気づいたら、どこもかしこもリアリティショーになっていた……。今回は、いつ・どのようにして、そんな状況になっていったのか、その概観を示していく。まずはリアリティショーの2大ジャンルといってもいい〝恋リア(恋愛リアリティショー)〟と〝サバ番(サバイバルオーディション番組)〟について紹介する。後で詳述するが、恋リア元年は2017年で、サバ番元年は2020年である。そこを境に一気に流行が加速していく。そしてその2大ジャンルの紹介の後に、ビジネスや政治といった他ジャンルとの〝悪魔合体〟について触れていきたい。
そもそも、ここまで多くのリアリティショーが作られることになった背景には、配信サービスの台頭がある。2015年9月にはNetflixとAmazonプライムビデオが日本でのサービスを開始。2016年にはサイバーエージェントとテレビ朝日が共同でインターネットテレビ局AbemaTV(現・ABEMA)を始動。テレビ局以外にも番組コンテンツを提供するプラットフォームが多くなったことで必然的に番組数も増加。ジャンル・対象年齢なども多様なものが作られていった。
サービス開始直後から、各配信サービスは、他サービスとの差別化を図るために、オリジナルコンテンツに力を入れるようになる。例えばNetflixは2016年に『火花』、Amazonプライムビデオは『仮面ライダーアマゾンズ』など、初期からオリジナルドラマも配信していたが、並行してオリジナルコンテンツの要となったのがリアリティショーなのである。
あわせて言えば、この2010年代の中頃は、テレビにおいて〝若者が無視されかけていた時代〟でもある。今でこそZ世代などと括られて若者向けの番組も作られるなど、揺り戻しも起きつつあるが、当時のテレビ業界はそもそもテレビ視聴習慣が根付いていて、人口的なボリュームゾーンでもある中高年齢層に見てもらう方向に舵を切りつつあった。F1層(20〜34歳女性)をはじめ、若い層に多く見られていたフジテレビが、2011年には視聴率3冠王の座から脱落。翌年にはテレビ朝日に、2016年にはTBSに年間平均視聴率で抜かれていった2010年代の流れは若者のテレビ離れの象徴だろう。
そこに現れたのが、各種配信サービスであり、さらには若者を主なターゲットとする恋リアなのである。テレビの中で見たいものが少なくなっていた若年層が、配信サービス内の恋リアやサバ番に流れていったのだ。
恋愛リアリティショーの多年齢化
ここからはテレビでも人気コンテンツだった恋愛リアリティショーが、配信でも台頭していく流れについてみていきたい。
テレビにおける恋愛リアリティショーの代表格といえば『あいのり』(1999年~2009年・フジテレビ系)だろう。
ラブワゴンという番組が用意した車に乗った男女が世界中を旅しながら恋をし、告白が成功し両思いになれば2人で帰国するというこの番組は若者を中心に絶大な人気を博することになる。フジテレビの月曜日の21時からの『月9』と呼ばれるドラマ、22時からの『SMAP×SMAP』、23時からの『あいのり』という流れは、タイムテーブル通りにテレビを見ていた時代、そしてフジテレビが若者を魅了していた時代の象徴的な番組リレーだったと言っていいだろう。
『あいのり』に出演していたのは基本的には一般の男女だったが、そこに芸能人という要素を加えたのが『恋するハニカミ!』(2003~2009年・TBS系列)だ。番組が用意したハニカミプランと呼ばれるデートプランに沿って、芸能人の男女1組がデートをおこなう。芸能人同士だし、デートプランも設定されているし、本当の恋愛のわけがない……と思いつつも、どこまでがリアルなのかをわかりにくくさせるその設定の妙に視聴者は熱狂。ときに塩谷瞬のようにデートプランに書かれていないハグなどの行為までしてしまう出演者が出るような回も存在し、こちらも大いに人気を博した。
若者を中心に人気となった〝テレビにおける恋リア時代〟の2大巨頭といっていい両番組だが、実は2009年の3月という同じタイミングで終了している。このあと、若者のテレビ離れが叫ばれるようになる2010年代に突入するのも象徴的だ。テレビだけで恋リアが大人気だった時代はこの2番組とともに終了する。
