連載:座間9人殺害事件裁判 第9回

座間9人殺害事件裁判「コミュ力高め」

共同通信社会部取材班

日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。 

「初対面で何となく、相手が私をどう思っているかが分かる気がします」。白石隆浩被告は公判で、こう言って自信を見せた。記者と接見した際も「どんな答えがほしくて質問しているか、分かるんです」と笑っていた。

たった3カ月の間に9人も殺害することが可能になったのは、被害者を次々と自宅に誘い込むことができたから。若い女性が初対面の男の家に入るのは簡単ではないのに、白石被告はなんなく成功していた。無理やりでなく、脅しもせずに部屋に入れることができたのはなぜなのか。鍵は被告のコミュニケーション能力にあった。

※白石隆浩被告は2021年1月5日に死刑判決が確定し、呼称は「白石隆浩死刑囚」に変わりましたが、この連載では変わらず「被告」と表記します。

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

 11月2日の第15回公判。7人目の被害者Gさんの事件に関する被告人質問が行われた。埼玉県の女子高校生であるGさんについては、白石被告の供述以外、検察側が示せた証拠は少ない。事件に巻き込まれたと言える根拠も、被告宅のクーラーボックスから遺体の一部が見つかったこと、Gさんが白石被告のツイッターのアカウントをフォローしていたこと、被告宅の近くを、被告と一緒に歩く様子が防犯カメラに写っていたことだけだ。他の被害者のような、ツイッターやLINEのやりとりは残っていない。白石被告も、Gさんに関する記憶は極端に少ないらしく、質問にも「覚えていない」と繰り返した。

 Gさんの印象として語ったのは、わずかに

「私に対する好意が感じられない、距離感がちょっと遠いなと思いました」

「話を深掘りしても、自分のことを話してくれなかったので」

「私に好意をもつようなタイプではないと感覚で分かりました」

 という程度。言葉通りなら、Gさんは初めて会った被告をあまり信用していなかったようだ。それなのに、なぜか被告の部屋に入っていった。

 検察官からその理由を問われた白石被告は、こう説明した。

「女性を『性格は暗いけど、誘うとつられて来ちゃう子』と、『誘っても性格が暗いから信用してない男性の所には行かない子』に分類すると、Gさんは『性格は暗いけど、誘うと断れなくて何となくついて来ちゃう子』と思えたからです。経験として」

 被告が語ったこのGさんの特徴は、公判で検察官が読み上げたGさんの担任教諭や仲のいい同級生の調書と奇妙に符合する。担任教諭は、みんながやりたがらないクラスの役員をGさんがやりすぎていたため、心配していた。同級生も「私の悩みを親身に聞いてくれる存在でした。ホームルーム委員とか、文化祭で垂れ幕を作るなど、みんなが嫌なことをしてくれました」と述べていた。

 人が嫌がることでも断り切れない優しいGさんの性格を、被告は初対面ですぐに感じ取り、それを悪用したことになる。

 

 ▽会ってみたいと思わせる

 これまでの公判で、裁判官や検察官は、白石被告がそれぞれの被害者と何を話したか、被害者がどんな悩みを打ち明けたか、被告は何と声をかけたかなどを、被害者一人一人について尋ねている。

 好きな人がいて、その人と一緒に暮らすことを望んでいたAさんに対しては、白石被告は「一緒に暮らそう」と伝えた。家庭での人間関係に悩んでいたBさんには「少しの間、居候という形で、うちで養ってあげるよ」と言い、恋人と別れて、仕事もうまくいっていなかった男性のCさんには「女性に困らないホストの仕事を紹介する」と誘った。自分の容姿にコンプレックスを抱き、過度な食事制限などをしていたFさんには「(容姿が)そんなに悪くないよ」と話し、一緒にコンビニでスイーツをたくさん買い込んだり宅配ピザを頼んだりした。

 相手の気持ちを推し量り、相手に合わせた会話をすることが得意だと随所で感じた。その力は会話だけでなく、SNSを通じたやりとりの段階から発揮している。例えば、第12回公判では5人目の被害者Eさんに送ったメッセージの意図が明らかにされている。被告はこの時、弁護側の質問にも珍しく丁寧に答えていた。

 弁護人「Eさんと『いつごろ死ぬか』という話になり、『私はすぐ死にたい』とメッセージを送った記憶はありますか」

 白石「はい」

 弁護人「本心だったのですか」

 白石「うそです。会うためには最適だと判断して送っています」

 弁護人「なぜですか」

 白石「そういう文章を送ると(Eさんが)返信するからです」

 弁護人「自殺場所について森や山を検討する文章を送ったのはなぜですか」

 白石「森や山は難しいということで、部屋でやりましょうと誘導するために」

 弁護人「Eさんの部屋も選択肢に入れたのはなぜですか」

 白石「いきなり私の部屋を選択すると、Eさんが『嫌だな』という気持ちになるとやりとりが終了してしまうので。Eさんがもし『私の部屋』と言っていたら、とりあえず会いに行っていました」

 

 その後、一緒に自殺する前提で会う約束を取り付けた被告は「Eさんはまだ幸せになる可能性がある。会って元気そうなら中止」とメッセージを送った。

 弁護人「どういう趣旨で送ったんですか」

 白石「いい人と思わせるためです。信用して『この人に会ってみたい』と思わせるためです」

 

