プラスインタビュー

武部聡志が語る 今年50周年を迎えたユーミンと音楽活動を撤退する吉田拓郎の「ボーカル」の魅力とは?

武部聡志

吉田拓郎のオリジナリティーはどこにあるのか

――次に吉田拓郎さんのお話をうかがいますが、拓郎さんとは96年にスタートしたテレビ番組『LOVE LOVE あいしてる』(以下『LOVE LOVE』、1996~2001年レギュラー放送のち3回の特別放送)以来、レコーディングやツアーも含め、長くご一緒されてきたと思います。武部さんの目から見て、拓郎さんはどんなミュージシャンですか?

武部 『LOVE LOVE』でご一緒するまでは、もっとフォークな人だと思っていたんです。自分で作詞作曲して、アコースティックギターを弾きながらひとりで歌う人は、僕のなかでフォークにくくられていたんですよね。

 ところが吉田拓郎という人は、音楽の志向性もアプローチの仕方も、全然フォークではない。ロックの要素もR&Bの要素も持ち合わせている人で、なにより拓郎さんと付き合うようになって、自分の音楽観の狭さに気づかされました。例えばこの手の曲はこういうリズムパターンが普通だろうとか、そういう音楽的な常識やフォーマットが拓郎さんにはあまり関係ないんですよね。だから僕らが思いつかないアイデアや、思いつかないようなリズムパターンを提示してくれることが多いです。

 音楽に対して、すごく自由なんでしょうね。それまでにないものを作りたい、自分にしかできないものを作りたいと思ってやってきたんでしょうし、だからこそパイオニアとして日本の音楽を変えることができた。非常にオリジナリティーに富んだものだと思うんです、吉田拓郎の音楽の世界って。それはソングライターとしてもそうだし、ボーカリストとしてもそうだし、ほかにはいない存在だと思います。

――ボーカリストとしてのオリジナリティーは、拓郎さんの場合、どんな点にありますか?

武部 あそこまで譜割りを崩して、音符にはまらない歌い方をしたのは、たぶん日本では拓郎さんが初めてじゃないですか。それまでの日本の歌詞は、ひとつの音符にひとつの文字をはめてきた。ところが拓郎さんは、ひとつの音符に平気で3つも4つも文字を乗せますから。音程やタイミングも含めて、譜面にできない歌い方ですよね。そういう部分に拓郎節みたいなものが顕著に出ていると思います。

 その歌い方に影響を受けたフォロワーもたくさんいますよね。たぶんMr.Childrenの桜井和寿くんもそうだと思うんです。音符に対する日本語のはめ方は、拓郎さんの影響が絶対にあると思う。ミスチルの場合、それをロックに乗せて、イノセンス溢れる感じに昇華していてね。

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プロフィール

武部聡志

武部聡志(たけべ さとし)

作・編曲家、音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時より、キーボーディスト、アレンジャーとして数多くのアーティストを手掛ける。
1983年より松任谷由実コンサートツアーの音楽監督を担当。
一青窈、今井美樹、JUJU、ゆず、平井堅、吉田拓郎等のプロデュース、CX系ドラマ「BEACH BOYS」「西遊記」etcの音楽担当、CX系「僕らの音楽」「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督、スタジオジブリ作品「コクリコ坂から」「アーヤと魔女」の音楽担当等、多岐にわたり活躍している。

構成・文:門間雄介(もんま ゆうすけ)

ライター/編集者。1974年、埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
ぴあ、ロッキング・オンで雑誌などの編集を手がけ、『CUT』副編集長を経て2007年に独立。その後、フリーランスとして雑誌・書籍の執筆や編集に携わる。2020年12月に初の単著となる評伝『細野晴臣と彼らの時代』を刊行した。

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