大塚家具の元社長であり、現在は数々の企業でコンサルティングや社外役員を務める大塚久美子氏が、『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)を昨年11月に出版。一方、ブランドコンサルタントやプロ経営者として数々の企業の再建を手掛け、新著『結局、熱狂できる人がうまくいく。 タブーを恐れず成果に導く60の金言』(PHP研究所)を上梓した福田淳氏。かつて大塚家具のリブランディングを通じてタッグを組んだこともある両氏の対談が実現。
前編では、大塚氏が直面したプロキシーファイトの深層に迫った。後編では、「会社とは誰のものか」という根本的な価値観の相違や、深刻化する「後継者不足(2025年問題)」に焦点を当てる。親族外の第三者承継のリアル、そして「経済合理性」の波に飲まれ、消滅の危機にある伝統産業をどう守るのか。社会が果たすべき役割について、両氏が語り合う。
構成/井尾淳子 撮影/織田桂子

短期志向に陥る「株主資本主義」と「株主の質」
福田 アメリカでは今でも「会社は株主のもの」という考え方が徹底されていますが、日本の場合は社長が絶大な権力を持っていたり、共同体意識が残っていたりと、まだグラデーションがありますね。
大塚 はい。一方で、株主も色々です。短期利益ばかり考える株主の意向で社長が次々に変わるようになれば、社長は自分の任期中、どれだけ利益を出せるかしか考えなくなり、長期的な投資がおろそかになってしまいます。
福田 僕も企業のオーナーをやっていますが、株主が中長期の目線を持つかどうかは、本当に「人による」と感じます。
大塚 おっしゃる通りで、本来問われるべきは「株主の質」なんです。まとまった株を持って経営を支援・コントロールするブロックホルダーと、売り買いをして短期的なサヤを抜くだけの株主、あるいは配当だけを求める人。同じ株主でも役割が全く違います。権限を持つ人にはそれなりの責任が生じるという議論がもっと必要だと思います。
福田 その点、何百年も続いているようなファミリービジネスは、株式会社という制度にとらわれず事業を継承していくノウハウを持っていますよね。
大塚 そうですね。ですから、ファミリービジネスについて考えると、実は現在の株主資本主義的なものを相対化するっていうことができて、会社とは何なのか、あるいは事業とは何なのかというテーマでも、多角的な見方ができます。その点でも興味深いです。
あと、海外でのファミリービジネスの研究ですが、実は非ファミリービジネスよりもファミリービジネスの方が、長期的に業績が良いというデータを示す論文などもあって、それを検証した研究もされています。非経済的な固有の価値観やブランドに対する長期的なコミットメントがあるからという仮説がでています。今の世の中が短期利益を志向するマーケットだからこそ、逆に長期視点を持つファミリービジネスの存在意義が相対的に高まっているのかもしれません。
福田 そのデータは興味深いですね!
「プロ経営者」へのバトンタッチと悪質M&A仲介の罠

福田 前編ではファミリービジネスにおける価値観のズレについて伺いましたが、現在はそもそも「後継者がいない」という企業が圧倒的に増えています。いわゆる2025年問題(編集部註:団塊の世代が75歳以上となり、医療や福祉などへの影響だけでなく、事業承継の分野でも後継者不足が顕著になること)ですよね。久美子さんのご著書では、事業承継は第三者(相続人ではない親族を含む)でも可能だという前提に立たれていますよね。
大塚 ええ、親族による承継と第三者による承継、どちらも可能だと思っています。「親族だからできる」というわけでもありません。ただ、やりやすさや成功確率の面ではまた別の問題があります。今、親自身が「自分の子どもにこんな苦労をさせたくない」と考えたり、子ども側も経済合理性を考えて「安定した大企業や専門職に就いたほうがいい」と判断したりして、M&Aなどの第三者承継を選ぶケースが非常に増えています。
福田 僕も少し前に、「ひなびた温泉旅館の経営ができないかな」と思って事業承継のマッチングサイトに登録してみたんです。そうしたら、毎日ものすごい数の案件が届く。地方で、わずかでも黒字経営されているのに「後継者がいない」という理由で手放すケースが9割以上でした。僕のような外部の人間が飛び込んで奮闘して成功するような、「プロ経営者の一般化」がもっと進めばいいなと思うのですが。
大塚 そうした第三者承継が進むのは良いことですが、実務上は課題が山積しています。例えば、従業員などその会社を理解している第三者が経営を引き受ける場合、黒字になっている企業の株は経済的価値がついてしまいますが、経営を引き受ける従業員にそれを買い取る十分な資金があるとは限りません。相応しい人に経営を引き継いでもらうのは簡単ではないのです。さらに深刻なのは、M&Aの仲介会社の中に、非常に悪質な業者が増えていることです。不適切なデューデリジェンス(資産査定)や曖昧な条件のまま譲渡が行われ、結果的に承継が最悪の結末を迎えるケースが増加しています。
福田 帳簿に載っていない隠れ負債があるなど、さまざまなトラブルが起きやすい領域ですからね。外部からプロ経営者などが新たに経営に加わる場合、これまでの従業員の雇用をどう守るか、前経営者に1年程度は代表権を一部残して伴走してもらう、「ロックアップ期間」を設けるなど、安全に承継するための制度設計が急務ですね。
プロフィール

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科兼任講師。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

(ふくだ あつし)
スピーディ 代表取締役CEO(現任)、STARTO ENTERTAINMENT社 創業CEO、ソニー・デジタル エンタテインメント 創業CEO。日本最大のタレントエージェント経営、世界19か国での出版事業、ロサンゼルスでアートギャラリー運営、カリフォルニア全域・日本の沖縄・富士山麓でリゾート開発、無農薬ファーム運営、エストニアでのデジタルコンテンツ開発、スタートアップ投資など世界中でビジネスを展開。受賞歴にカルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞 (2016年)など。月刊誌『GOETHE』連載中。『好きな人が好きなことは好きになる』(Speedy Books)など7冊の著書、講演多数。
大塚久美子×福田淳







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原田曜平×田中渓
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