対談

なぜ今、沖縄を映画で描かなければと思ったのか

映画『私がまだ知らない沖縄』公開記念対談
猪股東吾× 奇妙礼太郎

沖縄に移り住み10年、オスプレイの墜落、辺野古の米軍基地建設、石垣島、与那国島の自衛隊基地など、現場へ通い、カメラを回し続けてきたジャーナリスト猪股東吾氏。そのひとつの集大成となる初監督ドキュメンタリー映画『私がまだ知らない沖縄』が10月31日、ポレポレ東中野はじめ全国で公開となる。それを記念し、ミュージシャンの奇妙礼太郎氏を迎えた特別対談が実現した。
理不尽な基地問題に直面しながらも、生身の人間として対話と抵抗を諦めない沖縄の現場の姿を映画で描いた猪股氏に、映画を観た感想と、今の日本に対する違和感を独特の表現で語る奇妙氏。沖縄に象徴される社会の息苦しさと、それをきちんと知ることから始まる希望について語り合う。

構成/浮島さとし 撮影/五十嵐和博

『私がまだ知らない沖縄』 10月31日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開 配給boid、Voice of Ghost©rude news films 2026 公式HP:madaokinawa.com

観光では見えない沖縄と選挙のデマ

───沖縄の現場で取材を重ねてこられた猪股さんが、その記録をこのたび、一本の映画としてまとめ上げられました。構想から完成までは、どれほどの時間をかけられたのでしょう。

猪股 本土復帰50年の節目となる2022年から撮影をはじめたので、そこから数えると4年か5年という感じですけど、映像自体はこの10年間のいろんなものを使っていますね。

奇妙 私も映画を観させてもらって、メモを取りながら何回も観たんですけど、知らなかったことがいっぱいありました。ニュースの断片を見ているだけじゃ、沖縄で起きていることの全体像って分からないじゃないですか。すごくフェアじゃないことがあそこで起きてるのに、遊びに行くだけではなかなか見えてこない。問題を知る入り口として「こんな映画、他にあるんかな」と思いますし、学校の授業とかで中高生全員が見たらいいのにって。10代の人たちには特に見てほしいですね。

映画を観ながら取ったメモを猪股監督に見せる奇妙礼太郎さん(左)

───奇妙さんは昔から沖縄の問題に関心があったんですか。

奇妙 そういうわけでもないんです。なんとなく基地の話とか座り込みとか、ニュースで目にはしてましたけど、「そういうのがあるんやな」くらいで。だから、何が自分にとって大きなきっかけになったのかなって、こないだも家で考えてたんですけど、上間陽子さんの『海をあげる』(筑摩書房)を読んだり、最近の映画でいうと『宝島』(大友啓史監督)や『遠いところ』(工藤将亮監督)あたりを観たりしてからですかね。

猪股 どちらも沖縄の過酷な現実を描いた作品ですよね。

奇妙 最近も見直してみたんですけど、ただの観光で行くだけじゃ絶対に立ち会えない沖縄がそこにあるんですよ。で、観てるうちに、ただ沖縄で遊んで帰ってくるだけの自分に、何だか居心地の悪さや気持ち悪さを感じるようになったのかもしれないですね。

───その違和感や感性があってこそ、初めて見えてくる現実があるのだと思います。猪股さんも、最初から今のような強い問題意識を持って沖縄に入られたわけではないですよね。それが気づけば、もう10年沖縄に関わり続けていらっしゃる。

猪股 そうなんですよ。10年前の段階では、お恥ずかしい話ですけど「座り込みでお金をもらっている人が本当にいるんじゃないか」って思っていましたからね。だから、映画の中で、座り込み現場でおばあさんと対話する18歳と24歳の女性が登場しますけど、自分も彼女たちと同じように、知らなかったことを一つひとつ発見していくような感じでしたね。

映画の中で、座り込み現場でおばあさんと対話する沖縄県出身の18歳、平良すみれさん(左)と、大阪府出身の24歳、舟田志穂さん ©rude news films 2026

奇妙 私も、なんにも知らないところから始めているので、そこは一緒ですね。映画で印象に残ってるのは、やっぱり数字というかデータかな。さっきも言ったようにメモしながら観てたんですけど、エビデンスを突き付けられて、思っていた何倍もフェアじゃない現実を知って、かなり刺さりました。しかも、そのアンフェアなことをさらに押し進めようとしているわけですから、こういう事実を国民が知ると困るんやろうなと思いましたね。

猪股 もともと、予備知識がゼロに近い人にも観てもらいたいという思いで作ったんですよ。だから普通ならテロップに書かないような初歩的な背景まで、あえて画面に入れたりしてね。なので奇妙さんにそう受け止めてもらえたなら、やった甲斐があったし、ちゃんと伝わったんだなと嬉しくなります。この手の作品って、ある程度あらかじめ知っている人向けになりがちですけど、誰が観ても何かしらを感じて帰れる映画を目指したので。

