村本:みんな自分の中のどこかにジャーナリズムの精神があるじゃないですか。「これ本当おいしいのか?」「これどこで作られたやつだ?」って知りたい、聞きたい。そういうふうに疑問を持ったり、疑ったりすることを通して見えてくるモノってあると思うんです。ところが今、権力を疑いもなく信じる人がいっぱいいる。有名な専門家でも評論家でも安倍政権を信じる人たちがいる。そもそも「信じること」って怖い気がするんですが……。
田原:いやいや、信じる人はいてもいいと思う。ただし、僕はそういう人に「でも、あなたは何で信じるんだ、こんなに問題あるじゃないか? これどうするんだ?」と聞きたいの。森友・加計の件だって、国民の70%以上が問題だと言っている。自民党の議員も幹部も問題だと思っている。ところが、自民党の幹部も議員も、誰も安倍さんに問題だと言わない。だから僕は安倍さんに直接聞いたの。「自民党の幹部や議員たちが、ひたすら安倍さんのご機嫌を損なうことを恐れているけれど、これで自民党はいいのか?」と。そうしたら彼は「困ったことだ」と言ったよ(一同笑い)。
村本:この前、沖縄に行って、沖縄の学生と話したんですが、そこで驚いたのは、沖縄でも「基地の話がタブーだ」と言うんです。そういう政治的なことを言うと「おまえそっち側のヤツか?」と変なヤツ扱いをされるんだと。もちろん、東京でもそうだし、芸人仲間にも同じことを言われます。
一方、アメリカに行くと、コメディアンが、政治を斬るショーをやってたりするわけです。スティーヴン・コルベアという人が『ザ・レイトショー』という番組で毎回、トランプを批判しているんですね。でも、日本はバラエティ番組とニュース番組、畑が真っ二つに分かれてて、バラエティでは政治的な話題には一切興味を持ってはいけない。だから、子供とかが何も考えずに笑えるものばかりやる。そのくせ、お笑い芸人がニュース番組に出ると、今度は急に何の笑いもなく、淡々とコメンテーターのように語り出す。
田原:芸能人なんてどんどん安倍の悪口言わなきゃ。ビートたけしが出た頃は盛んに言ってたよ。それで変なこと言って街宣車が来たりしてね。
村本:田原さんも『朝生』なんかで発言したら、もうボロカス言うヤツとかいるじゃないですか。ネットの掲示板とか見ても「老害がー」「もう消えろ」とか書いてある。田原さんはああいうのを見て、どういう気持ちになるんですか?
田原:見ていてくれる人がいるって、やっぱりありがたいじゃない(笑)。僕は無視されるよりは批判されるほうがいいな。というか無視されるのが一番しんどい。だから批判された時は「お、ちゃんと見てくれてるんだな」と思うよ。
そういえば昔、僕が何か言ったら、右翼の街宣車が家にいっぱい来たことがあってね。家の前でやるんじゃ近所迷惑になるから、文句のある人たちを九段会館に集めて、200人と僕とで2時間話し合ったことがある。
村本:怖くなかったですか。
田原:怖くたっていいじゃない。
村本:それで、九段会館ではちゃんと議論にはなったんですか?
田原:議論がきちんとかみ合っていたかは分からないけど、結局「お前とは考えは違うけど、お互いに国を思う心はひとつだ」って、最後はなぜか握手攻めにあったね(笑)。
取材・文/川喜田研 撮影/藤澤由加
第2回「沖縄の問題が日本人にとって“他人事”であり続ける理由」につづく
お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。
プロフィール
田原総一朗
1934年、滋賀県彦根市生まれ 早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所 テレビ東京を経て、77年にフリーに。現在は政治・経済・メディア・コンピューター等、時代の最先端の問題をとらえ、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。テレビ朝日系で87年より『朝まで生テレビ』、89年より2010年3月まで『サンデープロジェクト』に出演。テレビジャーナリズムの新しい地平を拓いたとして、98年ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞した。2010年4月よりBS朝日にて「激論!クロスファイア」開始。02年4月より母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講、未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたる。05年4月より17年3月まで早稲田大学特命教授。著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ』(講談社)『AIで私の仕事はなくなりますか?』(講談社+α新書)他多数。
村本大輔
1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。