 被告はその後も「私も空っぽなので分かります。私も死にたい」「一緒に死んでくれると嬉しい」「先が見えず、今すぐ死にたい」と送り続けている。

 弁護人「本心ですか」

 白石「うそです。Eさんが死を望むツイートをしているので、同調しました」

 

 やりとりの結果、Eさんは被告宅に来ることになった。白石被告は駅名を伝えるのだが、なぜか最寄りの相武台前駅とは異なる駅を告げている。

 弁護人「相模大野駅を指定したのはなぜ」

 白石被告は「遠くから来る場合、相武台前駅はへんぴな場所なので行きたくなくなる可能性があります」

 

 そう伝え、Eさんが相模大野駅に到着した段階で「ここまで来たらさすがに引き返さないだろうと思って」相武台前駅まで来させ、部屋に招き入れている。

Gさんと白石被告が一緒に防犯カメラに写っていた場所の周辺

 ほかの被害者のケースでも似たやりとりをしている。被告は相手の反応を確かめながら、細心の注意を払ってSNSの文言を選んでいることが分かる。そのためにはうそをつくこともいとわない、というより大半がうそだ。言い換えれば、相手に合わせるといっても、気持ちに寄り添ったり、共感したりという感覚ではない。たとえて言えば「自分がこう言えば、相手はこういう気持ちになる」というパターンを覚え、状況に応じてゲームのように使い分けているように見える。

 SNSだけで相手の気持ちを自分に引き寄せる手口は、スカウト時代に学んだと、以前の公判で明かしている。「弱っている女性は操作しやすい」ことも、スカウトの経験で知っていたという。経験から得た分析を基に、ツイッターで「死にたい」とか「寂しい」などとつぶやいた女性に接触した。

 

 ▽被害者が求めた言葉

 白石被告は被害者らに会った後も、より信用を得るために、「相手の悩みを深掘りしたり、容姿を褒めたりして口説いた」と法廷で説明している。相手の心の内を読んで、どんなタイプの人間か、自分をどう思っているか、何を求めているかを分析し、徹底的に相手に合わせて接することで、相手を「口説いた」と力説していた。そういう能力は高そうだと思った。

 そうは言っても、被害者が被告と実際に会ってから家に上がるまでは長くて数時間だった。そんなに短時間で警戒心を解けるだろうか。そんな疑問を抱いた時、初公判前の昨年7月に接見した際の白井被告の様子を思い出した。

 当時、記者は面会室に入る直前まで不安な気持ちでいた。9人を殺害し、解体までした男に会うこと自体、気が重い上、菓子や本などの差し入れをしないとろくに話してくれない人間だと聞いていたため、ナーバスになっていた。しかし、わずか30分の面会が終わる頃には、気持ちがほぐれ、被告に対する警戒心もほぼなくなっていた。

 被告は接見中、記者に関心がある様子を見せて質問をし、時には容姿や人柄を褒めた。印象的だったのは、記者が言葉に詰まると話題を振ったりおどけたりして終始気遣う様子を見せたこと。それに記者の名前をすぐ覚え、何度も呼んできたことだ。

「今、はまってるのは漫画です。平林(記者の名前)さん、おすすめありますか?」

「将棋もやります。平林さん、将棋やったことあります?」

「平林さん、格闘技したことありますか? 筋トレと格闘技も好きなんですけど……」

 軽薄だとは思ったが、こちらに多少心を開いているように感じてしまった。話し方や聞き方も丁寧で口調も穏やか。少なくとも意に反する言葉で人を傷つけたり、危害を加えたりするようには見えなかった。

 面会が終了し、凶悪殺人犯としての被告と、さっきまで目の前にいた優しそうな男とのギャップに、正直言って困惑した。もし私が被害者と同じ状況で家に誘われたとしたら、絶対に入っていないと確信できない。そう考えた時、被告の恐ろしさを実感した。

 その後、白石被告が記者の面会の申し入れに一度も応じなかったことにも驚いた。親しげな様子との落差に面食らったと言った方がいいかもしれない。拘置所へ送った手紙に対しても、一度も返事はこなかった。目的を達成するまでは相手にとことん合わせて尽くすが、利益にならないと分かると全く興味を示さないという被告の本質が表れていたと言える。

 相手に合わせる白石被告の言動は、すべて自分の目的を達成するためのものだ。だが、被害者たちにとっては、一時的にせよ悩みや苦しみから解放してくれる「ほしい言葉」だったのかもしれない。わらにもすがる思いではき出した自分の悩みをとことん聞いてくれて、最後にはほしい言葉をかけてくれる、「死にたい」と口にするような時にそんな人に出会ったら、救世主のように感じてしまうかもしれない。実際、A、B、Cさんは被告に会って悩みを打ち明けた後に「やっぱり生きよう」と、生きることに前向きになっていた。

 11月5日の第16回公判では、D~Gさんの4人の事件について、中間論告と中間弁論が行われた。A~Cさんの時と同様に、検察側は「被害者にはいずれも殺害される承諾はなく、被告に突然襲われ殺された」と主張。弁護側は「被害者には死にたい気持ちがあり、死ぬために被告に会いに行った」と反論した。双方の主張は真っ向から対立したまま、7人目の被害者の事件まで審理は終わった。次回から、最後に殺害された2人の審理が始まる。

(つづく)

 

執筆/共同通信社会部取材班

 

 

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プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

 
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