自己管理を怠らない、徹底したストイックさ
――ユーミンは今年デビュー50周年を迎えましたが、これまでのお付き合いを通じて印象深いことは何ですか?
武部 僕が音楽監督をやるようになってから、アリーナツアーをやったり、ロシアのサーカスとコラボレーションした「SHANGRILA」をやったりとか、ステージはどんどん巨大化していきましたけど、その一方で苗場みたいな小規模な場所でも毎年ライブをやってきました。要するにCDをリリースしない年はあっても、ライブをやらなかった年はないわけです。それだけユーミンはライブに重きを置いてきたんですよね、自分の活動のなかで。
だからどんなに体調が悪くても、コンサートを飛ばしたことは1回もありません。例えば本編で足をくじいて、どれだけ激痛があったとしても、アンコールはそのままやりますから。
――「38度までは平熱」とユーミンが言っているのを、インタビューで読んだことがあります。
武部 だから、いわゆるショービズに対する心構えというか、気迫みたいなものかな、それはすさまじいものがあると思いますね。その日、ステージを見にきたお客さんたちに、ちゃんと納得して帰ってもらう。そのためにステージでは毎回全力投球する。決して手を抜かないし、そのときのベストを尽くす。これだけ長いあいだ一緒にやってきても、それはいまだに変わらない姿勢です。
直近の「深海の街」ツアーでも、誰よりも早く会場に入って、決められたウォーミングアップのメニューをこなして、歌う前日には絶対にお酒を飲まない、一滴も。そういう徹底した自己管理を怠らないんですよね。ストイックという言葉は彼女のためにあるんじゃないかと思うくらいストイックです。それが50年も続けてこられた、ひとつの要因でもあると思います。
プロフィール
武部聡志(たけべ さとし)
作・編曲家、音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時より、キーボーディスト、アレンジャーとして数多くのアーティストを手掛ける。
1983年より松任谷由実コンサートツアーの音楽監督を担当。
一青窈、今井美樹、JUJU、ゆず、平井堅、吉田拓郎等のプロデュース、CX系ドラマ「BEACH BOYS」「西遊記」etcの音楽担当、CX系「僕らの音楽」「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督、スタジオジブリ作品「コクリコ坂から」「アーヤと魔女」の音楽担当等、多岐にわたり活躍している。
構成・文:門間雄介(もんま ゆうすけ)
ライター/編集者。1974年、埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
ぴあ、ロッキング・オンで雑誌などの編集を手がけ、『CUT』副編集長を経て2007年に独立。その後、フリーランスとして雑誌・書籍の執筆や編集に携わる。2020年12月に初の単著となる評伝『細野晴臣と彼らの時代』を刊行した。