40代落語家の二大スターと言っていいだろう。
業界の第一勢力・落語協会の春風亭一之輔(44歳)は、滅多に人を褒めなかった人間国宝の故・柳家小三治をして「久々の大物」と言わしめた逸材。落語を初めて聴く「渋谷ギャル」を爆笑させ、その一方で、目の肥えた年配の落語通をも唸らせる。
片や第二勢力・落語芸術協会の桂宮治(45歳)は、スーパーなどの店頭販売員から30歳過ぎて落語家に転身。常にギア全開が持ち味で「令和の爆笑王」の異名を持ち、今年4月からは、長寿番組『笑点』のレギュラーにもなった。
学生時代の学年は宮治が1つ上だが、入門は一之輔の方が7年先。したがって落語界では一之輔の方が先輩になる。
一之輔が宮治のことを「後輩ではなく、ライバル」と言えば、宮治は一之輔を「もはや人間じゃないかも」と仰ぎ見る。
互いの才能を認め合う2人は、とにかく馬が合う。そんな2人のけなし合い、もとい、ジャレ合いから、落語という「禁断の果実」に手を出してしまった者たちの快楽と苦悩が垣間見える。(全4回の2回目/1・3・4回目へ)
構成/中村計 写真/今津聡子
──一之輔さんは、宮治さんがまだずいぶん若い頃から、独演会などで前座を頼んでいたのですよね。やはり、当時から見どころのある後輩だと思っていたわけですか。
一之輔 基本的に僕は落語(の腕)とかどうでもいいんですよ。前に上がってもらう人は、一緒にいて居心地のいい人ですね。楽屋とかで。まあ、一緒にいて人のことを気持ちよくしてくれる人って、高座にあがってもいいもんなんですよ。嘘ばっかり言ってるけど、ヨイショがうまいやつとか。まあ、言葉が少なくても何か雰囲気がいいやつとか。
──その見立ては、宮治さんの場合も当てはまりましたか。
一之輔 そりゃね。褒めるようで嫌だけど。
宮治 そんな質問しなくていいから! 地獄だな。
前座は前座らしく、は本当か?
──でも、想像するに、宮治さんのあとって先輩として嫌じゃないですか。いきなり、あれだけパワー全開で来られると。
一之輔 正直、上がりにくいですよ。前座の時代から、今と同じような調子だったので。
宮治 いや、一応、僕なりの遠慮はあるんですよ。前座は前座らしく、という。ただ、前座時代、うちの協会(落語芸術協会)の人には全然、使ってもらえませんでしたね。一之輔(落語協会所属)兄さんと、兼好師匠(円楽一門所属)と、竜楽師匠(左同)が僕の生活を支えてくれていました。
一之輔 そうなの? まあ、食われちゃうような後輩は使いたくないというのは、あったんじゃない? 自分より前座さんにウケられちゃったら、立場がないじゃない。
宮治 いやいや。
一之輔 それは絶対あったと思いますよ。
──でしたら一之輔さんも、前座時代は、そういう風に思われていたわけですか。「一之輔を呼ぶと、こっちが食われちゃうから使いづらい」みたいな。
一之輔 いや、僕は空気を読むんで。前座のときは前座らしい落語をしていました。
宮治 僕も、そんなにぐちゃくちゃにしているつもりはなかったんですよ。ただ、俯瞰して自分を見られなかった。当時は。今もか。
一之輔 僕は、この先輩のときは、こういう感じが喜ばれるだろうなというのがだいたい読める方だったので。
宮治 はいはい、すごい、すごい。すごいな、兄さんは(拍手)。
一之輔 でも若いうちは、宮治のように、いつでもフルスイングでいくぐらいの方がいいのかも。
宮治 フォロー上手。稲村亜美みたいなこと言ってます。
一之輔 それは神スイング。
プロフィール
1978年、千葉県生まれ。落語家。日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きの抜擢で真打昇進。2010年、NHK新人演芸大賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞。2012年、2013年に二年連続して国立演芸場花形演芸大賞の大賞を受賞。寄席を中心に、テレビ、ラジオなどでも活躍。
桂宮治(かつら みやじ)1976年10月7日、東京都品川区出身。2008年2月、桂伸治に入門。2012年3月、二ツ目昇進。同年10月、NHK新人演芸大賞受賞。2021年、5人抜きの抜擢で真打昇進。「成金」メンバーでは三代目柳亭小痴楽、六代目神田伯山に続く、単独での真打昇進披露となる。2022年より日本テレビ系『笑点』の新メンバーに就任。