーグワンの姿勢はかなり強固なようなので、自分たちから取り下げることはしないでしょう。だから、公取委と地裁の結果が出た時には、我々OBもメディアを通じて声を上げ、世の中の注意を喚起していくことが重要だと思います。先ほども言ったように、人材育成という彼らのロジックには正当性がありません。むしろ今回の規定によって、現在の日本代表の実力を削ぐことにもなってしまうでしょう。そう考えると、日本代表からカタカナの名前を減らしたいという感情レベルの差別的理由以外には、理由らしきものが思いつきません。

 しかし、たとえオールドファンや古い体質の協会関係者がそんなふうに思っていたとしても、これからの日本ラグビーを支えてゆくのは、21世紀的なDEIを肌で理解している若い世代のファンと選手たちです。彼らの見ている方向こそが正しく、その方向性の先にこそ日本ラグビーの将来があることを、旧世代の私も強く確信しています。

プロフィール

平尾剛

(ひらお つよし)

1975年生まれ。成城大学経済学部教授。専門はスポーツ教育学、運動学、身体論。1999年、第4回ラグビーワールドカップ日本代表に選出。2007年に現役を引退し、神戸親和大学教育学部スポーツ教育学科教授を経て、現職。著書に『スポーツ3.0』、『近くて遠いこの身体』(ミシマ社)、共著に『合気道とラグビーを貫くもの』(朝日新書)、『ぼくらの身体修行論』(朝日文庫)などがある。

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