ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 第1回

日本で言いたいことを言えないのはなぜ?

田原総一朗×村本大輔

村本:実は最近、芸人仲間の間で田原さんのことが話題になっているんです。田原さんが『朝生』でキチガイという発言をしていた件で。

田原:ああ、放送禁止用語を連発して問題になった時のことね。

村本:アナウンサーの方が謝罪をしている後ろで、田原さんが「キチガイって言ったんだよ」って叫んでたという(笑)。

田原:あれは、別に謝罪に文句を言ってたんじゃなくて、視聴者が何に対しての謝罪か分からないだろうと思って「僕がキチガイと言ったんだ」と説明してたんですよ。彼女(村上アナウンサー)の謝罪を解説するつもりだったんです(苦笑)。

村本:最近のお笑い芸人はテレビに合わせて「これ言っちゃダメ、あれ言っちゃダメ」と、勝手にブレーキ踏んでツッコんだ発言をしないんですよ。でも、田原さんは長年テレビに関わる仕事をされているのに、そういうのを全く気にしてないような気がするんです。そういう田原さんの姿を見せられて、「僕たち芸人という立場をもう一回再確認させられたよな」っていう話をしてて。

田原:気にしてないわけでもないんですよ(笑)。村本さんは若いから知らないかもしれないけれど、昔、『朝生』で、野坂昭如さんがいわゆる放送禁止用語を連発したことがあったの。確か90年代の初めだと思うけど。で、その時、僕は「本当は放送禁止用語の連発だから謝罪しなきゃいけないけど、敢えて謝罪はしない。逆になぜ放送禁止用語があるんだろうか、これを今度番組でまともにやりたい」と言ったんです。

それで、放送禁止用語というのは、ほとんどが差別用語だった。そこで、ではなぜ日本で差別があるのか、日本で一番差別を受けてきたのは被差別部落だから、番組で「被差別部落とは何なのか」と被差別部落の人に出てもらったの。

村本:それは田原さんが、知りたいからですか?

田原:知りたい。いつから被差別部落の人たちが差別されるようになったのか。なぜ差別されるようになったのか。で、その時、面白かったのは、大阪の朝日放送が「うちは放送しない」と言ってきたこと。なぜかと聞いたら、「関西は特に被差別部落の問題が深刻だからだ」と。そこで『朝生』の番組のプロデューサーと僕が大阪に行って、「放送しないのは逆に差別だぞ」と言ったんです。

村本:面白いですね(笑)。

田原:結局、大阪の朝日放送はオンエアしました。ただし、広島は放送しなかったな。

村本:そもそも、放送って自由に何でも言えないとダメなんですよね?

田原:基本的にはね。だって日本は言論の自由があるじゃない。憲法で言論・表現の自由が定められている。だから何言ってもいいんですよ。

村本:最近、その言論の自由について考えるんですけれども、自由だからといって、差別用語を言っていいわけではないですよね。でも、それを取り違えている人が世の中に多い気がするんです。

田原:そう、迷惑を被る人がいるから差別用語を言ってはいけないんだけど、ではなぜ迷惑を被るのかを、ちゃんと考えたり伝えたりしたほうがいい。

村本:日本って、昔から「臭いものにふたをする」みたいな雰囲気があるじゃないですか。たとえば昔、小人プロレス、ミゼットプロレスというのがあって、それが視聴者からの「かわいそうだ」というクレームでなくなってしまった。でも、そのミゼットプロレスをやってた人が「なんで僕たちの居場所をなくすんだ!」とコラムで書いていたんですよ。海外だったら小人の人が映画に普通に出ていたりするのに、日本はなんで見たくないものを隠すような文化になったのか。

僕、田原さんの記事で共感したのが、「放送において中立なんかない。中立は逃げだ」と書かれていたことで、だから僕も、みんな自分たちの思ったことにバンバン偏ればいいと思うんです。でも、テレビはそれでは成立できないものなんですか。

田原:僕はジャーナリストというのは「基本的に疑うもの」だと思っているのね。特に権力に対しては。だから疑うことに中立なんかあり得ない。

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第2回  
ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

田原総一朗×村本大輔

 

田原総一朗

1934年、滋賀県彦根市生まれ 早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所 テレビ東京を経て、77年にフリーに。現在は政治・経済・メディア・コンピューター等、時代の最先端の問題をとらえ、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。テレビ朝日系で87年より『朝まで生テレビ』、89年より2010年3月まで『サンデープロジェクト』に出演。テレビジャーナリズムの新しい地平を拓いたとして、98年ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞した。2010年4月よりBS朝日にて「激論!クロスファイア」開始。02年4月より母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講、未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたる。05年4月より17年3月まで早稲田大学特命教授。著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ』(講談社)『AIで私の仕事はなくなりますか?』(講談社+α新書)他多数。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

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日本で言いたいことを言えないのはなぜ?