対談

【前編】偶然が引き寄せた「継承」の対話──家具と伝統工芸、時を繋ぐ二人の「再会」

大塚久美子×塚原龍雲

物は「心」と「自然」を繋ぐ媒体である

大塚 物は単なる物体ではないんですよね 。物は作った人と使う人を繋ぐ「媒体」であり、そこには作った人の気持ちが宿っている。

塚原 まさに久美子さんに教わった感覚そのものです。

大塚 料理も同じで、味の良し悪しを超えて、作り手の心が伝わってくる瞬間があるじゃないですか。日本のものづくりは特に自然との繋がりが深くて、自然の中に出来上がりの姿を見出すような、独特の精神性があります。それを受け継いでいくことは、前に使っていた人、あるいは自然そのものとの繋がりを意識することでもある。

塚原 おこがましいのですが、出会う前は大塚家具という「場所」に、出会ってからは久美子さんにかけてもらう「言葉」を通して、その物との向き合い方を教えていただきました。久美子さんのご著書の最後の方でも触れられていますが、物を使うことが「自己実現の手立て」に繋がるという考え方。僕の著書でも引用させていただいたチャーチルの「建物が人を作る」という言葉は、まさにその象徴です。

「我々は建物を形作り、その後、建物が我々を形作る」とは、イギリスの首相を務めたウィンストン・チャーチル(一八七四〜一九六五年)の言葉だったと思うが、僕たちも工藝の持つ美しさやユニークさをその空間が持つ特徴やビジョンと相互作用させることで、そこで過ごす人々の豊かな時間を支えていけたらと思う。

(『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか』78頁)

大塚 チャーチルの言葉、ご著書で拝見して、私も講演などで人にとっての住空間の意味について話す時に引用しているなぁと思いました。

塚原 いえ、久美子さんに教えてもらったんですよ(笑)。物を持つことは、自分なりの価値基準を醸成する「自己実現の手立て」になる。そうした大塚家具のDNAを、広い意味での後継者として継がせていただきたいと思っています。

「一回目の承継」が最も難しい

大塚 事業承継の話に移りますが、実は「スタートから次(2代目)」への引き継ぎが、一番難しいと言われています。塚原さんがお付き合いされている伝統工芸の世界は、10何代目という方も多くて、すでに「継承のサイクル」が確立されていますよね。

塚原 はい。職人さんたちは自分が先代から継いだ時の苦労を知っているから、次へバトンを渡す際も継ぐ側の気持ちがわかる。これは久美子さんのご著書に書かれていた「創業者から2代目へ」のケースとは、少し葛藤の種類が違うなと感じました。

大塚 そうなんです。戦後の高度経済成長期に生まれた多くの日本企業は、今まさに「初めての承継」という壁にぶつかっている。昔は家業を継ぐことは当たり前の運命でしたが、今はそれが大きな「選択」になってしまった。自由なようでいて、実は非常にエネルギーが必要な時代なんですよ。

塚原 僕は創業社長ですが、久美子さんの本を読んで「自分も(子離れできない創業者に)なっちゃいけない」と自分を戒めました(笑)。僕はエグジット(企業の創業者や経営者、出資者が保有する株式を売却し、投資した資金を回収すること)を考えているわけではなく、どちらかというとアイデンティティが会社と重なるタイプなので。でも幸いなことに、僕がバトンを渡す頃には、今の昭和世代が直面している問題の「2周目、3周目」の知恵が社会に蓄積されているはず。それは先人たちが苦労して道を切り拓いてくれたおかげだと思っています。

大塚 継続すべきは形ではなく「DNA」だと思うんですね。塚原さんがおっしゃるように、そこに「心」が伝わっていくことが何より大事です。塚原さんのような若い世代が、ビジネスの論理だけでなく、こうした思想を持って活動されていることに、私は日本の未来への希望を感じています。

(続く)

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関連書籍

後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える
なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想

プロフィール

大塚久美子

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科特別招聘教授。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

塚原龍雲

(つかはら りゅううん)
2000年生まれ。高校卒業後、米国の大学に入学。留学先で日本文化の魅力と可能性を再認識したことをきっかけに「KASASAGI」を創業。日本の美意識で世界を魅了することを掲げ、伝統工芸品オンラインショップ「KASASAGIDO」や、伝統技術を建材やアートなどの他分野に応用する「KASASAGI STUDIO」を展開。インド仏教最高指導者佐々井秀嶺上人の許しを得て出家した、インド仏教僧でもある。著書に『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想』(集英社新書)。

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