再開発で神宮外苑は資本に独占され“商品”となる
ここまで読んできて、釈然としない気持ちになった人もいるだろう。なぜ、もとは公園だった土地が公園ではなくされて超高層ビルが建てられるのか? なぜもとは国の土地だった場所(秩父宮ラグビー場)を使って、民間事業者が不動産収益をあげて儲けるのか? そして、なぜそのために多くの樹木が伐られるのか?
2024年7月に神宮外苑絵画館前広場で行われた集会で、経済思想家の斎藤幸平氏は次のように述べた。

「なかなか成長しない日本経済の中で、楽して金儲けをする方法、何だかわかりますか? これが再開発なんです。今までちゃんと守ってきたものを、手っ取り早く商品にしていけばいいんですね。取り壊してみたり、『MIYASHITA PARK(旧渋谷区立宮下公園※筆者注)』みたいに、今まで公園だったところに商業施設を建ててみたり。私の言葉を使えば、皆のコモンだったものを商品に変えてしまえば、そこで簡単に、しかも莫大なお金が動くわけですよ。それが今まさにここでも起きようとしている」
齋藤氏は再開発によって、今まで市民社会の共通財=コモンだった神宮外苑が、資本に独占される「商品」へと変わり、金儲けの場所になる危険性を指摘した。そして「商品」となる中で、樹木や緑地は利潤を生まない“不要なもの”として排除されていくのだ。
「百何十年前に、渋沢栄一たちの呼び掛けで、市民が献木をしたりして、この場所をみんなで作ったわけです。市民のものなんです。コモンなんです(中略)資本主義は本当に何でも商品にして一部の人たちのものにしてしまう。その結果、苦しむのは私たち庶民なわけです」(斎藤幸平氏)
神宮外苑が築かれた経緯を振り返ってみよう。明治天皇と后である昭憲皇太后を祭神とする内苑と外苑からなる明治神宮だ。
注目すべきは、内苑は国費によって築かれたのに対して、外苑は700万人以上の国民がお金を出し合って築かれたことだ。神宮外苑は、今でいうクラウド・ファンディングのように、プロジェクトに賛同した多くの国民がお金を出し合ってつくった場所なのだ。
神宮外苑の木々も国内外から献呈され、全国から有志の青年たちがボランティアで働き、杜を築いていった。神宮外苑はこのように極めて民主的な方法でつくられた場所なのだ。
戦前は「国有地」として管理され、戦後は「民主的な運営をする」という約束の下、神宮外苑の土地は明治神宮に時価の半値という破格で払い下げられ「私有地」となった。

神宮外苑再開発に関して、「私有地なのだから木を伐ろうと、開発しようと、持ち主の勝手で、関係ないやつは口を出すべきでない」という意見をよく耳にする。たしかに、現在神宮外苑の多くの場所は私有地である。しかし、これまで見てきたような経緯をふまえると、果たして完全な私有地であるといえるだろうか?
そして樹木は――今後この連載で詳しく見ていくことになるが――人間の健康や都市の環境にとって多くの利点があることがわかってきている。そのため連載の第1回記事で見たように、台湾では水や電気と同じレベルの重要なインフラと位置づけ、大規模な植樹を進めることを決めた。台湾のみならず、世界中の都市が木を植えて、増やすことにやっきになっている。東京大学名誉教授の石川幹子氏は、緑地を社会的共通資本のひとつとして位置づけ、世界の共通言語としてそれをグリーンインフラと呼んでいる。
音楽家の故坂本龍一氏は「樹々はどんな人にも恩恵をもたらしますが、開発によって恩恵を得るのは一握りの富裕層にしか過ぎません」と言った。樹木や緑地はそれだけで市民社会の共通財=コモンと言えるかもしれない。
私たちは「都市の森」を減らして金儲けをするべきなのか、それとも「都市の森」を社会の共通財として増やすべきなのか? 今、大きな岐路に立っている。
プロフィール

(おおさわ さとる)
テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。
大澤暁





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