キャシー・リードと会うのは初めてではなかった。
ただ、それは試合であったり、記者会見であったり、ホテルから会場へ移動するバスの中であったり(過去には可能だったが、現在は選手やコーチとの同乗はできない)にとどまる。
つまり、私はよく知っているが、彼女はぜんぜん知らないという、よくあるインタビュイーとインタビュアーの関係である。
にもかかわらず、キャシーは、はじめからすごくフレンドリーだった。
「日本が大好きな気持ち」、ファンへの「I LOVE YOUの気持ち」は、まったく変わらないのだと言った。
「小さい頃から、私には『日本人』という気持ちがあった。今は日本に来られて、めっちゃ幸せ」
と笑った。
キャシーは、私がクリス・リードについて訊くまで、ずっとそんなふうだった。クリスは2020年3月15日、心臓の病で突然、逝ってしまった。30歳という若さである。
最愛の弟、クリスの話をするとき、キャシーは泣いた。涙がぽろぽろとこぼれ、止まらなかった。
それでも、彼女はクリスの話を続けた。
「クリスのことを毎日、考えている。いつも 『I LOVE YOU』と言っている。
みんなに、クリスを忘れてほしくない。覚えていてほしい。それはほんとうに大事だから、ずっと話し続けたい。
今日の出会いに感謝しています。私とクリスのことを書いてくれてありがとう。すばらしいです」
コロナ禍で多くの人の予定は、大きく変えられた。
クリス・リードもそうだったのだと思う。
彼は、姉と一緒に、「大好き」な日本でアイスダンスの選手育成に尽力するつもりでいた。そのための荷物も日本へ送っていた。
クリスの当時の思いを、2020年3月11日のブログから引用する。全文を、そのままだ。承認は、キャシーから受けている。
「どうぞ、全部、使ってください。もちろん」
と、彼女は言った。
ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。