データで読む高校野球 2022 第11回

甲子園「連覇」の戦略史③

ゴジキ

春2連覇と春夏連覇を同時達成。「最強世代」と呼ばれた2018年


2018年の大阪桐蔭は、二刀流で甲子園を沸かせた根尾昂(現・中日ドラゴンズ)や4番打者として活躍した藤原恭大(現・千葉ロッテマリーズ)がチームの中心となり「最強世代」と呼ばれた。

2012年も磐石な体制で優勝をしたが、この世代はプロ入り選手がなんと4人。根尾、藤原に加え、投手の柿木蓮(現・北海道日本ハムファイターズ)と横川凱(現・読売ジャイアンツ)もドラフト指名され、侍ジャパンU-18代表にも、柿木、根尾、藤原とキャッチャー小泉航平(現・NTT西日本)、サード中川卓也(現・早稲田大学)の5人が選出された。2018年の大阪桐蔭メンバーのなかで、プロ入りをせずに進学した選手たちも活躍しているのを見ると、「最強世代」の名前にふさわしいチームだったことがわかる。

下記が戦績と選手の成績である。

・大阪桐蔭(2018年夏)大会戦績

決勝  :大阪桐蔭 13-2 金足農

準決勝 :大阪桐蔭 5-2 済美

準々決勝:大阪桐蔭 11-2 浦和学院

3回戦 :大阪桐蔭 3-1   高岡商

2回戦 :大阪桐蔭 10-4 沖学園

1回戦 :大阪桐蔭 3-1 作新学院

・大阪桐蔭(2018年夏)選手成績

打撃成績

7 宮崎仁斗  打率.435  1本塁打  5打点

9 青地斗舞  打率.400  0本塁打  4打点

5 中川卓也  打率.280  0本塁打  4打点

8 藤原恭大  打率.462  3本塁打 11打点

6 根尾昂    打率.429  3本塁打  5打点

3 石川瑞貴  打率.250  1本塁打  6打点

4 山田健太  打率.316  0本塁打  3打点

2 小泉航平  打率.263  0本塁打  1打点

1 柿木蓮    打率.000  0本塁打  0打点

チーム打率.328

投手成績

柿木蓮  36回   39奪三振 防御率1.00

根尾昂  13回   13奪三振 防御率4.15

横川凱  5回     9奪三振 防御率1.80

チーム防御率1.83

柿木・根尾・横川の3本柱は、左右のバランスもあり、全員プロ入りした投手陣だ。全員がかなりの実力があるので、非常にバランス良く投手運用ができていた。

下記が投手陣のイニングと球数の内訳だ。

柿木

1回戦   9回105球

2回戦   1回24球

3回戦   4回66球

準々決勝 4回50球

準決勝   9回155球

決勝      9回112球

根尾昂

2回戦     8回119球

準々決勝  5回95球

横川凱

3回戦     5回78球

3回戦までは全投手先発させて大会中の調子を見た上で、結果的に柿木が準決勝と決勝は完投している。さらに各投手の登板間隔を、1〜2戦目は中6日、2〜3戦目は中2日にすることで、先発をローテーション化していた。

野手陣を見ても、根尾と中川は複数のポジションを守れるため、ユーティリティプレイヤーとして起用されていた。

高校野球でありながら、先発投手のローテーション化や中心選手のユーティリティ化などプロ野球のような戦略を取り入れていたのである。どの高校よりも勝利しながら、選手マネジメントや戦略性も高いことを見ると、大阪桐蔭が常勝チームたる所以がわかる。

実際、2018年の大阪桐蔭は個人の力のみならず、選手マネジメントも素晴らしかった。

センバツ後の4月から5月におこなわれた春季大阪大会では、怪我やコンディションに配慮して、エースの柿木や4番の藤原をベンチ外にしながらも大会を制する。続く春季近畿地区大会では藤原恭太が復帰したものの、柿木と宮崎抜きでこの年のセンバツ決勝で対戦した智弁和歌山を下して優勝した。ちなみにセンバツから試合に出続けていたのは、中川・根尾・山田・青地の4人のみ。主力以外も起用しながら、春季大会を勝ち抜いた。この時点で、選手層が厚く主将・中川を中心にチームとしての完成度は相当高かった。

この夏の大阪桐蔭の勝ち上がり方を振り返ると、大阪府予選は非常に苦しい試合がいくつかあった。それが顕著に現れたのが、準々決勝の金光大阪戦と準決勝の履正社戦だ。

まず、金光大阪戦ではスライダーの切れ味鋭い左腕の久下奨太と鰺坂由樹を交互に投げさせる小刻みな継投策に、わずか2点しか得点できなかった。

準決勝の相手の履正社は先発として、今大会初先発の濱内太陽を起用。大阪桐蔭にとっては想定外の起用だったことだろう。大阪桐蔭は根尾が先発し、両校の先発が6回まで3安打に抑える投手戦となった。そのような状況で大阪桐蔭は、7回に藤原がチャンスを作り、根尾がタイムリーを放ち先制。青地斗舞のタイムリーなどで3点差をつけて優位に試合を進めた。

しかし履正社は、このままでは終わらず、疲れが見え始めた根尾をたたみ掛けた。7回裏に1年生ながら5番に座り、のちにチームを夏の甲子園優勝(2019年)に導いた小深田大地(現・横浜DeNAベイスターズ)の2塁打を足掛かりに1点を返す。8回裏には筒井大成、西山虎太郎の連打で1点差。その後、主将の濱内太陽の一塁ゴロで追いつく。さらに、途中出場の6番、松原任耶が浮いた球を左中間に放ち逆転に成功した。

1点ビハインドの状況で9回の攻撃を迎えた大阪桐蔭だが、焦る様子は全くなく冷静だった。代打の俵藤夏冴がヒットで出塁し、続く石川瑞貴のバントミスがあったものの、宮崎・中川・藤原・根尾の連続四球で追いつく。そして、山田がタイムリーを放ち、大阪桐蔭が逆転に成功。最後はエースの柿木が抑えてこの激戦を勝利した。

その年のセンバツ準決勝の三重戦でも劣勢の場面を跳ね返していたが、この試合も勝者のメンタリティや集中力の高さを見せつけるような戦いぶりだった。

甲子園出場後は、作新学院戦と高岡商戦は僅差の試合を勝利。沖学園戦と済美戦は逆転勝利した。僅差から逆転勝ちまでバリエーションが豊かな試合展開で勝ち上がり、準々決勝以降は優位に試合を進めていった。

準々決勝の浦和学院戦は、渡辺勇太郎(現・埼玉西武ライオンズ)を攻略して勝利。この試合は、藤原・根尾のアベック弾も出た。準決勝の済美戦は、クリーンアップに打点がなかったものの、石川・山田のタイムリーで済美のエース山口直哉を打ち崩した。

そして決勝は、この大会の「主人公」だった吉田輝星を擁する金足農業。その勢いを圧倒的な実力で跳ね返すかのように、13点を積み重ねて勝利。この春夏連覇は史上初の2度目の春夏連覇となった。前年の夏の甲子園3回戦で、仙台育英を相手に9回2死から逆転負けを喫した悔しさを翌年に晴らした。

2018年の大阪桐蔭は、ビハインドの場面を迎えても必ず追いつき逆転する姿が印象的だった。選手の能力はもちろんのこと、西谷監督と選手の冷静さはまさに「勝者のメンタリティ」を体現していたのではないだろうか。

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100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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