テレビ時代から配信時代の橋渡しとなったのが『テラスハウス』だ。男女が共同生活をするこの番組は2012年から2014年にフジテレビで放送された後に、2015年から番組終了までの5年間はNetflixで配信されて人気に。基本的には無名の男女が出演するのは『あいのり』の流れを汲むが、初期はAKB48の北原里英らも出演しているなど『ハニカミ』的な要素もあった。テレビ番組だったものが配信コンテンツになる。当時の感覚だと〝格落ち〟のように感じた人もいたかもしれないが、結果的にはむしろ逆だった。テレビで流れてきたから見る層ではなく、わざわざこの番組を選んで視聴する熱心なファンがいることを証明できた配信時代のほうが長く番組は続き、盤石な人気を獲得することになる。
Netflixと組むことで、世界 190か国に配信されることになり、軽井沢が舞台となった『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』は、米・TIME誌が発表した「2018年のベストテレビ番組」の6位にも選出されるなど、評価も高かった。恋リアは、配信サービス上でも多くの視聴者を獲得できることを証明したのが『テラスハウス』なのだ。
前述のように、多くの配信サービスが日本で始動し、差別化を図ろうとする中でAmazonプライムが『バチェラー・ジャパン』を開始したのが2017年だ。テレビでもCMが大量に流れるなどの大規模な宣伝活動や、海外での撮影などの規模感はアマゾンの本気を感じさせた。この番組は年1配信でシリーズ化し、男女逆転版の『バチェロレッテ』まで含めると、2025年現在、計9シリーズが作られ、今の恋リア人気の中核を成すコンテンツである。
さらに同じ2017年にはABEMAが『今日、好きになりました。』『オオカミには騙されない』シリーズといった、主に10代をターゲットとした番組を制作。地上波テレビをほとんど見ない10代でも、この番組には熱狂し、そこから山之内すず・高橋文哉といった人気者も輩出した。
(ちなみに恋リア出演後の2019年に仮面ライダーに選ばれた高橋文哉に加え、この数年は、『今日、好きになりました。』シリーズ出身者が2作連続で仮面ライダーを務めたり、戦隊シリーズも2021年から2022年にかけて駒木根葵汰や樋口幸平ら『オオカミくん』シリーズ出身者が連続で出演するなど、ABEMAのこの2本の恋リア出演者が選ばれるケースが増えている。戦隊ヒーロー・仮面ライダーシリーズへの出演が若手俳優の登竜門になっているのは永井大・オダギリジョーが出演した2000年からの傾向だが、20年のときを経て、これらの恋リアが、いわば〝登竜門の前にくぐる門〟になっているのである)
この頃、学校や職場での話題の中心がテレビ番組ではなく、これらの恋愛リアリティショー番組になることも珍しくなくなった。決まった時間にテレビの番組を見るのではなく、配信サービスでこれらの番組を見ることが根づき始めた時代でもある。今も続くこれらのシリーズが始まった2017年が〝恋リア元年〟と言っていいだろう。
2020年に出演者の自殺というかたちで『テラスハウス』が終了し、恋リアブームも終焉に向かうかと思いきや、『バチェラー』や『今日、好きになりました。』や『オオカミ~』シリーズも、2025年現在、シリーズは継続している。その後も多くの種類の番組が作られ、むしろ恋リア自体の勢いは加速していると言っていいだろう。
『バチェラー・ジャパン』や『ラブ・イズ・ブラインドJAPAN』(Netflix)のように、海外で人気を博した番組のフォーマットを輸入し、日本版として作られるものもあれば、ABEMAの恋リアや、『ウンナンのホントコ!』(TBS)のワンコーナーだったもののリブート版である『未来日記』など日本オリジナルのものもあり、その両輪で、日々新たな視聴者を開拓し続けている。
近年では出演者全員がセクシー女優、出演者全員が元カノと元カレ、といった、設定の凝った、更にニッチなジャンルのものも作られている。
