宇都宮直子 スケートを語る 第6回

トルソワ後編

宇都宮直子

 トゥトベリーゼは、愛弟子の離脱に傷ついた。「有利な条件の提示」を口にし、暗にプルシェンコとトルソワを非難している。
 だが、選手は簡単には「有利な条件(それが、実際にあったとしての話だが)」は乗らない。
 日々が満ち足りているとしたら、どうしてそこから離れようとするだろう。「恋」が破れるのには、それなりのわけがあるのだ。
 傷は、トゥトベリーゼだけが受けたわけではない。行動を起こした少女の負った傷も浅くはなかったと思う。
 トルソワは、プルシェンコを「偉大なアスリート」と称え、来シーズンでの成功を誓っている。
 プルシェンコが偉大なのは間違いないが、指導者としてはまだ未知数である。トルソワとのこれからに期待したい。大いに、だ。
 私は困難な道を行く人に惹かれる。傷だらけにならなければ、前に進めない一歩があると思っている。
 だから、トルソワの決断に拍手を送る。今後もし、「有利な条件」の存在が明らかになったとしても、支持する。
 アレクサンドラ・トルソワの人生は、彼女自身のものだ。誰にも、何にも、束縛されない。

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子

ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また4月には『三國連太郎、彷徨う魂へ』が刊行されている。

 

 
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