データで読む高校野球 2022 第3回

近江の「二刀流」山田陽翔と甲子園を沸かせた「ラッキーボーイ」たち

ゴジキ

短期決戦に現れる「ラッキーボーイ」

センバツでは、近江の山田陽翔のようなプロ注目の選手ではなくとも、突然出場することになった控え選手が予想外の活躍をすることが珍しくない。そうした突如出てきた「ラッキーボーイ」の活躍は、チームを勢いづけて優勝に導くこともある。

代表的な選手は、2015年の敦賀気比を優勝に導いた松本哲幣(まつもとてっぺい)だろう。

松本は怪我の影響もありスタメンには名を連ねることはできない時期が長かったが、打力を買われて2年の秋季大会から徐々にスタメン出場するようになる。そして、背番号17をつけてベンチ入りした2015年のセンバツで、今まで鬱憤を晴らすかのような活躍を見せた。彼のシンデレラストーリーが始まったのは、準決勝の大阪桐蔭戦。6番ライトで先発出場した松本は、大阪桐蔭のエース田中誠也から2打席連続の満塁本塁打を放ち、圧勝する流れを作った。彼はこの試合で1試合8打点を記録。PL学園の桑田真澄と星稜の松井秀喜が持っていた大会記録、1試合7打点を更新し、歴史に名を残した。さらに松本は、東海大四(現東海大札幌)との決勝戦でも1対1の同点の8回に決勝2ラン本塁打を放ち、春夏通じて初めて北陸に大旗を運んだ。大会を通してみても、打率は5割、打点は全て準決勝と決勝での本塁打という神がかり的な活躍を果たした。松本はその後、同志社大学に進学し、卒業後も社会人野球チームエイジェックでプレー。惜しまれつつも、2021年に社会人野球から引退した。

 

松本哲幣の2015年センバツ打撃成績

打率.500  3本塁打  10打点

 

2015年のセンバツで悔しい思いをした大阪桐蔭は、2017年のセンバツでは優勝を果たす。この大会では、ラッキーボーイの活躍が優勝の原動力になった。そのひとりが、現在立教大学で主将を務める山田健太だ。彼は同学年(当時2年生)の根尾昂や藤原恭大が注目をされていたなかで、背番号13をつけてセンバツに出場。大会を通して打率.571  1本塁打 8打点の活躍を見せた。とくに、大きな活躍を見せたのは、準決勝の秀岳館戦だ。この試合は、大阪桐蔭の徳山壮磨(現DeNA)と秀岳館の田浦文丸(現ソフトバンク)が投げ合い、お互い5回まで点を許さない投手戦となった。そのようななかで、山田は6回に先制打、8回に追加点のタイムリーを放つ。結果的に、大阪桐蔭は2対1で勝利。山田はすべての得点を叩き出す大活躍をみせた。このセンバツの山田は試合を決める殊勲打が多く、影のMVPといっても過言ではなかった。

 

山田健太の2017年センバツ打撃成績

打率.571  1本塁打  8打点

 

ただ、この年の優勝を決定づけたラッキーボーイは、山田ではなかった。

大阪の高校同士のカードになった履正社との決勝。大阪桐蔭は序盤に3点をリードしていたものの、8回に追いつかれ3対3の同点で最終回を迎えた。9回にエース徳山の代打として出場したのは背番号18の西島一波。公式戦でホームランを放ったことがなかった西島だったが、履正社のエース竹田からレフトスタンドに突き刺さる勝ち越しの一発を放つ。これが決勝点となり、大阪桐蔭はセンバツ優勝を果たした。代打のホームランが決勝点となり、優勝が決まったのはセンバツ史上初の出来事だった。

このような予期せぬ伏兵の活躍も、高校野球の醍醐味のひとつだ。

今年のセンバツにはラッキーボーイが現れるのか。注目しながら2回戦以降を観ていきたい。

 

次回は3月28日(月)公開予定です。

 

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データで読む高校野球 2022

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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