春以降、原稿は一本しか書かなかった。アイスショーにも行かなかった。目が回ってしまうので、テレビもあまり見なかった。
新型コロナワクチンの接種を二回、受けた。基礎疾患枠で、ファイザー製だった。一回目は腹痛が酷く、二回目は血圧が二〇〇近くまで上がった。アレルギー体質のためか、モデルナアームのような症状も出た。
でも、後悔はしていない。受けられてよかったと思う。接種は義務ではないが、重症化リスクの高い私には必要だったのだ。
都築章一郎コーチとは一度会って、一度電話で話をした。
「お元気でいらっしゃいましたか?」
挨拶を交わしてから、羽生結弦の話を真剣にした。
都築は穏やかな人だが、羽生の話をするときは熱くて鋭い。ときおり尖る。たぶん、人生をかけて、羽生を愛しているのだと思う。都築の話を、私は涙を浮かべながら聴く。いつもそうだ。
九月の終盤には、集英社の編集者と会った。
連載の担当者は「フィギュアスケート」と書いて「羽生結弦」と読む(実を言えば、私にもそういう傾向がある)。筋金入りの羽生ファンだ。
その日も、羽生結弦の話をした。原稿が書きたくなるくらい、たくさんした。楽しかった。
体調を崩したり、新型コロナウイルスの影響を受け、執筆は休んでいた。だけど、そろそろ仕事に戻らなければ、本の刊行が遅れてしまう。来年に、二冊の予定だ。
そういうわけで、連載も再開させていただく。まず、ロシアのことを書きたいと思う。コロナさえなければ、ロシア関連の本が今年刊行になっていた。
海外での取材は、今も困難だ。二重三重に課題がある。
それでも、
「またお目にかかりましょう」
と約束をした人たちが、ロシアにはいる。タフな国だが、私はロシアが恋しい。とても懐かしい。だから、書く。
ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。