さらには2023年に『あいのり』スタッフによって制作された『あいの里』(Netflix)は、出演者が30代から60代までいて従来の恋リア出演者より世代が上だ。現在の恋リアは10代から60代まで、幅広い世代の出演者の恋愛が見られるコンテンツとなっており、それに応じて視聴する年齢層もどんどんと広がってきているのである。もはや、恋リアは若者だけが見るものではないのだ。
広がりは年齢層だけではない。恋リア番組にスタジオ出演するお笑い芸人・ニューヨークの屋敷裕政と、さらば青春の光の森田哲矢は「港区女子みたいな人がめっちゃ見てます」(屋敷)「キャバ嬢とかにも刺さってる」(森田)と語り(テレビ朝日 『見取り図じゃん』2025年5月4日放送)様々な層に見られている実感を持っているようだ。
テレビの中に見るものがなくなった層から、そもそもテレビを見ていなかった層、そして、かつてテレビで恋リアを見ていた層まで巻き込んで、恋リアは一大コンテンツとなっている。
サバイバルオーディションが起こした新たなブーム
恋リア元年が2017年ならば、サバ番元年は2020年である。ここからは、恋リアと並ぶ人気ジャンルといってもいい、オーディション番組が盛り上がっていく流れをお伝えしていきたい。
芸能人とオーディションは切っても切り離せない関係にある。たとえば、ホリプロによるタレントスカウトキャラバンは70年代から、オスカーによる国民的美少女コンテストは80年から行われている。しかし、それらのオーディションが見せるのは、結果の部分である。基本的には「オーディションで◯◯が選ばれた」という結果のみがメディアを通して伝わっていく。
大規模なオーディションとて、結果を見せるだけでは、ファンの獲得には直接は繋がりづらい。大手事務所が箔をつけても、それは人気が出るとイコールではないのだ。例えば長澤まさみは東宝シンデレラに選ばれてから、綾瀬はるかはホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞してから、『世界の中心で、愛を叫ぶ』のヒロインとしてブレイクするまで、ともに4年の月日がかかっている。
一方で、過程を見せるのがオーディション番組だ。最終審査や結果だけではなく、選ばれるまでの過程を初期段階から見せていく。
代表的なのは、2002年まで放送されていた『ASAYAN』だ。同番組では様々なオーディションの企画が放送され、モーニング娘。にCHEMISTRY、鈴木あみ、太陽とシスコムーンなど、90年代後半から2000年代前半にかけて多くのアイドル・アーティストを生み出している。
オーディション番組を通して新たなアーティストを生み出すと、既にテレビを通して注目を集めているので、デビュー時点で人気が爆発するということも起こり得る。『男子ボーカリストオーディション』企画出身のCHEMISTRYはデビューシングルとアルバム両方がミリオンセラーになるなど大ヒットも生み出している。
オーディション番組に限らず、90年代後半から2000年代にかけては、ポケットビスケッツやSomething Else、くずに羞恥心などテレビ番組発のヒット曲が目立つ時代があった。だが、テレビの影響力の低下とともに、テレビで取り上げたからといってヒットに結びつくわけではない時代に突入していく。2010年代は、テレビではなく劇場などの〝現場〟で人気を醸成したAKB48 の時代になっていくのだが、その説明はまた別の機会に譲りたい。
オーディション番組に新たな流れ・ブームが起きるのが2020年である。それは、日本発ではなく、韓国からの輸入という形で起きる。
2020年にJO1とNiziUという2組がデビューを果たす。それぞれ『PRODUCE 101 JAPAN』と『Nizi Project』というオーディション企画で作られたグループだ。
