対談

なぜ今、沖縄を映画で描かなければと思ったのか

映画『私がまだ知らない沖縄』公開記念対談
猪股東吾× 奇妙礼太郎

「暴力集団」の嘘と名もなき声の記録

奇妙 画面越しで見ているだけじゃ、その人たちのしんどさや人生なんて想像がつかないですからね。僕もさっき言った上間陽子さんのとか、インスタで気になった本を保存しては買うんですけど、本を読んだり映画を観たりしていると、猪股さんや上間さんみたいに現地へ行って現実と向き合い続ける人たちって、本当にすごいと思うんです。現場に立ち続けるのって、めちゃくちゃ面倒くさいし、しんどいじゃないですか。自分にはとてもできないから、『遠いところ』の工藤将亮監督なんかも含めて純粋に尊敬しますね。

猪股 県外の人間が沖縄を描くと、どうしても「搾取じゃないか」という批判がつきまとうし、僕自身そう言われないようにものすごく気をつけていますけど、これは一生言われ続ける覚悟が必要だなと思っています。

奇妙 でも、そうやって自覚的でいること自体が大事ですよね。それに対して、権力側は、絶対に反省しないですから。反省する機能がないというか、だからこそあんなに強いんやろうなとも思いますし。

──今、奇妙さんがおっしゃった「反省しない」という話、権力側は第二次安倍政権あたりから、相手の話をちゃんと聞いて受け止めないし、質問にも答えない。それでは対話にならないので変わりようがないですよね。奇妙さんが違和感を抱いているのは、そうやって「反省する機能」を失って、まともなコミュニケーションすら成り立たなくなってきている社会の不気味さなのかもしれませんね。

奇妙 悪い奴がいるのは世の常だし、大きな権力が動くのも分かりますけど、それにしても、権力側も「もうちょっと上手いことやれへんのかな」とは思いますね。締め付けすぎて、いよいよやり方が下手くそになってきている。タガが外れている状態というか。昔みたいに適度に落とし所を探っていれば、そこまで不満も出ないはずなのに、国民に疑問を持たせないような教育や情報統制ばかりが先行している気がします。

猪股 だからこそ、僕は映画という形で残したいと思ったんです。この間の試写で、戦争体験者の高齢者たちの本音が、スクリーンに、ほんとの顔より何倍も大きい顔で、大きい音で出て、しかも、それが東京とか全国いろんなとこに流せるんだって思ったら、それですごい大事な仕事したなって思いました。彼らはネットもSNSもやらないから、映画の中身の確認も全部電話で一回一回やり取りして、最近は耳も遠くなってきてて大変でしたけど、だから今ちゃんと撮らなきゃいけない。そうやったことで、現場の人たちに信頼してもらえているのは本当にありがたいです。

石垣島の陸上自衛隊配備に反対する山里節子さん(中央)。その行動の理由が映画では語られる ©rude news films 2026

───そうして現場に足を運んで生身の人間と向き合ってきたからこそ、デマとは真逆の現実が見えてくるわけですね。

猪股 そうなんです。さっき警官の話が出ましたけど、「座り込んでいる人たちが暴力集団じゃない」なんてことは、現場の警官たちが一番わかってますからね。

奇妙 そうですよね。

猪股 特にこの5年くらいは不当逮捕すら出ていないんですよ。警察官の中にも「実は前の知事選でデニーさんに入れた」と小声で教えてくれる人がいたり。基地の中から米兵が座り込みを見下ろしてカメラを向けていた時も、県警が「あそこに米兵が出てきたから、撮ったほうがいいよ」と教えてくれたりして。奇妙な仲間意識すらあるんです。

 米兵の性暴力事件が起きた時も、県警は本当にギリギリのところで頑張っている。もし容疑者が基地の中に逃げ込んでしまっていたら、うやむやにされてしまうかもしれないですから。警察の現場は本当にしんどい矛盾を抱えていると思いますよ。

奇妙 若い人の間でもデモとかに参加する人が増えていたりして、少しずつ流れが変わってきている気もしますけど。

猪股 映画公開にあわせて配給会社が作ってくれたフリーペーパーやパンフレットにいろんな方が寄稿してくれていて、奥浜レイラさんの文章も素晴らしかった。自分が伝えたいことがちゃんと届いた手応えがあって、本当に嬉しかったです。クラウドファンディングで支援してくれた約300人の方々のおかげで、孤独にならずに走り切れたし、「後ろで見ていてくれる人がいる」と思えたからこそ、サボらずに完成させることができたと思ってます。

