データで読む高校野球 2022 第3回

近江の「二刀流」山田陽翔と甲子園を沸かせた「ラッキーボーイ」たち

ゴジキ

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに感情論や印象論で語られがちである。そんな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。全6回にわたって、「春の甲子園」こと選抜高等学校野球大会(以下 センバツ)について様々な側面から分析していく。

第3回目は、出場辞退の京都国際に代わってセンバツに出場した近江の中心選手である山田陽翔の活躍と、センバツを沸かせた「ラッキーボーイ」たちに迫る。

 

急遽選ばれた近江の「四番エース」

昨年夏にベスト4入りを果たし、今大会の優勝候補にも挙げられていた京都国際。しかし、大会開幕直前に部内で新型コロナウイルスの集団感染が起き、出場辞退を余儀なくされた。

その京都国際の代わりにセンバツ出場が決まったのが滋賀の近江だ。近江もまた昨年夏にベスト4入りを果たしており、秋季大会でも強豪がひしめく近畿地区でベスト8入りした実力を持っている。その近江の注目選手が、4番エースの「二刀流」山田陽翔(やまだ はると)である。彼は1年生の夏からベンチ入りを果たし、2年生エースとして臨んだ昨年夏の甲子園では、強豪校の大阪桐蔭や盛岡大付を抑え、日本のプロ野球のみならずメジャーのスカウトからも注目を集めた。秋季大会は肘の怪我のため登板はなかったものの、春の練習試合では投手として復帰。夏に向けて調整をしていた最中、急遽センバツに出場することになった山田は、20日(日)におこなわれた長崎日大との1回戦に先発した。

6回に先制点を含む2点を奪われながらも、その後は失点を許さず9回にチームが同点に追いついたことで、2対2のまま延長戦に突入する。延長12回までを無失点に抑えた山田は、13回表に自らタイムリーヒットを放ち、勝ち越しの口火を切った。13回裏のマウンドにも登り、13回165球完投勝利。投げて打っての大活躍だった。

 

13回表 山田陽翔が勝ち越しタイムリーを放った場面

 

山田のすごさはピッチングとバッティングだけではない。7回裏の守備では、フィールディングの上手さをみせた。内野安打になりそうなボテボテのゴロを素早く処理し、態勢を崩しながらも正確に一塁へ送球。また9回表の攻撃時、3塁にいた山田は浅いフライをレフトが捕球した瞬間、躊躇なくホームに走った。相手の好返球でアウトにはなったものの、タッチアッププレーでも好走塁をみせた。

まさに投げて打って走って守れる、山田の活躍は「センバツの主人公」ともいうべき雰囲気を醸し出しており、「二刀流」としても知名度を上げる結果となった。

 

 

7回裏 山田陽翔による素早いゴロの処理

 

9回表 3塁走者、山田陽翔の走塁

 

さらに特筆すべきは、これが突然のセンバツ出場であったということ。急な公式戦出場に向けての調整は難しいことが予想されていたが、そのような状況で素晴らしいパフォーマンスをみせたことで大舞台での強さを証明した。

 

山田陽翔 の甲子園成績(2021年夏)

投手:5試合  21回  防御率4.20

打撃:打率.353  1本塁打  6打点

 

しかし、近江が優勝を目指すには大きな課題がある。

それは、山田頼りにならざるをえないチーム状況である。

とくに現代の甲子園では、スター選手に頼った属人的なチームが優勝することはほとんどないといっていい。近年、エース1人で投げ抜いて優勝まで果たした高校は、春なら2015年の平沼翔太(現西武)を擁した敦賀気比、夏なら2016年の今井達也(現西武)がいた作新学院まで遡る。2019年夏に奥川恭伸がエースを務めた星稜や、2018年夏の吉田輝星の活躍で話題になった金足農業は、それぞれ選手層の厚い履正社と大阪桐蔭に敗れ準優勝に終わった。昨年からは1週間500球の球数制限が導入されたこともあり、1人のエースに頼るチームは、甲子園で勝ちにくくなっている。

 

近江の投手事情をみてみると、山田が怪我で登板機会のなかった秋季大会では、左腕の星野世那をはじめとした4人が登板した。しかし、下記の成績からもわかるように、山田との実力差があることは否めない。

 

近江 2021年秋季近畿地区大会 投手成績

・星野:2試合 10回2/3 防御率4.22

・副島:2試合 2回1/3 防御率7.72

・外義:2試合 2回 防御率36.0

・横田:1試合 2回 防御率9.00

 

実際、近畿地区大会は大量に点を奪われる場面が多く、初戦こそ兵庫の社に11対10で勝利したものの、準々決勝では金光大阪に6対7で敗戦を喫した。

センバツに勝ち上がるためには山田以外の投手の奮起と、大量失点を想定し、序盤から大量の援護点を取りにいく攻撃戦術が重要になるだろう。

 

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アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論

プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

 
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