プラスインタビュー

武部聡志が語る 今年50周年を迎えたユーミンと音楽活動を引退する吉田拓郎の「ボーカル」の魅力とは?

武部聡志

流れ作業はしたくない、吉田拓郎のこだわり

――拓郎さんは今年限りでアルバム制作やツアー活動から撤退することを発表しています。7月には『LOVE LOVE あいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP』が放送されましたが、そのときはやはり最終回ならではの雰囲気があったんでしょうね。

武部 もちろん最後ですからね。ただ感傷的になるというよりは、わりとみんなハッピーな感じでした。部活のようなあの時間をみんな愛おしく思ってやっていたわけだし、あの時間がそれぞれのなかで宝物だったんだということを再確認できたというか。それはKinKi Kidsのふたりもそうだし、番組に参加したすべてのボーカリスト、ミュージシャンがそう感じていたと思います。あの経験がなければもしかしたらいまの自分はないと思うくらい、あの時間が自分を育ててくれたんですよね。『LOVE LOVE』に出演したことが、その後の自分の成長にどれだけ役立ったか。

――オンエアでも触れられましたが、当初は堂本剛さんが拓郎さんの『人生を語らず』を演奏するはずだったのに、リハーサルの段階で拓郎さんのOKが出ず、結局お蔵入りになった、と。そういったことはたびたびあったんですか?

武部 ありましたね。みんなで音を出してみて、これは違うと言われて、その場でアレンジを全部作り直したりとか、曲の構成を変えたりとか。単に譜面をさらって、みんなで音を出すっていう、流れ作業みたいなことはしたくないというこだわりが、拓郎さんのなかにはプライドとしてあったんでしょう。だからあそこで演奏された曲は、すべて拓郎さんの審査を通った曲だと言っていいような気がします。

――楽曲を届けるときの、拓郎さんならではの基準があるんでしょうね。次回は「本当に優れたボーカルとは?」といったテーマでお話をうかがいたいと思います。

武部 こんな話でよければ、いくらでもできますよ(笑)。

(後編はこちらから)

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プロフィール

武部聡志

武部聡志(たけべ さとし)

作・編曲家、音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時より、キーボーディスト、アレンジャーとして数多くのアーティストを手掛ける。
1983年より松任谷由実コンサートツアーの音楽監督を担当。
一青窈、今井美樹、JUJU、ゆず、平井堅、吉田拓郎等のプロデュース、CX系ドラマ「BEACH BOYS」「西遊記」etcの音楽担当、CX系「僕らの音楽」「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督、スタジオジブリ作品「コクリコ坂から」「アーヤと魔女」の音楽担当等、多岐にわたり活躍している。

構成・文:門間雄介(もんま ゆうすけ)

ライター/編集者。1974年、埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
ぴあ、ロッキング・オンで雑誌などの編集を手がけ、『CUT』副編集長を経て2007年に独立。その後、フリーランスとして雑誌・書籍の執筆や編集に携わる。2020年12月に初の単著となる評伝『細野晴臣と彼らの時代』を刊行した。

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