借り物の言葉を捨て、生身の実感へ

奇妙 この映画、『警察24時』とか「万引きGメン」みたいなドキュメンタリーが好きな人にも観てほしいですね(笑)。「えっ、現場でこんなことしてたんや!」って絶対に食いついてくれると思う。権力のやってることって、一般が思っているよりもずっと強烈でやり過ぎだし、「こんな無茶苦茶が普通にまかり通っているんや」という現実に、みんなが驚くはずです。知らないうちに、しれっと裏で進められていることの怖さというか。

猪股 僕が10年前に取材を始めた時も、賛成・反対の前に「まず事実をベースに議論できる土台を作らなきゃ」という思いからでした。右とか左とか関係なく、事実を知れば「これはあまりに理不尽だ」と分かるはずなんです。「中国の脅威」を理由にすべてを正当化しようとする言説もありますけど、これだけ事件や事故が放置されたら県民が基地に反発するのは当たり前で、むしろ防衛の観点から見ても逆効果じゃないかと。米軍の特権や理不尽をなくすことは誰にとっても望ましいはずなのに、日本政府はそこから目を背け続けている。

奇妙 足元のそういう矛盾を放置したまま、アメリカの大統領選の結果ばかり気にして一喜一憂しているのを見ると、本当に滑稽やなと思いますね。

───国家や権力と一体化して「勝った側」に乗っかることで、「自分は正しい」「自分は正義」みたいに思考停止してしまう人が増えている。奇妙さんが感じる居心地の悪さは、そうした「自分の頭で考えず、反省もしない空気」に対する違和感なのでしょうね。

猪股 もちろん国の姿勢が圧倒的に不誠実なんですが、一方でリベラル側の言葉が判で押したようなお決まりのフレーズばかりになってしまうのも、僕はすごく危ういと思っていて。僕自身、現場を10年撮り続けていても、いまだにシュプレヒコールには馴染めないんです。紋切り型のスローガンではなく、一人ひとりが自分の実感に基づいた言葉を持たなきゃいけない。実際、僕のこの映画に登場する人たちは、みんな自分自身の言葉で語っている人たちですから。

奇妙 そうですね。映画に出てくる人たちって、お仕着せの言葉じゃなくて生身の実感で喋っているからこそスッと入ってくるというか。

 だからこそ、映画の中でデータや数字がポンと出された時に、「あ、本土に住む人たちに実感が湧かないよう、巧妙にしわ寄せを沖縄に押しつけてきたんやな」っていう構造が余計に際立って見えたんですよね。昔は本土にもたくさんあった米軍基地が、住民運動や事件をきっかけにどんどん減っていった歴史もありますよね。

猪股 そうなんです。かつては本土の代々木公園や立川、茅ヶ崎なんかにも広大な基地があって、今の沖縄と同じように事件や事故の被害が多発していた。それが本土復帰と前後して、米軍施政下だった沖縄へ、基地がどんどん押し付けられていったという経緯があるんです。

奇妙 一気にすべてを解決するのは難しいかもしれないけれど、自分ができる範囲で、しれっとやれることをやっておきたいなとは思います。本当に難しい問題ですけど。

───「反省しない強権」に対して、猪股監督は迷い、現場で揺れながら「これはおかしいんじゃないか」という自分の実感から映画を立ち上げている。見えているつもりでも実は知らないことばかりだと気づかされる、まさに『私がまだ知らない沖縄』というタイトル通りの作品だと感じます。

猪股 きっとこれからも、撮り続けていくんだと思います。本当は、僕みたいな人間がこんな映画を撮らなくて済む世界が一番なんですけどね(笑)。

奇妙 本当に。みんな普通に、のんきに暮らしたいだけですから(笑)。

猪股 なんにも撮る必要がない平和な世界が来てほしい。でも、理不尽な現実が続いている以上、カメラを回し、事実を記録して伝えていく責任があると思っています。知ることからしか変化は始まりません。ぜひ劇場に足を運んで、いまの沖縄のリアルを体感していただけたらと思いますね。

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プロフィール

猪股東吾× 奇妙礼太郎

猪股東吾(いのまた とうご)

1982年、東京都生まれ。大袈裟太郎名義でラッパーとして音楽活動をしながら、映画館スタッフ、放送作家、鳶職、人力車の俥夫など様々な職業を経験。2016年に沖縄に移住し、ジャーナリストとしての活動を開始。同地の米軍基地問題をはじめ、香港の民主化運動、アメリカのブラック・ライヴズ・マター運動などを取材し、動画配信や記事の執筆を行う。『私がまだ知らない沖縄』を約4年かけて制作。

奇妙礼太郎(きみょう れいたろう/ Strange Reitaro)

大阪府出身。シンガーソングライター。1998年より音楽活動開始。年間150本以上のライブに出演。ボーカリストとして多数のCM歌唱も担当するほか、写真展も実施するなど活動は多岐にわたる。2026年自身初の日本武道館単独公演を開催。

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