プラスインタビュー

武部聡志が語る 今年50周年を迎えたユーミンと音楽活動を撤退する吉田拓郎の「ボーカル」の魅力とは?

武部聡志

ユーミンは物語を伝えるストーリーテラー

――武部さんは音楽監督として、ユーミンの曲の世界観をどうとらえてきましたか?

武部 例えば『ひこうき雲』という曲は“死”を扱った曲じゃないですか。そういうものって、日本のポップスのなかでは今まであまりなかったものだし、ユーミンの書く詞にはいろいろな角度のテーマがありますよね。あるときは“生と死”、あるときは“恋愛”、またあるときはもっと大きな“人類愛”みたいなものにフォーカスを合わせたりする。異国の地に連れていってくれるときもありますね。おそらく彼女はさまざまなこと――旅をしたこと、絵画を見たこと、映画を見たこと――などにインスパイアされて、それを自分の言葉として紡いできたから、たくさんのタイプの歌があるんです。曲のバリエーションの多さでは、たぶん日本一でしょう。

 ユーミンのやってることは、ストーリーテラーとして物語を伝えるということなんだと思います。その点は荒井由実だったころと大きく違っていて、荒井由実時代は自分の目に見える景色やティーンエイジャーの壊れそうな心を紡いでいましたよね。だけど松任谷由実になってからは、俯瞰で物事を見るというか、自分の経験だけでなく架空の世界を詞に綴るようになった。何だろう、映画監督のような目を持ってるのかもしれませんね。ワンコーラス目はこのカメラのアングルから、ツーコーラス目は違うカメラのアングルからというように、ひとつのストーリーを立体的に歌詞にすることができる方じゃないかなと思います。

――じゃあ武部さんは、そのストーリーをライブでどう表現するかをずっと考えてこられた。

武部 そうです。だからそのストーリーがよりグッとくるように、ライブではディスクより派手にする部分もあるし、具体的にいえば決めを増やして、ライティングとの相乗効果でアタックを付ける部分もあるし、いろいろな手法がありますよね。ライブにおいては、ストーリーをよりわかりやすく、スケールをより大きくして届けるということに主眼を置いてきました。

次ページ 感情を抑えて歌うほうが、物語は伝わる
1 2 3 4 5 6 7
次の回へ 

プロフィール

武部聡志

武部聡志(たけべ さとし)

作・編曲家、音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時より、キーボーディスト、アレンジャーとして数多くのアーティストを手掛ける。
1983年より松任谷由実コンサートツアーの音楽監督を担当。
一青窈、今井美樹、JUJU、ゆず、平井堅、吉田拓郎等のプロデュース、CX系ドラマ「BEACH BOYS」「西遊記」etcの音楽担当、CX系「僕らの音楽」「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督、スタジオジブリ作品「コクリコ坂から」「アーヤと魔女」の音楽担当等、多岐にわたり活躍している。

構成・文:門間雄介(もんま ゆうすけ)

ライター/編集者。1974年、埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
ぴあ、ロッキング・オンで雑誌などの編集を手がけ、『CUT』副編集長を経て2007年に独立。その後、フリーランスとして雑誌・書籍の執筆や編集に携わる。2020年12月に初の単著となる評伝『細野晴臣と彼らの時代』を刊行した。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

武部聡志が語る 今年50周年を迎えたユーミンと音楽活動を撤退する吉田拓郎の「ボーカル」の魅力とは?