世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第1回

日経新聞の記事はバズったが、“緑の日傘”減少は止まらない!

大澤暁

1万6000人の署名も空しく樹木伐採は進む

 私たちは伐採予定の樹木に、木が泣きながら「助けて下さい」と言っているイラストのカードを付けて、樹木伐採計画を見直すよう求めた。記録会に参加した、神宮外苑近くの小学校に子どもを通わせる母親が、子どもたちのためにも神宮外苑絵画館前の木々を伐らないで欲しいと、オンラインで署名を立ち上げた。署名者はわずか1週間あまりで1万6,000人を超えた。

 しかし、要望は聞き入れられず、次々と神宮外苑絵画館前の木々は伐られていった。可憐な花を咲かせていたユリノキは3本とも伐採された。立派なシラカシの大木も伐られてしまった。チェーンソーの音が響くたびに、葉を繁らせた木の枝が、クレーンに吊るされて地面に打ち捨てられる。現場で見ると本当に目を疑うような光景だ。気候変動やヒートアイランドによる夏の高温化が進む都市で、私たちの頭上を覆ってくれていた“緑の日傘”が次々と伐り取られ、廃棄物としてトラックに積まれて消えていくのだ――。

切り株になったヒマラヤスギとシラカシ

 大手メディアはほとんど報道することはないが、こうした「都市の森」の破壊は、いま日本の様々な地域でじっさいに起きている。

「善福寺川緑地」調節池の建設を都が強行

 2026年5月11日、東京・杉並区。新緑の木々に包まれた善福寺川緑地で、朝8時頃から緊張感に満ちた様子で150人ほどの近隣住民たちが集まっていた。

「善福寺川緑地の樹木を守れ!」と住民たちは声をあげていた。東京都が集中豪雨対策として進めている善福寺川上流地下調節池の建設に反対しているのだ。

 善福寺川地下調節池は工期が10年以上、事業費が1,500億円を超える巨大建設事業である。緑地の樹木が伐採されるなどの理由で、近隣住民が強く反対している。

 この日は工事が開始される予定だった。工事開始の連絡は近隣住民へは告知はなく、善福寺川緑地でラジオ体操を行う団体の会長にのみ、メールで連絡があったという。

「街道側から工事車両が入ってくる」という情報が入った。住民たちは急いで街道側へ移動した。工事車両がやってくるのが見えた。何人かの住民が車両の侵入を阻止しようと工事ゲートの前に立ちふさがった。

善福寺川緑地で工事開始に抗議する住民

 その前日の5月10日には、杉並区の岸本聡子区長が善福寺川地下調節池事業に関して、ホームページで次の声明を発表していた。

  • 住民の理解がまだ十分とは言えない状況にあることを踏まえ、着工を遅らせるなどの対応をすること
  • 本格的な工事開始前までに、オープンハウス形式ではなく、落ち着いた環境で質疑ができる着座形式の説明会を開催する必要があること
  • 善福寺川緑地の樹木の保全や家屋調査については、一律の基準のみによらず、専門家の意見も踏まえながら、住民に寄り添った丁寧な対応をすること

 杉並区は副区長が5月8日に東京都に出向き、この要望を申し入れたという。こうした自治体からの要望があるにも関わらず、東京都は工事を強行的に始めようというのだった。

 結局、その日は東京都側があきらめて工事を開始しなかった。翌日も住民は朝から善福寺川の工事現場の入口の前で抗議活動を行ったが、都職員が「同じような行動をとるなら警察を呼ぶことになる」と住民に警告。現在では工事が一部始まっている。来月から樹木伐採工事も始まる予定である――。

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プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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