京都へ行ってきた。
緑は力を失い、褪せている。でも、紅葉にはまだ早い。蝶がちらちら舞うように飛んでいる。そんな季節に、だ。
訪ねたのは、京都府宇治市にある「木下アカデミー京都アイスアリーナ」である。広大な森の近く、小高い丘の上に建っている。
駐車場には、数台の車が停まっている。ちょっと目を引く車もある。その持ち主に、私は会いにきた。
新型コロナウイルスの影響で、約束は何度か流れた。だから、楽しみだった。話せるのを心待ちにしていた。
彼女はゴージャスで、現役の頃とちっとも変わらなかった。
挨拶のとき、
「ずっと会いたいと思っていました」
と私は言った。
目の前で、彼女は笑った。
「ほんとうですか? ありがとうございます。私も待っていました。今日は、とても嬉しいです」
笑みを湛えた人の名前は、キャシー・リード。
差し出された名刺には、「フィギュアスケートコーチ&振付」とあり、「2010&2014冬季オリンピック出場 2008年―2015年世界選手権出場 全日本選手権アイスダンス7期連続チャンピオン」と、小さく短く経歴が添えてあった。
撮影/織田桂子
ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。
プロフィール
宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。