キャシーとクリスは、アメリカミシガン州の出身である。
11歳と9歳で、フィギュアスケートを始めた。ノービスのクラスでアメリカ選手権で優勝している。
母親が日本人のハーフだが、それ故、18歳での来日時、キャシーにはこんな思いもあったらしい。
「私、ハーフだから、日本の人たちのイメージはどうかな?(日本人に)見えるかな、見えないかな? それをちょっと心配しましたね」
心配は、杞憂に過ぎなかった。
フィギュアスケート関係者には、華やかで、背が高く、足の長いカップルの誕生を喜ぶ声が多かったし、試合において「誰かに見える」必要はなかった。まったく、だ。
さらに言えば、彼らは間違いなく日本人だった。
キャシーは言う。
「私たちはふたつの国籍を持っていて、日本とアメリカの両方にチャンスがありました。
でも、私とクリス、日本に毎年行っていましたし、おばあさんも日本に住んでいた。お母さんとおばあさんは、日本のことをたくさん教えてくれました。
だから、『私は日本人』という思いは小さな頃からありました。
日本人として、試合に出るのが『正しい』と思いました。ものすごく自然なこと。両親も応援してくれていたし、何も問題はなかった」
こういう話の間にも、彼女はちょくちょく「日本が大好き」という言葉を挟んだ。
その言葉に、深く心を揺さぶられる。キャシー・リードの語りには、日本人としての誇りが溢れている。それが、「めっちゃ」嬉しかった。
日本のどこが「大好き」なのかを訊ねると、彼女は笑った。
「難しい質問!」
笑いながら、続ける。
「クリスは、たぶん食事がいちばん好きだと思う。日本食がめっちゃ好きだった。
私は日本食も好きだけど、カルチャーがめっちゃ好きです。神社とかにも行きます。日本の自然、ビューティがすごい好きで、それは私のスケーティングにも入れられたかなって……。
私はアメリカも好きだけど、日本人の考え方が自分にはフィットします。絶対に日本。もうほんとうに日本、絶対です。
小さい頃、日本語があまり話せなかったけど、中身は日本人でした。日本の心が強いので」
透き通ったスピリッツの紹介をして、22回めの連載を閉じようと思う。次回も、またふたりの足跡を綴る。
彼女と、それから彼の「I LOVE YOU」の話だ。
ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。