韓国の『PRODUCE 101』シリーズのひとつで、HKT48から宮脇咲良が参加し、IZ*ONE(アイズワン)のメンバーになった『PRODUCE 48』や、他にもStray Kidsのように韓国で行われたオーディションによって結成されたグループが日本でも活躍するなど、K-POPを通してすでに馴染のあるものになりつつあった韓国のサバイバルオーディション番組。そんな土壌が開拓されていた上に放送されたこの2つの番組は『PRODUCE 101 JAPAN』が吉本興業と韓国のCJ ENM、『Nizi Project』がソニーミュージックと韓国のJYPエンターテイメントで共同開催していたこと、そして何より日本の地上波テレビでも放送があったことで、接点が増加した。特に『Nizi Project』は、在宅時間の多かったコロナ禍に日本テレビの情報番組『スッキリ』でその様子が定期的に放送されたことにより、視聴層が拡大し、人気コンテンツとなった。韓国のオーディション番組の日本版ということで、参加メンバーはほとんどが日本人だったことも、これまでの韓国のサバイバルオーディション番組より、距離感が近くなった要因だろう。
『PRODUCE 101 JAPAN』は2020年中にSEASON2の開催を発表し、そこからINIがデビュー。その後はガールズ版も行われ、『Nizi Project』もボーイズ版が開催されるなどこの2番組はシリーズ化している。
そんな流行を受けて、もちろん日本の別の事務所もオーディション番組に手を伸ばしていく。2021年にはAAAのメンバー・日高光啓(SKY-HI)が、1億円を自費で投げ売ってオーディション企画『THE FIRST』をおこなった。Nizi Projectに影響を受けての企画だったというが、これも、HuluやYoutubeで配信する以外にも『スッキリ』で放送されて話題に。BE:FIRSTがデビューする。
『Nizi Project』を主催する事務所の社長であるJ.Y. Parkは、候補生にかける言葉の含蓄が、SKY-HIはその熱さが話題になるなど、候補生だけではなくオーディションの審査員側のキャラクターにも注目が集まり、番組の面白さに寄与していたのも特徴だ。
こうして、2021年には、JO1・INI・BE:FIRST・NiziU……活躍する新興のダンスボーカルグループの多くが、オーディション番組出身という構図が出来上がっていく。
その後も、多くのオーディション番組が作られていくが、2024年にはちょっとした変化も見られている。
timeleszの新メンバーオーディションである『timelesz project -AUDITION-』は、あくまで〝仲間探し〟であることを強調。ちゃんみながプロデューサーを務めた『No No Girls』は、一度人生にNOを突きつけられたことのある参加者たちの良さを探していき、落ちたメンバーもともに『THE FIRST TAKE』に出演するなど、〝サバイバル〟性は薄れている。
もともと、サバイバルオーディションと銘打たれていたのは韓国発の番組なので当然といえば当然だが、現在のオーディション番組は、韓国発のもので盛り上がり、そこに日本の事務所やタレントの良さが加味されて進化し、成立していると言っていいだろう。
オーディション番組とサバイバル番組の違い
そして、テレビだけでオーディション番組が放送されていた時代と、何よりも違うのはかける時間だ。
『ASAYAN』では、1時間の番組の中でいくつかのオーディション企画を並行して取り上げていたこともあるなど、オーディションの模様が放送されるときは、あくまで番組のワンコーナーということは珍しくなかった。モーニング娘。も98年に保田圭、矢口真里、市井紗耶香の3名が選ばれた追加メンバーオーディションはその選考過程をつぶさに追うようなものではなかったし、99年のオーディションも、6月27日の番組でその実施が告知され、9月9日には新メンバー・後藤真希が加わった『LOVEマシーン』が発売されているというスピーディーなものだった。当時13歳だった後藤真希にしてみれば「中学2年生の夏休みの間に人生が変わった」ようなスピード感だったはずだ。
