宇都宮直子 スケートを語る 第6回

トルソワ後編

宇都宮直子
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「サンボ70」には、美しいアリーナ・ザギトワがいる。韓国、平昌のオリンピックチャンピオンだ。
 トルソワとともに「三人娘」と呼ばれた天才、アリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワがいる。彼女らに続く若き才能たちが集っている。
 そうした環境から離れたのは、いかにももったいなかった。ただ、そんなことは、トルソワは百も承知だったろう。その上で、彼女は新しい道を行くことにしたのだ。

 移籍に際し、トルソワは多くを語っていない。
 いくつかの報道によれば、
「新たな行動は、新たな成果を生むために必要である。簡単な決断ではないが、熟慮し、勇敢に前に進まなければならない」
 としている。
 私見だが、トルソワには、「サンボ70」は足りなかったのだと思う。好条件の揃うリンクを、自ら手放したのだ。「勇敢に」の理由は必ずある。ないわけがない。
 移籍は、とてもデリケートな問題である。過去、山田満知子コーチが話していた。
「いったんだめになったら、もうどうしようもないの。恋と同じ」
 トルソワも、何かが「だめ」になっていたのではないか。苦しくてたまらなかったのではないか。

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子

ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また4月には『三國連太郎、彷徨う魂へ』が刊行されている。

 

 
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