対談

【中編】「使い捨て」の終焉、そして「経年美化」の思想へ

大塚久美子×塚原龍雲

インドでの出家と、職人さんへの「恩返し」

大塚 塚原さんのその真っ直ぐな精神の背景には、驚きのエピソードがありました。インドで突然出家されたと知った際は本当に驚きました。初めてお会いしたときは普通の若者だったのに、ある時待ち合わせ場所にオレンジ色の袈裟を着たスキンヘッドの人が歩いてきて……あの時はさすがにパニックになりました(笑)。

塚原 そうですよね。でもあの時は久美子さんも松葉杖をついていらしていて、オレンジの袈裟の僕と松葉杖の久美子さん。客観的に見れば、神保町の街角でかなり怪しい二人組でしたね(笑)。実はあの頃、僕は創業して数年が経ち、数字を追うことばかりに必死になって、自分を見失いかけていたんです。そんな時、ご縁があって、インドに佐々井秀嶺上人を尋ねることになり、「お前は何のために会社をやっているのだ」と厳しく問われました。

大塚 そこで、答えは見つかったのですか?

塚原 はい。真っ先に浮かんだのは、全国の職人さんたちの顔でした。僕が未成年で創業したとき、実績も信用もなくて、どこからもお金を借りられなかった。そんな僕を信じて、形もないうちから数百万円を「前金」として振り込んで助けてくれたのは、職人さん(草履屋の菱屋さん)だったんです。各地を回る僕を下宿させ、ご飯を食べさせてくれたのもゆく先々の職人さんたちでした。なんなら、僕の下着までおかせてもらって、洗濯までしてもらって……。僕が今ここにいるのは、彼らのおかげです。だから、職人さんが喜ぶ意思決定をすること。それが僕の揺るぎない価値基準になりました。

香川漆芸の危機と「さくらヘリテージクラフト」の挑戦

大塚 その塚原さんの「前金で職人を助ける」というエピソードは、実は私の今の活動にも大きなヒントとなったんです。コロナ禍直後に香川漆芸の素晴らしい技法を持つ家具メーカーが倒産した際、私は言葉を失うような状況を耳にしたんです。

塚原 熟練の職人さんたちが、技術を活かせない環境に追い込まれていたんですよね。

大塚 はい。長年、漆とともに生きてきた熟練の職人さんたちが、ハローワークで全く畑違いの仕事を勧められるような状況です。これでは宝物のような技術が消えてしまうどころか、職人としての誇りまで奪われてしまいます。そこで立ち上げたのが、社団法人「さくらヘリテージクラフト」です。

塚原 お声かけをいただいて、僕は今、その理事を務めさせていただいています。そこで僕も救われた「前金システム」で資金を募ったんですよね。

大塚 そうなんです。何とか彼らの技術を繋ぎたい。でも単なる寄付では持続しません。そこで、「まだサンプルも何もないけれど、この技術を未来に残すための挑戦に、前金を出してくださるサポーターはいませんか」と募ったんです。ありがたいことに、海外のコレクターの方が「その心意気を買いたい」と、商品ができる前に手を挙げてくださいました。今は一流のデザイナーや漆アーティストの方々にも協力いただき、ようやく新しい形での「継承」が始まっています。

塚原 まさに意気込みに賭けてもらったんですね。

大塚 ええ。単なる寄付ではなく、対等なビジネスとして「職人の技術に投資する」という形。これもまた、一つの「ヘルシー(健康的)」な関係の構築だと思っています。一人では心折れそうな活動ですが、塚原さんのような若い世代が「それが正しい道だ」と示してくれている。それが、私の支えにもなっているんです。 

(続く)

1 2
 前の回へ

関連書籍

後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える
なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想

プロフィール

大塚久美子

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科特別招聘教授。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

塚原龍雲

(つかはら りゅううん)
2000年生まれ。高校卒業後、米国の大学に入学。留学先で日本文化の魅力と可能性を再認識したことをきっかけに「KASASAGI」を創業。日本の美意識で世界を魅了することを掲げ、伝統工芸品オンラインショップ「KASASAGIDO」や、伝統技術を建材やアートなどの他分野に応用する「KASASAGI STUDIO」を展開。インド仏教最高指導者佐々井秀嶺上人の許しを得て出家した、インド仏教僧でもある。著書に『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想』(集英社新書)。

プラスをSNSでも
Instagram, Youtube, Facebook, X.com

【中編】「使い捨て」の終焉、そして「経年美化」の思想へ

集英社新書 Instagram 集英社新書Youtube公式チャンネル 集英社新書 Facebook 集英社新書公式X