だが、配信時代になって、放送的な時間の制約から解き放たれ、オーディション番組に割ける時間が増加した。告知からメンバー決定まで数ヶ月以上をかけたり、1回1時間ほどの配信番組が10回以上作られたりすることも珍しくないし、内容に合わせて、時間や放送回数を増やすことも容易だ。実際『THE FIRST』はHuluでの配信が数度の延長を経て全20話に。『スッキリ』でのダイジェスト版の放送も当初の10回予定から結果的に40回ほどになったという。
時間の増加によって起きたのが〝結果で惹きつける〟から〝過程で魅せる〟ことへの変化である。
時間があることで、候補者の過去の人生や葛藤、候補者同士の関係性などにも時間を割くことができ、視聴者はより候補者に感情移入することができる。それはときに、候補者の頑張りを見て、自分もやる気を起こすなどの自己啓発的な効果も持つようになった。結果がどうなるか・誰が選ばれるのかというのが最大の関心事で、その結果で惹きつけていたテレビ時代のオーディション番組との最大の差がそこである。過程をしっかりと描くことでオーディション番組はリアリティショーになっていった――と言ってもいいだろう。
もちろん、今も、誰が選ばれるかは大事なのだが、その選ばれるまでの過程が魅力的なので視聴者は惹きつけられる。それはときに、デビュー後に「オーディションのときが一番盛り上がった」などと揶揄されることもあるほどだ。
視聴者も結果だけに魅了されているわけではないからこそ、落ちたメンバーにもファンがつく。落ちたメンバー同士でユニットを組む例もあるし、落選後にInstagramのサブスクリプション(有料会員制度)を立ち上げても、多くの会員を獲得したりもする。
また、これだけオーディション番組が多くなっていくと、ある番組に落ちた候補者が、別の番組に候補者として出演するようなケースも起きてくる。そうすると、視聴者はその候補者の人生の物語の〝続編〟を見ることができるのである。受かったメンバーと落ちたメンバーのテレビ番組などでの共演やSNS上での交流も、広い意味での〝続編〟と言えるだろう。〝過程で魅せる〟ことでより濃厚なファンができていくのだ。
かくして、事務所にとっても視聴者にとっても嬉しい、現在の新たなオーディション番組のブームと言える時代が出来上がっていったのである。
そんな〝過程で魅せる〟手法はエンターテインメント以外の領域にも使われ始めている。それが、政治とビジネスだ。
ビジネス番組とリアリティショーの悪魔合体
ここまで見てきた「恋リア」や「サバ番」は、エンターテインメントの領域である。エンターテインメントとは、極論すれば〝心を動かされる〟ことを欲して見るものである。
〝心を動かすエンターテインメント〟はよいものである――という主張は誰も否定しないだろう。
しかし、何でもかんでも〝心を動かされる〟ことを、人々はよしとしないはずだ。たとえば、それが自分の行動基準を変えてしまうとしたら――。しかも、その行動の変化がエンターテインメント以外の領域で起こるとしたら――。
オーディション番組の要素を政治に取り入れたのが石丸伸二である。2024年の東京都知事選に出馬し、インターネットを駆使して支持層を広げ、小池百合子に迫る2位にまで票を伸ばした石丸は、その後、地域政党『再生の道』を立ち上げた。2025年の都議選の候補者を決める際に、その選考の模様をYouTubeにアップ。最終面接は生配信を行った。合格発表の回までの50本の動画の総再生回数は585万回だという。
今まで、政党が候補者を選ぶまでの仕組みは基本的にはブラックボックスの中にあり、ここまで公開されたことはなかった。その意味で画期的ではあるものの、これは候補者の人柄や合格までの過程を見せることで、立候補時点でその候補を支持していることもあり得る仕組みである。
テレビの選挙報道は、公示後は、公平性を期すためという名目で、特定の候補ばかりを追いかけた特集のようなものは、自主的に規制しているのが現状だ。結果発表とともに「◯◯の選挙戦◯日」といった放送が行われることに批判の声も多いほどで、〝結果で惹きつける〟手法といっていいだろう。一方で、石丸のこの戦略は〝過程で魅せる〟ものになっている。
