後輩だとは思ったことはない。ライバルです
──一之輔さんの一門は伝統を重んじる落語協会、宮治さんの一門は自由な雰囲気のある落語芸術協会にそれぞれ所属しています。昔は人気に格差があったので、プロ野球になぞらえて、落語協会はセ・リーグ、落語芸術協会はパ・リーグのように言われていた時代もありました。両協会は落語界における二大派閥ですが、気風の違いのようなものは、けっこうあるものなのですか。
一之輔 あるある。落語協会の場合、前座のうちは枕(本編に入る前の世間話のようなもの)を振るな、とか。芸協は別に構わないでしょ?
宮治 基本、振ってもいいパターンが多いですね。うちの協会は「ウケりゃいい」という空気があるので。そのあたりは緩いと言えば緩い。まあ、やり過ぎはどうかなって思いますけど。でも自分は、やってましたね。ただ、まあまあウケたぞと思ったのもつかの間、兄さんには、こてんぱんにやられるんですけど。
──「令和の爆笑王」でも。
宮治 それ、やめません? キャッチコピーがないから、そう言われているだけなんで。兄さんとご一緒させていただくときは、ひっちゃかめっちゃかじゃないけど、とりあえずがんばるんで「よし、ウケたぞ」というぐらいまでは持っていける。ただ、そう思って兄さんと交代すると必ず倍返しされて、「おまえなんて、まだまだなんだぞ」って首根っこをつかまれているような心境になる。「コラコラ、ちょっとは手を抜けよ」って思うんですけど、それが楽しいんです。やさしい先輩って、たくさんいるんですけど、そうやって目の前にでーんと立ちはだかってくれる先輩はそういないじゃないですか。自分の何倍もウケを取る人がいると「うわ、落語って果てしないな」って思えるじゃないですか。言い方が乱暴ですけど、兄さんは、僕にとっていつか倒したい敵でもあるんですよ。「いつか」なんて、来ないかもしれないんですけど。
一之輔 そこは、お互いさまですよ。
宮治 いい加減なことを言わないで下さいよ! 僕からそんな風に思わされたことないじゃないですか。
一之輔 いやいや。
──でも、ずいぶん前から、一之輔さんは宮治さんのことを「後輩だとは思ったことはない。ライバルです」と話していましたよね。
宮治 思ってない、思ってない。そんなのリップサービス!
一之輔 いや、思ってますよ。本当に。でも、一緒に出るときは、僕は戦いだとは思ってないかな。まあ、そういう面もないことはないけども、やりにくくしてやろうとか、邪魔してやろうみたいのはないですよ。宮治がウケてれば嬉しいですし。
宮治 でも一度、二人会(二人で開催する会のこと)で、袖から消火器を持って乱入してきたことありましたよね。
──ありましたね。宮治さんが一之輔さんをイジって、笑いを取ってるときに。確か「よこはま落語会」でした。しかも、一之輔さんは、肌襦袢とステテコというあられもない姿で……。
一之輔 消火器、重かった。スタッフがびっくりしてて。「どうするんですか?」って。「ちょっと撒いてきます」つったら「ダメです」って。
宮治 当たり前です! もう無茶苦茶やるからな、兄さんは。僕は「寄席のジャイアン」って呼んでるんです。
プロフィール
1978年、千葉県生まれ。落語家。日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きの抜擢で真打昇進。2010年、NHK新人演芸大賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞。2012年、2013年に二年連続して国立演芸場花形演芸大賞の大賞を受賞。寄席を中心に、テレビ、ラジオなどでも活躍。
桂宮治(かつら みやじ)1976年10月7日、東京都品川区出身。2008年2月、桂伸治に入門。2012年3月、二ツ目昇進。同年10月、NHK新人演芸大賞受賞。2021年、5人抜きの抜擢で真打昇進。「成金」メンバーでは三代目柳亭小痴楽、六代目神田伯山に続く、単独での真打昇進披露となる。2022年より日本テレビ系『笑点』の新メンバーに就任。