宇都宮直子 スケートを語る 第22回

I LOVE YOU

宇都宮直子

 キャシーとクリスは、アメリカミシガン州の出身である。

 11歳と9歳で、フィギュアスケートを始めた。ノービスのクラスでアメリカ選手権で優勝している。

 母親が日本人のハーフだが、それ故、18歳での来日時、キャシーにはこんな思いもあったらしい。

「私、ハーフだから、日本の人たちのイメージはどうかな?(日本人に)見えるかな、見えないかな? それをちょっと心配しましたね」

 心配は、杞憂に過ぎなかった。

 フィギュアスケート関係者には、華やかで、背が高く、足の長いカップルの誕生を喜ぶ声が多かったし、試合において「誰かに見える」必要はなかった。まったく、だ。

 さらに言えば、彼らは間違いなく日本人だった。

 キャシーは言う。

「私たちはふたつの国籍を持っていて、日本とアメリカの両方にチャンスがありました。

 でも、私とクリス、日本に毎年行っていましたし、おばあさんも日本に住んでいた。お母さんとおばあさんは、日本のことをたくさん教えてくれました。

 だから、『私は日本人』という思いは小さな頃からありました。

 日本人として、試合に出るのが『正しい』と思いました。ものすごく自然なこと。両親も応援してくれていたし、何も問題はなかった」

 こういう話の間にも、彼女はちょくちょく「日本が大好き」という言葉を挟んだ。

 その言葉に、深く心を揺さぶられる。キャシー・リードの語りには、日本人としての誇りが溢れている。それが、「めっちゃ」嬉しかった。

 日本のどこが「大好き」なのかを訊ねると、彼女は笑った。

「難しい質問!」

 笑いながら、続ける。

「クリスは、たぶん食事がいちばん好きだと思う。日本食がめっちゃ好きだった。

 私は日本食も好きだけど、カルチャーがめっちゃ好きです。神社とかにも行きます。日本の自然、ビューティがすごい好きで、それは私のスケーティングにも入れられたかなって……。

 私はアメリカも好きだけど、日本人の考え方が自分にはフィットします。絶対に日本。もうほんとうに日本、絶対です。

 小さい頃、日本語があまり話せなかったけど、中身は日本人でした。日本の心が強いので」

 透き通ったスピリッツの紹介をして、22回めの連載を閉じようと思う。次回も、またふたりの足跡を綴る。

 彼女と、それから彼の「I LOVE YOU」の話だ。

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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