NHKと民放5社のテレビの選挙報道にかける時間がこの20年で半減しているという一方、(TBS『報道特集』2024年11月2日放送)、YouTube上では、エントリーした候補者が自分でアップする動画やその切り抜きなども含めると、増加どころか、もはや無限に増殖していっていると言っていい状況だ。
そして、ビジネス系のリアリティショーも〝過程で魅せる〟構造だ。『Nontitle』や、事業プレゼンを聞いて出資するかどうかを決める『マネーの虎』をオマージュした『令和の虎』のような起業系のリアリティショーは、実際に起業されれば、いち企業やサービスとして世に現れる。そうなると、リアリティショー自体が、その企業やサービスの壮大な物語であり、〝魅力的な過程〟となるのである。
これらの番組を見ることで心が動き、結果的に投票行動が変わったり、購買行動が変わったりすることは大いにあり得る話である。
もちろん、これらが面白くないと言っているわけではない。むしろ面白いからこそ、人々の心は動かされてしまう。心が動かされることで、本来熟慮した上で判断されるべき投票先や購買商品といったものまで動かされてしまうとしたら――。
そのとき、我々は単に「面白かった」と言っていていいのだろうか。これは〝悪魔合体〟と呼んでもいい組み合わせなのではないだろうか。
なぜ人間の見えるコンテンツに惹かれるのか
恋リアにしろ、サバ番にしろ、ビジネス番組にしろ、リアリティショーにハマった人の多くが「人間が見えるのが面白い」という感想を言う。
そもそもなぜ人は〝人間の見えるコンテンツ〟に惹かれるのだろうか。
それは、「神の視点」から生身の人間が見られるからである。
おそらく「自分は人間のことが完全に見えている」という人はいないはずだ。もしそれを豪語できる人がいたら、その人は、むしろ人間に関して何も見えていない人だ。
多くの人は日常生活において「人間をわかりたい」と感じているのではないだろうか。
「人間をわかりたい」とすると大きく聞こえてしまうかもしれない。だが、仕事相手は信頼できるのか、友人は本当は自分のことをどう思っているのか、恋人は別の顔を持っているのではないか……といった相手を知りたいという欲求は、自分の知らない相手がいることの怖さから生まれる、自然な感情である。
それでも、自分と接する人間の全容と本質を知るのは難しいことである。
そもそも人間は多面的なものである。ある人物の職場で見せる顔と、家族の前で見せる顔が違うのは当り前のことだ。相手が自分に見せる顔と、自分以外の人物に見せる顔が違ったとしても、それは悪いことではない。だが、〝自分以外といるときの相手〟を全部ウォッチするのは物理的にも不可能だ。基本的には〝自分以外といるときの相手〟は知り得ないものである。
また、〝人間の本質〟を私たちは見逃しがちだ。人間にはその人の本質が見える瞬間というものがある。例えば、電話をしながらお辞儀していたり、手紙を何度も書き直していたり、言葉遣いは丁寧でもモノの置き方が乱雑だったり、会社のゴミ箱にペットボトルに水が残ったまま捨てていたり……。そういった瞬間は、自分の目の前ではおきないか、もしくは起きていても見逃してしまうことも多い。そもそも、人生経験を重ね多くの人と接して〝人間の答え合わせ〟をし続けないと、どこでその人の本質が見えるかというのも感覚的にわかりづらいだろう。
だが、リアリティショーは、これらを見せてくれる。人間の多面性はずっとカメラが回っていることによって物理的に映像に収めやすいし、長くシリーズが続くリアリティショーのほとんどは人間の本質が見える瞬間を捉えそこを見せ場にしている。
例えば
・バチェラーの前では好意を匂わせる言動をしているのに、女性陣だけになるとバチェラーへの悪口大会に参加している
・ダブルデートの旅行代金を奢ってもらっているのに、感謝の示し方が足りないように見える男がいるが、その実、本当は嫌だったのに、金を持っている社長の男性に「お金出すから」と懇願されて仕方なくやって来ている
といったことは、出演している本人たちはわからない。が、視聴者には編集された映像によってわかるのだ。
つまり、本来はわかるはずのないことがわかる。これは視聴者は〝神の視点〟を与えられていると言ってもいいだろう。