奇妙 伝わりましたね。刺さりました。

きみょう れいたろう/ Strange Reitaro 大阪府出身。シンガーソングライター。1998年より音楽活動開始。年間150本以上のライブに出演。ボーカリストとして多数のCM歌唱も担当するほか、写真展も実施するなど活動は多岐にわたる。2026年自身初の日本武道館単独公演を開催。

猪股 あと、辺野古に関しては、工事車両が来る時間に合わせて座り込むことで、実際、搬入の時間をめちゃくちゃ遅らせて数を減らしているという実態も、世間には全然伝わっていないんですよね。内地のリベラルの人ですら「ただデモをやっているのと一緒」みたいに思っている人がけっこういたりして。でも、そういう細かい現実を知ることで、人の見方って変わっていくと思うんですよ。自分も最初は知らなかったけれど、知って驚いて変わっていったので、きっと他の人もそうだろうなって。

───先ほどの「フェアじゃない」という言葉にも通じますが、大きな力で強引に押しつぶしてくるようなことが、今や沖縄だけではなく、日本中の至るところで起こり始めているように感じます。

猪股 社会の歪みって、いつも沖縄で一番最初に現れる気がするんですよ。今や選挙のフェイクニュースって世界中で問題になっていますけど、2018年の名護市長選の時点ですでにデマの手法が使われていましたからね。沖縄で実験されているような感覚すらあります。

 この前の知事選でも、玉城デニーさんが15万票近い大差をつけられて敗れましたが、古謝陣営に投票した有権者を取材してみると、誤った情報を信じ込まされてる人がたくさんいたんです。これは本当に危険な兆候だと思いましたね。しかも、デニーさん側を応援しただけで攻撃され、家族のプライベートや離婚歴まで晒されてしまったり。顔を出して応援することすらできない選挙になっていた。

 あと、選挙って普通は当日(日曜日)の0時になったら、両陣営とも選挙違反を気にして、SNSもピタッと止めてシーンとなるものなんですよね。この10年ずっとそうだった。でも今回は、0時を過ぎてもデマや誹謗中傷がずーっと止まらなくて。「デニーさんの親が何人
なにじん
だ」みたいなデタラメが、翌日の投票中も垂れ流され続けていた。あんな見たこともない暴力的な選挙で、結局その暴力を使った側が勝ってしまった。

奇妙 だからもう、めちゃくちゃなんですよね。なのにそれが通ってしまう。

猪股 こんなやり方が通るなら、国が「戦争するぞ」と言い出したときも同じロジックが使われますよ。反対する人を貶めて、「反日」だ「非国民」だとレッテルを貼って、戦争が正しいこととして一気に突き進んでいってしまう。その危うい未来が、今回の選挙でハッキリ見えてしまった気がするんです。

 しかもネットを見ていると、デマを流したり誹謗中傷したりしてる人たち自身が、それを「正義」だと思い込んでいるフシすらある。「自分は正しいことをやっている」「極悪なデニーを倒さなきゃいけないんだ」っていう〝正義〟ですね。

奇妙 正義のヒーローの矛先がすっかり付け替えられちゃっているんだろうなと。日本人ってほんとは『ドラゴンボール』とか、ヒーロー大好きなはずなのに。

猪股 今回、小学校の先生から聞いた話では、学校で子どもたちが「デニーさんが知事になると人権がなくなるって本当ですか」と質問してきたらしいですよ。スマホにショート動画が無差別に流れてきて、それが子どもにも刷り込まれちゃっている。だからこそ、僕はショート動画みたいなものから一度離れたいと思っていて。映画って、劇場で2時間スマホを切らせるという、今の時代には貴重な体験ができるじゃないですか。奇妙さんたちの音楽のライブもそうだと思いますが、集中して実物と向き合う感覚を味わってほしいんです。

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プロフィール

猪股東吾× 奇妙礼太郎

猪股東吾(いのまた とうご)

1982年、東京都生まれ。大袈裟太郎名義でラッパーとして音楽活動をしながら、映画館スタッフ、放送作家、鳶職、人力車の俥夫など様々な職業を経験。2016年に沖縄に移住し、ジャーナリストとしての活動を開始。同地の米軍基地問題をはじめ、香港の民主化運動、アメリカのブラック・ライヴズ・マター運動などを取材し、動画配信や記事の執筆を行う。『私がまだ知らない沖縄』を約4年かけて制作。

奇妙礼太郎(きみょう れいたろう/ Strange Reitaro)

大阪府出身。シンガーソングライター。1998年より音楽活動開始。年間150本以上のライブに出演。ボーカリストとして多数のCM歌唱も担当するほか、写真展も実施するなど活動は多岐にわたる。2026年自身初の日本武道館単独公演を開催。

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