世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第3回

23万人が反対しても止められない 日本の都市開発の問題

大澤暁

今回も神宮外苑再開発の現場から、日本の都市で木が伐られ続ける理由を見ていこう。なぜ23万人超の市民が反対し、数々の著名人が声をあげ、世論調査でも約7割が反対しているのに、神宮外苑の伐採は止まらないのか? そこには日本の都市開発の根源的な問題が横たわっている。

意見しても何も変わらない「アリバイづくり」の住民説明会

 私は神宮外苑再開発に関する住民説明会にこれまでに4回参加している。最初に参加したのが2023年7月に行われた説明会だ。これは神宮外苑再開発に対する反対や疑問の声が高まったため、事業者が特例的に開いた説明会だった。

 会場となった紀尾井町のビル付近は、樹木伐採反対の横断幕を掲げる市民たちや、マスメディアの記者やテレビカメラでごった返していた。話を聞くと、説明会はメディアには非公開で行われるということだった。閉鎖的な空気を感じた。

 説明会の入り口はものものしい様子だった。案内状の提示が求められ、見せた人だけ中に入ることが許された。説明会に参加できる人を、再開発エリアの周囲380mに限っていたため、会場の外には入れない人が多く取り残されていた。中に入れて欲しいと押し問答している人もいた。

 私は再開発の説明会に参加するのは初めてだった。知人から聞いた話では、事業者が雇ったサクラがいて、再開発を持ち上げるような発言をするだろうから注意するようにとのことだった。

2023年7月の住民説明会の会場前で樹木伐採計画に抗議する人

 しかし、説明会が始まってみると再開発計画を肯定する人はおらず、質問や意見が相次いだ。心底から神宮外苑のことを心配する気持ちが伝わってきた。

「⾼層ビルが本当に必要なのですか。超⾼層ビルが建つと圧迫感があり、果たして本当に外苑が憩いの場となるのでしょうか?」

「⾵の影響はないと先ほど答えていたが本当ですか。今回も相当な⾵の影響が⽣じるかと思いますので、いい加減な説明は控えていただきたいです」

「⽊を切ることはたやすいが、100年先を⾒据えて樹⽊を育ててきた先⼈の努⼒を無にしてはならない。⼀度、⽴ち⽌まって多くの⼈の意⾒を聞いていただきたいと思います」

 参加者のほとんどがこれまで会ったことがない人だったが、神宮外苑を大切に思い、心配する気持ちは共通していた。会場には一体感が生まれ、質問や意見を言った後には、それを称えるように、周りの人たちから自然と拍手が沸き起こった。

 一方で、再開発事業者は住民からの意見に対しては「ご意⾒をふまえて検討してまいります」という答えを連発していた。本当に意見を聞く気があるのだろうか、と疑わしかった。

 説明会の時間はあっという間に過ぎた。まだ質問の手を上げている人もいたが、予定の時間を過ぎたので説明会は終了となった。説明会後に「この説明会で出た意見をもとに計画を抜本的に見直すことはあるのですか」と聞いてみた。事業者側の答えは「説明した概要、建物の配置や規模はほぼ変更できない」とのことだった。事前の報道で事業者は、再開発の「計画を直接説明して理解してもらうために開く。説明会後に計画を変えることはない」(2023年7月1日東京新聞)と答えていたが、やはりこの説明会ではどんな意見や質問をしたところで、何も変わらないのだ。では、「意見をふまえて検討する」と言っていたのは、何だったのだろうか? 住民の意見を聞かないのであれば、何のための説明会なのだろうか? 

 その後も数度、神宮外苑の住民説明会は開かれたが、常にこのパターンだった。どんなに多くの反対意見が出ても、いつも「ご意見として承ります」「検討します」というだけで、計画の大枠は変わらなかった。多くの樹木は伐られるままだったし、超高層ビルが建てられることも変わらなかった。

 私が参加したのは2023年以降の説明会だが、それ以前の説明会も事情は変わらないという。神宮外苑のすぐ近くで暮らし、地元の自治会の会長を務める近藤良夫さんは、最も初期の説明会から参加してきた。近藤さんが初めて計画を知ったのは、2019年4月に三井不動産が開いた周辺の町内会長や商店街の会長などへの説明会だった。

「三井不動産の担当者からスライドを使って説明を受けました。ラグビー場と野球場を建替えるだけかと考えていましたが、話を聞いてみると190mや185mの超高層ビルが建ち、野球場にはホテルができるということでとても驚きました」

近藤さんは地元の自治会長として全ての住民説明会に参加してきた

 近藤さんはすぐにこの計画を自治会に報告した。議論した結果、自治会としてこの再開発計画に反対することを決めた。

 それから再開発事業者は住民向けに3度の説明会を開いた。この説明会にも近藤さんは参加した。

「住民説明会は新聞の折り込み広告などで、いつどこでやりますと告知されることが多いですが、この時は説明会の案内が対象となる地域にポスティングされただけでした」と近藤さんは当時を振り返る。「そこでも出たのは反対や疑問の声ばかりです。肯定的な意見はありませんでした。説明会の予定時間いっぱいまで質問の手が上がっていました。事業者は受けきれなかった質問は、送ってもらえれば答えますと言ったので、私も2通ほど送ったら、『まだ計画が固まっていないのでお答えできない』という回答でした。説明会の中でもそんな答えばかりでした。どんな意見を言っても、暖簾に腕押しという感じで……」

 2021年12月には東京都が神宮外苑の再開発計画を公表して、パブリックコメントを募った。年の瀬のわずか2週間だったが、33通の意見が集まった。意見はすべて計画に反対するものだった。

 東京都はパブリックコメントと併せて12月14日に説明会も行った。これにも近藤さんは参加した。「コロナ禍だったので、冬なのに窓は開け放たれていました。東京都の職員はしっかり防寒具を用意していましたが、住民は寒さに震えていました。説明会は紛糾し、終了予定時間を2時間ほど超えました。ここで出たのも反対意見ばかりでした」

 このように神宮外苑再開発計画に対して、住民は当初から強く反対していたが、計画は見直されることはなかった。近藤さんは一連の住民説明会をこう総括する。「住民説明会といっても、結局は事業者が『説明会をやりました』と東京都に報告するために行った、アリバイづくりのためのものだったと思います。意見を言ってもそれで何かが変わることはありません。事業者は決められた計画を粛々と進めるだけです」

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プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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