さらに言えば、この〝本人たちはわかっていないけれど、視聴者はわかっていること〟の差が大きければ大きいほど、リアリティショーは面白くなる。
(余談だが、番組内でつきあったカップルが放送後に破局したり、もしくは結ばれなかった同士が放送後につきあったりするのは、自分は知り得なかった相手の姿を視聴者として得られることが原因としてあるのではないだろうか)
現実で人間を理解しようとするときに立ちはだかる2つの壁を、リアリティショーは軽々と突破してくれる。リアリティショーは、現実に自分が当事者として生きていたら知り得ない人間の姿を提示してくれる。〝わかるはずのないこと〟を見せてくれるのがリアリティショーなのだ。
企業広報に侵入するフォーマット
リアリティショーが人気になっていくのと時を同じくして、ビジネスの世界で人気となっていたキーワードがある。それが「プロセスエコノミー」と「ナラティブ」だ。
プロセスエコノミーとは、簡単にいうと「過程を見せることで人はファンになっていく」ということをビジネスパーソン向けに説いた言葉である。
尾原和啓という人物が2021年に『プロセスエコノミー あなたの物語が価値となる』という本を出しているが、同書では、起業家・けんすうの考えた言葉であると明示されている。
プロセスエコノミーは、技術が進歩し、商品の質(アウトプット)で差が出しづらい現代には、そこに至るまでのプロセスで差異を出し、ファンになってもらうことが必要だという理論だ。同書では、この成功例として、映画化や舞台化もされた物語『えんとつ町のプペル』を創ったキングコングの西野亮廣がオンラインサロンを通じてその挑戦の過程を見せ続けていることを挙げている。
もうひとつのナラティブとはどんな意味の言葉なのだろうか。PR業界で著名な本田哲也は、『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』という本の中で、ナラティブとは〝物語的な共創構造〟のことだと言う。「共創」とは誰がともに作るのかと言えば、企業と生活者のことだといい、本田は「ナラティブではあなた(生活者)が主人公だ」とも言う。生活者とはPR業界や広告代理店の関係者が、我々のような大衆の消費者を指して使う言葉である。
また、同じ企業やブランドの存在意義をパーパスとも呼び、「ナラティブの起源はパーパス」とも語っている。つまり、企業社会におけるナラティブとは、企業のビジョンや存在意義を浸透させるために必要な物語性のことをいう。そして、その物語は企業だけではなく、大衆とともに創っていくものだというのだ。同書では最終的には、「ナラティブを組織の『血肉』にすること、それによって企業価値を最大化すること」を目的として論が進められる。
この本が出版されたのは2021年だが、ナラティブ・パーパスといった言葉は、この時期以降、ビジネスパーソン界隈での流行語となり、類似の本も多く出た。2024年にはNHK『100分de名著』に、神話の構造を解き明かした『千の顔をもつ英雄』(キャンベル)の解説者として戦略デザイナーが出演するほどで「物語の構造を応用して何かを売り込みましょう」という気風は浸透してきている。
まとめると、「プロセスエコノミー」と「ナラティブ」という言葉の流行は、ビジネスの世界において「過程を」「物語的に」見せることが注目を集めていることの証左だろう。
リアリティショーとは、まさに〝過程を物語的に見せるもの〟である。この2つの言葉が指し示すものはリアリティショー的だとも言えるし、けんすうが最初に「プロセスエコノミー」について説明する際に、『ASAYAN』や『Nizi Project』を例として出している(https://kensuu.com/n/nf4270e069c20)ように、それそのものだと言ってもいい。リアリティショー的な手法がビジネスの世界でも応用できると気づかれたタイミングで、このような言葉がつけられたと言ってもいいだろう。先に上げたビジネス系リアリティショーの成功例は、「プロセスエコノミー」と「ナラティブ」といった言葉が流行る前にそれに早く気づけていた人たちによるその体現でもある。この数年、企業のブランドストーリーを語る企業広告や、妙に〝エモく〟見せようとする企業のSNS投稿が目に付くようになったのも、これらの流れと無縁ではないはずだ。
