100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けした
センバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。
惜しくも4年ぶりの春夏連覇を逃した大阪桐蔭
2011年から2022年までの間での期間に、春夏連覇を達成したのは大阪桐蔭、ただ一校のみ。2012年に、藤浪晋太郎(現・阪神タイガース)・森友哉(現・埼玉西武ライオンズ)の強力バッテリーを擁し、学校初の春夏連覇を達成。さらに2018年にも、高校野球史上初めて2度目の連覇を成し遂げた。
今年センバツを制覇した大阪桐蔭は4年ぶりの春夏連覇を目指したが、準々決勝で下関国際に敗退。それでも「常勝チーム」として大きなインパクトを残した。本記事では2012年と2018年の戦略を分析し、その強さの源泉に迫る。
藤浪・森の強力なバッテリーで初の春夏連覇を果たした2012年
2012年の大阪桐蔭は、夏の甲子園で一度もリードを許さず、相手を寄せ付けない力の差を見せつけた。
下記が戦績と選手の成績である。
・大阪桐蔭(2012年夏)大会戦績
決勝 :大阪桐蔭 3-0 光星学院
準決勝 :大阪桐蔭 4-0 明徳義塾
準々決勝:大阪桐蔭 8-1 天理
3回戦 :大阪桐蔭 6-2 済々黌
2回戦 :大阪桐蔭 8-2 木更津総合
・大阪桐蔭(2012年夏)選手成績
打撃成績
2 森友哉 打率.400 2本塁打 2打点
4 大西友也 打率.200 0本塁打 2打点
9 水本弦 打率.421 0本塁打 4打点
3 田端良基 打率.389 2本塁打 5打点
7 安井洸貴 打率.429 0本塁打 4打点
5 笠松悠哉 打率.353 1本塁打 5打点
8 白水健太 打率.100 1本塁打 2打点
6 妻鹿聖 打率.091 0本塁打 0打点
1 藤浪晋太郎 打率.267 1本塁打 1打点
チーム打率.295
投手成績
藤浪晋太郎 36回 49奪三振 防御率0.50
澤田圭佑 9回 5奪三振 防御率2.00
チーム防御率0.80
この年の夏の甲子園における藤浪は、歴代最高の優勝投手と言っても過言ではない。初戦から危なげないピッチングをみせ、準決勝と決勝は完封勝利を挙げた。藤浪の2番手として控えていた澤田(現・オリックスバファローズ)も、トップレベルの実力だった。主要投手2人がプロ入りするレベルの投手陣には、対戦する相手チームもお手上げの状態だったのではないだろうか。
2人の投手陣を援護する打線は、数字的な意味で派手さはないものの、西谷浩一監督 が「高校までに見てきた中で、一番いいバッター」 と評価していた森が一番に座る。初回から森に打席が回ることも、相手には大きなプレッシャーになっただろう。
2005年と2006年に夏連覇を果たした駒大苫小牧や、2010年に春夏連覇を成し遂げた興南と比較しても、この年の大阪桐蔭は選手個人の力が高いことがわかる。当時の藤浪や森のプレーを見ると、プロ野球選手が高校生と一緒にプレーしているように見えた。
そんな2012年の大阪桐蔭の勝ち上がりを振り返る。
初戦は藤浪が完投し、木更津総合に危なげなく勝利。大竹耕太郎(現・福岡ソフトバンクホークス)を擁する済々黌との3回戦では、澤田が先発する。この試合は、同点の4回に澤田が自らを援護するホームランを打ち、次打者の森も2者連続ホームランを放ったことで大竹を攻めたてる。さらに、6回には4番の田端のホームランも出て、一発攻勢で勝利した。
準々決勝は、大阪桐蔭が春に苦しめられた浦和学院に勝利した天理。天理には、近畿大会で敗れており、因縁の相手でもある。しかし蓋を開けてみると、初回から森の先頭打者ホームランから始まり、藤浪もホームランを放ち、得点を積み重ねていった。藤浪も投げては13奪三振を記録する完投勝利。8対1の大差で勝利したが、この試合の藤浪について、西谷監督が「今日は球数も少なく、藤浪を褒めてやろうと思ったら被弾。何か課題を残してくれる投手です」(「週刊ベースボール 第94回全国高校野球選手権大会総決算号」ベースボールマガジン社)。とコメントしたのが印象的だった。
準決勝の相手は明徳義塾。サイドスローから最速145km/hを投じる右腕、福永智之は、6月の練習試合で大阪桐蔭を苦しめた。しかし大阪桐蔭は福永から、初回に田端の犠牲フライで先制。6回に連打で3得点を積み重ねた。明徳義塾は、福永が5回まで1失点と好投していたことから、継投が後手になり、6回に追加点を許す形になった。大阪桐蔭先発の藤浪は、2安打完封と完璧に近いピッチングで決勝にコマを進めた。
決勝の相手は、センバツでも決勝で顔を合わせた光星学院。2011年夏から3季連続で甲子園の決勝に進んでいた光星学院は、この年プロに行くことになる田村龍弘(現・千葉ロッテマリーズ)・北條史也(現・阪神タイガース)を主軸に据え、念願の東北勢初の優勝を狙っていた。準々決勝では、田村・北條のコンビで桐光学園の松井裕樹(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)を攻略。このコンビは準決勝までチーム22打点のうち17打点を叩き出していた。しかし決勝で藤浪は、田村と北條から2奪三振ずつ奪い、2安打に抑えるピッチングで春夏連覇を成し遂げた。
圧倒的な強さを誇った2012年の夏で大阪桐蔭が唯一危なかった試合は、大阪府予選決勝の履正社戦。この試合ではそれまで1失点ピッチングだった藤浪が、8回に履正社打線から連打を浴び追い上げられた。
そのような危機を潜り抜けたためか、甲子園の戦いは初戦から決勝までパーフェクトに近いものだった。甲子園の観客も、大阪桐蔭が凄すぎるが故に、静かに見守るしかない、といった様子だった。
この優勝から大阪桐蔭は、甲子園で「勝って当たり前」と見られる常勝チームになったと言っても過言ではないだろう。
100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。
プロフィール
野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。