世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第3回

23万人が反対しても止められない 日本の都市開発の問題

大澤暁

神宮外苑再開発計画を進めてきたのは「政治家」だった

 近隣住民でさえ知らないところで生まれた神宮外苑再開発計画だが、誰がどのように決めて進めていったのか、さらに歴史をさかのぼって見てみよう。

 計画が策定される経過はヴェールに包まれている部分も多い。公文書で神宮外苑再開発の話がはっきり出てくるのは2012年のことだ。

 それは東京都都市整備局の公文書で、「霞ヶ丘競技場の建替えについて(萩生田元代議士との情報交換)」という面会記録である。日時は平成24年(2012年)2月28日14時30分~15時、場所は自民党控室と書かれている。

 萩生田元代議士とは、自民党の幹事長代行を現在務める萩生田光一氏だ。当時は民主党が政権を担っており、自民党は野党、萩生田氏は落選して浪人中だった。

 この日、萩生田光一氏は東京都の都市整備局幹部だった安井順一氏と面会した。はじめは霞ヶ丘競技場(国立競技場)建替えの話だが、そこから神宮外苑全体の整備へと話題が展開していく。

神宮外苑再開発の初期の計画を推進した萩生田光一氏

[萩生田] 森元首相から「競技場建設そのものは国。しかし、都が一生懸命汗をかいてくれなければ困る。君(萩生田氏※筆者注)が文科省、NAASH(現・日本スポーツ振興センター※筆者注)、都を横断的に調整してくれ」と言われている。(別図を広げながら)日建設計がこんな案を検討している。国が踏み出すことを都が待っていたのでは遅い。

[安井] 承知しており、私の局が中心に副知事と相談しながら、内々検討している。私も日建と会い、検討作業の方向を確認している。

[萩生田] 日建もそう言っていた。広いエリアで考える必要があるし、実現する時は自民党政権に戻っている。今の機会しかここの整備はできない。

東京都公文書「霞ヶ丘競技場の建替えについて(萩生田元代議士と情報交換)」より)

 ここでは萩生田氏が森喜朗元首相(当時は衆議院議員)の指示を受けて、代理人として関係各所へ口利きに回っている状況が生々しく語られている。そして萩生田氏と東京都の安井氏は明らかに、国立競技場の建替えだけではない、神宮外苑の「広いエリア」での再開発・整備について話している。つまり今の神宮外苑再開発の元となる計画について話しているのだ。2012年という非常に早い段階から萩生田氏や森喜朗氏などの自民党の政治家が、神宮外苑再開発計画を主導してきたことがわかる。

 それがもっとはっきり示された資料も残っている。同じく東京都都市整備局の2012年5月15日「神宮外苑の再整備」についてというタイトルの面会記録だ。それによると東京都の佐藤広副知事(当時)と先に萩生田氏と面会した安井順一技監が、今度は森喜朗元氏と衆議院第二議員会館で会っている。

「神宮外苑の再整備について、東京都として考えているイメージをご説明に上がった」と佐藤副知事は森氏に説明し始める。

 東京都側は、神宮外苑の再整備を[STEP1]、[STEP2]と2つの段階に分けて森元首相に説明していく。[STEP1]が国立競技場の建替え。[STEP2]が現在行われている神宮外苑再開発だ。注目すべきは。この2012年の時点から神宮外苑再開発の基本的な構想ができている点である。

[安井] オリンピック終了後に第二段階の整備をスタート、第二球場跡地に恒久サブトラック、神宮球場とラグビー場の敷地の入れ替えの利点(明治神宮所有地の商業的な利用増進、両競技の中断を回避、ラグビー場の芝の養生)、青山通り沿道の民間再開発の動向、外苑前駅地下道の延長可能性等について説明。

[森] 佐藤さん、すばらしい案じゃないか。長生きしないと。サブトラックもここがいい。(神宮球場とラグビー場の入れ替えについて)ラグビー場の芝もその通りだし、新競技場とサブトラックに近いほうがいい。港区は喜ぶんじゃないかな。

[佐藤] 明治神宮の協力が必要。

[森] 相手が神様だから大変だな。絵画館はどうするの?