前回も紹介したように、このリアリティショー的手法を駆使している株式会社yutoriは、アパレル企業として史上最年少上場を達成し、元AKB48の小嶋陽菜が代表取締役を務めるブランドheart relation社を小会社化するなど勢いがある。リアリティショー的な手法で認知を広めることは、特に俗にBtoCと言われる、大衆に向けて商品を売る企業や、もしくは人材採用の際の広報とも相性がいい。
いうならば、企業がユーザーに対して「神の視点」を提供することによって、自ら伝えたい「自社の本質」を刷り込んでいるとも言えよう。
簡単に言えば、自ら『プロジェクトX』のようなものを作っていけば、企業広報として機能する――ということである。
と、例として出してしまったが、『プロジェクトX』はあくまでドキュメンタリー番組である。
もっというと、先に恋リアと紹介してしまった『あいのり』も正確に言えば違う。
1999年放送開始時点では恋リアという呼称は定着していなかったのである。つまり、日本でのリアリティショーはあくまで〝最近のもの〟なのである。
ちなみに、『あいのり』を企画し、『あいの里』のプロデューサーでもある西山仁紫は「恋愛リアリティショーを作っているつもりは全くない」と、恋リアという呼称に拒否感を示し、『あいのり』を「(当時流行していた)ドキュメントバラエティーの系譜として制作しました」と振り返っている。「人気を博して作品が増えすぎたことで廃れていったドキュメントバラエティーが、今回のような形で再注目された」と、現在のリアリティショーブームをあくまで、ドキュメントバラエティーの延長だというスタンスを崩さない。
(Netflix『あいの里』は恋愛リアリティショーではない――『あいのり』から“人間の素”を撮り続けてきたプロデューサーが明かす制作秘話 リアルサウンドテック2023年7月27日配信)
ドキュメントバラエティーか、リアリティショーか――。
ひとまず呼称の問題はおいていて、こうは言えるはずだ。
リアリティショーは〝ショー〟の特性を持ちながらも、人間ドキュメントでもある。リアリティショーを通して、様々な年齢や職業の〝人間〟が見えてくるものなのだ。
次回は、「ドキュメントバラエティー」と呼ばれていたものが「リアリティショー」になっていくまでの歴史についてお伝えしていきたい。
(次回へつづく)

いま世界中でさまざまなヒットコンテンツが生まれている「リアリティーショー」。恋愛、オーディション、金融、職業体験など、そのジャンルは多岐にわたり、出演者や視聴者層の年齢も20代のみならず50代・60代以上にも開かれつつある。なぜいまリアリティショーが人々に求められているのか。芸能コンテンツの批評やウェブメディアの運営を行ってきた著者が代表的な番組を取り上げながら、21世紀のメディアの変遷を読み解く。
プロフィール

しもだ あきひろ
エンタメライター、編集者。1985年生まれ、東京都出身。早稲田大学商学部卒業。9歳でSMAPに憧れ、18歳でジャニーズJr.オーディションを受けた「元祖ジャニオタ男子」。大学在学中に執筆活動をはじめ、3冊の就活・キャリア関連の著書を出版した後、タレントの仕事哲学とジャニー喜多川の人材育成術をまとめた4作目の著書『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書・2019)を発売。3万部突破のロングセラーとなり、今も版を重ねている。カルチャーWEBマガジン「チェリー」の編集長を務めるなど、エンターテインメント全般に造詣が深く、テレビ・ラジオをはじめ多くのメディアに出演・寄稿している。また、音声配信サービス・Voicyでの自身の番組『シモダフルデイズ』は累計再生回数250万回・再生時間 20 万時間を突破し、人気パーソナリティとしても活躍中。近刊に『夢物語は終わらない ~影と光の”ジャニーズ”論~』(文藝春秋)。