著者インタビュー

いま小倉千加子が考えていること

7年ぶりの新刊発売! フェミニズム、保育問題、そして林遣都……

小倉千加子
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かつて『結婚の条件』で「結婚とは『カネ』と『カオ』の交換であり、女性は自分の『カオ』を棚に上げて『カネ』を求め、男性は自分の『カネ』を棚に上げて『カオ』を求めている」と看破した心理学者の小倉千加子さん。同年に発売された酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』とともに、当時、大きな話題となった。結婚観をとらえ直す、エポックメイキングな一冊として、今も読み継がれる名著だ。

あれから17年。ここ数年の小倉さんの執筆活動は決して活発とはいえない。理由は運営に携わる「認定こども園」に全エネルギーを注いでいるかららしい。しかし、鋭い眼力で見通した人や物や現象の「見方」を鮮やかに提示する唯一無二のエッセイは、東日本大震災以来の大混乱の最中にある今こそ、求められているのではないだろうか。

先ほど発売された『草むらにハイヒール‐内から外への欲求』(いそっぷ社)は、7年ぶりとなる新刊である。2008年から2014年まで『週刊朝日』で連載された「お代は見てのお帰りに」の中から117回分をピックアップしたものだ。時事ネタを取り扱う週刊誌の連載ゆえ、懐かしいニュースを料理したエッセイもあるが、全体的に今読んでも普遍的で価値があるのは、ひとえに、小倉さん自身のモノの見方や価値観、思想にブレがないからだろう。特に冒頭の中島梓、ちあきなおみ、上野千鶴子などを考察した人物評は胸を打たれる。

そんな小倉さんにインタビューを試みた。小倉さんの言葉に耳を澄ませて、ぜひ、じっくり読んでいただければと思う。

 

誰もが「犯罪評論家」になった時代

──7年ぶりの新刊です。率直にお伺いしますが、今なぜ、以前のエッセイをまとめられたのでしょうか。また、収録にあたって基準を設けたとすれば、どのような基準でしたか。

小倉 今なぜ、に関しては、単純に編集者さんから依頼を受けたからです。収録にあたっては、全部掲載すると膨大になりますので、まず編集者さんが選び、それに対して私が、これは要らない、こっちを入れたい、といくつか提案して決まりました。といっても、具体的にどれだったか、よく覚えていないですが。基準も特にないですね。原文にも手を入れていません。

──ということは、当時、ご自身が考えたものが真空パックになって手元に舞い戻ってきた感じかと思いますが、改めて読み返されたさい、どのように感じましたか。

小倉 うーん、難しい質問ですね。

──たとえば、読み手としての私は「この問題ってむしろ今のほうがひどくなっている気がするな。小倉先生は当時から、ここまで見通していたのか……さすがだ」と思いました。

小倉 こんな事件があったな、と思い出したものはたくさんあります。ただ、今から見ると大した事件じゃなかった、とも同時に思いましたね。特に家族間の事件は年々、内実がひどくなっている。だから、ああこの頃はこんな程度で自分もみんなも驚いていたんだな、と思ったんです。

 もちろん、当時の事件だってひどいですよ。だけど、それ以上にひどい事件が頻発している。そうしたなかで、昔はおののきながら事件を見ていたのに、もっとひどい事件が起きても慣れてしまっているのに愕然とした。読み返して自分で驚いたのは、そこですね。つまり、事件を見るモードが変わったんですよ。今や細かく説明されなくても「ああ、この犯人はあのタイプか」とわかってしまう。

──なるほど、目を覆うような事件が起きても、これまでの事件のいくつかのパターンに当てはまるだけ、と感じられたんですね。

小倉 そうです。私はワイドショーを観るのが好きですが、ワイドショーなどでも、次から次へと事件のニュースが流れていくから、「あれ、これはどの事件でしたっけ?」と追い付けないくらいでしょう? この連載を執筆していた当時は、ひとつひとつの事件の加害者について考えようとしていた。でも、今は誰もが「犯罪評論家」になれる状況です。別に私が書く必要はない。

──誰もが犯罪に対する豊富なリテラシーを持ってしまった、ということでしょうか。

小倉 そうですね。

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プロフィール

小倉千加子

おぐら・ちかこ

1952年、大阪府生まれ。心理学者。保育士。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士過程修了。大阪成蹊女子短期大学、愛知淑徳大学文化創造学部教授を経て、執筆・講演活動に入る。長年にわたり、本業のジェンダー・セクシャリティ論からテレビドラマ、日本の晩婚化・少子化現象まで、幅広く分析を続けてきた。現在は認定こども園を運営し、幼稚園と保育所の連携に関心を深めている。著書に『醤油と薔薇の日々』『シュレーティンガーの猫』(いそっぷ社)、『増補版・松田聖子論』『結婚の条件』(朝日文庫)、『オンナらしさ入門(笑)』(理論社 よりみちパン!セ)など多数。

 
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