プラスインタビュー

れいわ新選組はなぜ有権者の心を動かせたのか

映画『れいわ一揆』監督・原一男氏インタビュー
原一男

2019年7月に行われた第25回参議院選挙。戦後2番目に低い48.8%という投票率が大きく報道されたが、そんななか注目を集めたのが山本太郎氏率いる「れいわ新選組」の戦いぶりだ。

参院選では「消費税廃止」を掲げ、候補者には元東電社員で北朝鮮による拉致被害者の兄、女性装の東大教授、シングルマザーの元派遣社員など多様な面々を擁立し、見事議席を獲得。重度障害を持つ2人を国会に送り込んだ。

そんな彼らの17日間の選挙戦にカメラを向けていたのが、『ゆきゆきて、神軍』(1987年)、『全身小説家』(1994年)など過激なドキュメンタリー作品で知られる原一男だ。その映像は11月2日、東京国際映画祭にて『れいわ一揆』として公開される。その中身について、監督本人に迫った。

──今回、どのような経緯で『れいわ一揆』を撮ることになったんですか?

原一男(以下、原) 経緯は本当に“ひょうたんから駒”みたいな感じでした。私が毎回ゲストを招いてトークをしている「ネットde『CINEMA塾』」(YouTubeライブ番組)で、昨年、映画関係者以外の人を呼んでみようかという話になったんです。

 それで、安冨歩さんという女性装をした大学の先生がいることを聞いて、来てもらうことになりました。で、2018年に安冨さんが東松山市長選に出たときの話をいろいろ聞いてね。私、前から選挙というのは、面白そうだなって思ってたんですよ。それも、今回撮った参院選のような全国的な選挙じゃなくて、ローカルな選挙に興味がありました。立候補者と田舎の人たちとの、おそらく生臭い話がいろいろあるんだろうなって思ったんですよ。

──選挙は面白いドキュメンタリー映画になりそうだと?

原 はい。東松山市長選では安冨さんが女性装で馬を連れて歩いたり、ちんどん屋パレードをやったりしていたっていう話を聞いたのですが、そういう形で、街頭でごく普通の生活者の人たちに接していくって、どんなドラマチックな出会いになるのかなと。たぶん面白い映画になるって思ったんですよ。

 それで番組の最後に「もう一度選挙に出ることがあったら、ぜひ映画を撮らせてください」って言ったんです。半分はリップサービス。でも、あながち全部リップサービスっていうわけでもなくて、面白いだろうなと思ったんで、ぜひって言ったわけです。

──その口約束が、どのようにして実際の撮影へ?

原 それから1年がすぎ、今年6月にアメリカへ過去作の上映ツアーに行っているときに、安冨さんから突然、「原さんが撮ってくれるなら、選挙に立候補しようと思います」ってメールが来たんです。そのときは、参院選の全国区か衆院選の地方区かはまだわからないという話だったと思うのですが、私は地方選挙を撮りたかったので迷いがありました。ただ、選挙を撮らせてくださいって言ったのはこっちなので、責任感じるじゃないですか。じゃあ、安冨さんを主人公にしてやってみるかと。帰国してすぐ会いに行って、同時に撮影が始まりました。選挙の公示日よりもちょっと前のことですね。

──「ネットde『CINEMA塾』」では安冨さんの女性装と選挙についてトークをしていましたが、映画の題材として、女性装より選挙に興味を持っていたんですね。

原 女性装うんぬんよりは、選挙という形で生活者と出会うとき、そこにどんなドラマが起こるのか?という関心のほうが強かったですね。

──他に、安冨さんに興味を持ったところは?

原 安冨さんは「選挙は自己表現の手段の一つである」と言っていました。私は今まで、自分の生き方をきちんと持っていて、はっきりと自己表現する人を主人公に選んできたので、そういう意味で安冨さんは主人公になり得る人だと思ったことは確かです。

 最初から、自分はこういうことやってみたいという目的意識があって、撮られてみたいと思ってる人のほうが、カメラの前で即座にそのようなアクションをしてくれる。そこで何か葛藤があって、その度に本人を説得してとなると、違ったものになってしまう感じがありますから。

今回の映画のきっかけを作った安冨歩氏の演説風景 ©風狂映画舎

 

──『ゆきゆきて、神軍』では主人公・奥崎謙三さんが太平洋戦争から帰還後、上官や戦友を次々と訪ね、戦地で起きていた部下の銃殺などを追及する姿が描かれています。奥崎さんは原さんに「自分の姿を撮影してほしい」と依頼してきたそうですが、安冨さんはある意味同じタイプなんでしょうか。

原 まったくそのとおりです。基本ですもんね。こっちも撮ってみたい。向こうも撮られてみたい。じゃあ、やりましょうって。そのノリが一番いいと思うんです、私は。

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プロフィール

原一男

1945年、山口県生まれ。東京綜合写真専門学校中退。障害児の問題に興味を抱き、世田谷区の光明養護学校の介助員となり、1969年に障害児たちをテーマにした写真展「馬鹿にすんな!」を開催。

田原総一朗氏の著書に影響を受け、田原氏の撮影現場に出入りするうちに、ドキュメンタリーに出演。『極私的エロス 恋歌1974』で監督として高い評価を得、『ゆきゆきて、神軍』(1987年)でベルリン国際映画祭・カリガリ映画賞、パリ国際ドキュメンタリー映画賞受賞。以後、『全身小説家』(1994年)などを発表し、2018年に『ニッポン国VS泉南石綿村』を公開。この11月、7月の参議院選挙でれいわ新選組を追ったドキュメンタリー『れいわ一揆』が公開予定。

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