[安井] 銀杏並木からの眺めを含め絵画館周辺の景観は維持する。

[森] 不吉なことを言うようで悪いけど、 もしこっち(オリンピック招致) が×になったらどうする?

[佐藤] 神宮外苑全体の再整備は進める。·

[安井] 都市計画変更の調整は全体の再整備を前提に進める。

[森] すばらしいよ。あと15年は長生きしないと。

東京都公文書「神宮外苑の再整備について」より)

森喜朗氏は神宮外苑の再整備計画を聞き喜んだ(写真:首相官邸HP

 森氏との面会では明確に、神宮球場と秩父宮ラグビー場の敷地を入れ替えて建て替えるという、現在の再開発計画の形が明確に示されている。オリンピック招致が失敗しても、「神宮外苑の再整備は進める」としていることから、当初からオリンピックよりも、神宮外苑全体の整備に重点が置かれていたことがわかる。

 余談だが、2025年に国立競技場で世界陸上が開催された際に、大きな問題となったサブトラックがない点だが、この2012年の時点では明治神宮第二球場跡地に建設されることが想定されていた。しかし、2014年の再開発のイメージ図からはサブトラックは姿を消す。代わって入ってきたのは、三井不動産が所有することになる高さ約185mのオフィスビルだった。

 東京都の佐藤副知事と都市整備局幹部の安井氏は、森喜朗氏と面会したこの日、もう一人の大物政治家も訪ねる。「都議会のドン」と言われた自民党の内田茂氏(2022年死去)だ。内田氏も当時は落選中で都議会議員ではないにも関わらず、その威光は衰えず、自民党都連幹事長の座にとどまっていた。

 森氏と面会した3時間後、2012年5月15日17時~17時20分、都庁内の自民党控室にて、佐藤副知事と安井氏は「神宮外苑の再整備(案)」の資料を手に報告を行った。森氏にしたのと同じ内容だ。

 内田氏は資料説明については「了解」した上で、東京都側に2点要望を出した。ひとつは現時点での説明は自民党会派の重鎮2名にとどめること。もうひとつは、地元議員への説明はもう少し計画が醸成した後の方が良く、地元区へ出ていく前に再度、自分へ相談することだ。計画を少人数にしか知らせず、地元の議員へ説明に出ていく時には自分を通すように言ったのは、この件は自分が預かるという意思の表れだろう。そして、黒塗りにされているが、渋谷区や新宿区など地元区へ説明する際には、誰を交えた方が良いかといった具体的なアドバイスも行ったことが記されている。

(東京都公文書「神宮外苑地区の再整備に係る報告について」より

2012年5月15日の東京都幹部と内田茂氏の面会記録

 2007年から石原都政下で5年にわたり副知事を務め、2012年12月から1年間都知事を務めた猪瀬直樹氏は、2023年4月に神宮外苑再開発に関して次のように述べている。

「神宮外苑の樹木の伐採には僕も反対です。(中略)樹木の伐採を含めた再開発計画は、文科省の天下り団体・日本スポーツ振興センター(JSC)と文教族のドン・森喜朗元首相らの肝入りで推し進められた。そこに都議会のドン・内田茂らが絡み密かに練られた。その後、変更の余地は残されていなかったわけでないが小池都政はさわぬ神に祟りなし(ママ※筆者注)、であった」(猪瀬氏X投稿より)

都知事・副知事を務めた猪瀬直樹氏は自民党の大物、森・内田氏により推進されたと指摘

 猪瀬氏は副知事、都知事として当時の事情をよく知る人物である。おそらくこれは神宮外苑再開発計画が水面下で進められてきた過程を、かなり正しく指摘しているだろう。文教族の実力者として君臨した森喜朗氏、その下で働き、文科大臣を務めた萩生田光一氏、そして都議会のドン内田茂氏、これらの自民党の政治家が中心となって神宮外苑再開発計画は推進された。

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 第2回

プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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