著者インタビュー

朝日新聞社はまるでリアル版『半沢直樹』の世界!?

『朝日新聞政治部』著者・鮫島浩氏インタビュー【前編】
鮫島浩

直近の事件に象徴される朝日新聞の「保身体質」

――つい最近、本書で描かれているような朝日新聞の「保身体質」を象徴するような事件が立て続けに起こりました。まずは2022年7月15日、および16日付の「朝日川柳」コーナーで、安倍晋三元首相の銃撃事件を風刺する作品が投稿者の名前入りで掲載されました。しかし、ネット上で批判が燃え上がると朝日新聞社はすぐに声明文を出し、事態の鎮静化を図ろうとします。

鮫島 批判が起こることも覚悟のうえで、腹をくくってやったことだと思っていたので、正直ガッカリしたと同時に呆れ果てています。「川柳は権力を風刺する文化です。風刺にタブーはありません。私たちは新聞社として表現の自由を何よりも重視していく覚悟です」と断固主張すればいいじゃないですか。

徹底的に戦う覚悟もなく、ちょっとバッシングが起こると保身と組織防衛の観点からすぐに屈服し、一方的に謝罪してしまう。「吉田調書事件」への対応と相通ずるものが垣間見えますね。

――さらには、社会学者の宮台真司さんが朝日新聞7月19日付の朝刊およびウェブ版に掲載されたインタビュー記事「元首相銃撃 いま問われるもの」「『寄る辺なき個人』包み込む社会を」に関して、取材で答えていたはずの重要な部分が丸ごと削除されていることを明かし、物議を醸すという出来事もありました。

鮫島 朝日新聞は宮台さんに対して、「社会部の取材で確かめてからでないと掲載できない」「今回は社会部が勉強課題を負ったということで勘弁してほしい」と回答したようですね。ついにここまで来たか、という暗澹(あんたん)たる気持ちです。

これらの事件から見え隠れするのは、ただただバッシングされないように当たり障りのない紙面をつくろうという消極的な姿勢です。そして批判の兆しが見えたら、即座に謝罪をして穏便に収めようとする。もはや、表現の自由や言論の自由を守り抜こうという気概もプライドも感じられません。

――これらの出来事は、鮫島さんが当事者となった「吉田調書事件」の延長線上にあると考えて良いのでしょうか?

鮫島 そう考えて問題ないでしょう。注目すべき点があります。伝統的に、朝日新聞社は政治部と経済部が経営陣の中核を占め、人事権を行使する体制が続いてきました。

しかし2014年の「吉田調書事件」で政治部出身の木村伊量(ただかず)社長が辞任を余儀なくされ、大阪社会部出身の渡辺雅隆(まさたか)社長が就任した後、朝日新聞社内では社会部の影響力が一気に増大します。要職を社会部出身の官僚的で内向きな人たちが固め、それまで権勢をふるっていた政治部・経済部は冷や飯を食わされる形になったわけです。

現在の社長は政治部出身ですが、いまだに主要ポストは社会部が押さえていて、影響力は衰えていません。「社会部の確認が必要」「今回は社会部が勉強課題を負ったということで」という言葉がありますが、ここからは社会部の影響力と強権が見え隠れするようです。

つまるところ、なんということはない、背景にあるのは実にくだらない派閥抗争や社内統制なんですよ。

いまや朝日新聞記者のSNSは社内で厳しく監視されていて、会社批判をするとすぐに見つかって警告を受ける。反抗すると左遷人事が待っているようです。私の在籍中から個人のtwitter投稿への介入はありましたが、状況はますます悪化し、息苦しい組織になっているみたいですね。

このあたりのより詳しい事情について知りたければ、是非とも『朝日新聞政治部』を読んでみてください(笑)。納得感があると思いますよ。

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プロフィール

鮫島浩

(さめじま ひろし)

ジャーナリスト。1971年生まれ。京都大学法学部卒業。佐藤幸治ゼミで憲法を学ぶ。1994年に朝日新聞社へ入社。つくば、水戸、浦和の各支局を経て、1999年から政治部に所属。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家を幅広く担当し、2010年に39歳で政治部次長(デスク)に。2012年に調査報道に専従する特別報道部のデスクとなり、翌年「手抜き除染」報道で新聞協会賞を受賞。2014年に福島原発事故をめぐる「吉田調書」報道で解任される。2021年に退社してウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を創刊し、連日記事を無料公開している。

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